表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/3152

汗散る去り散る (ファンタジー・ヒューマンドラマ/★★)

 おお、つぶらや、お疲れさん。

 1500メートル走ってうんざりするよな。しかも、なんでウチの学校は冬にやるんだよ。生徒が心臓麻痺になってもいいのかっつーの!

 しかも、俺の場合はサッカー部だから上位5位に入れだの、顧問がうるせー、うるせー。俺たちのクラスが陸部を始めとする、走りのプロな運動部がひしめいているのを、ご存知ないのかよ……。

 5分切るか切らないかが、上位5位のラインっていうの、勘弁して欲しいんですけどねえ!

 4分台で走るお前も、相当なもんだけどな?

 ふっ、まあな。これでも選考会の代表とかに選ばれたら面倒だから、8割か9割くらいのパワーでやってるんだぜ。10割出せば、学年でも指折りになれるだろうが、身体のお手入れがめんどい。

 これでもチームじゃフォワード任されてんだ。いざという時、走れなくて試合に負けました、なんて戦犯だからな。

 走れる奴も、走れない奴も悩み多き持久走。何が起こるか分からん。

 まだ最後尾がゴールするまで時間がある。ちょっとだべろうぜ。


 これは俺の親父の話になる。

 当時のクラスの先生が陸部の顧問。それも昔ながらのスポ根精神の持ち主でな。独力でやりきるまでは、いつまでもやらせる先生だった。

 給食とかでなかったか? 全部食べ終わるまで、掃除の時間でも食事させる先生。

 あれ、アレルギーとかあったらやばいし、配膳のおばちゃんに迷惑かかるし、自己満足で迷惑かけんじゃねえ、と俺は思うがね。

 まあ、先生が若い頃にどんな苦労をしたかは知らん。社会の闇に触れるまでの予行演習の可能性もあるが……経験したことないがきんちょには、理不尽以外の何物でもないな。

 その教育方針のせいか、持久走もギブアップを認めてくれなくてな、何分かかろうが走り抜かされるんだ。

 ぬるい生徒と、甘い親は持久走の時期、体育の時だけ休めるように、あれこれ策略を巡らせたらしいな。


 そんで、親父の友達に、めちゃくちゃ厳格な家で育った子がいたんだ。

 文武両道が家訓だ、と言っていてな。「流した汗は、俺の力になる」としょっちゅう言っていたらしい。

 勉強はできるし、運動神経も悪くないんだが、ただ一つの弱点が持久走。もっと言えば、持久力が必要な競技が苦手だった。

 短距離走とかの、瞬発力が試されるのはいいんだがな。乳酸が発散されにくい体質なのかもしれん。

 毎年毎年、1500メートル走では無様を晒した友達は、親に言われたのさ。


「持久走、常時、上位五指に入れ。そうでなくては、許さん」


 許さん、の内容がどんなもんかは分からんが、普段は落ち着いている友達が顔を赤くしていたところを見ると、思い出して力が入るくらいの何かだろう、と。

 不幸中の幸いで、次の体育は日曜日を挟んだ月曜日。つかの間のインターバルだ。親父にとっては、友達の刑の執行が伸びた風に見えたって、言っていたな。

 親父も走るのは得意だったから、少しでも友達の力になろうと、ロードワークに誘ったんだと。何もやらないより、マシだと思ってな。

 ところが、日曜日にそいつは家にいなかった。一人でどこかに出かけてしまったらしい。何でも毎年駅伝が行われている、町に向かったんだとか。

 トレーニングか、願掛けでもするのだろう、と親父は思った。

 今みたいに、携帯がないから連絡が取れず、友達を心配することしかできなかったと、親父は言っていたな。


 そして、迎えた月曜日。持久走直前。全員が位置につく。

 親父は友達を見やる。顔色が悪かったが、親父の視線に気づくと、にやりと笑ったらしい。いかにも策あり、という感じだった。

 そして、スタートの合図。友達は一気に先頭集団に潜り込んだ。

 飛ばしている。だが、その走りでは400メートルも持たないぞ、と親父は見ていて思ったらしい。

 中距離での失速ほど、怖いものはない。スピードを失えば、疲れという重りを科せられた身体を、何百メートルも引きずることになる。

 だが、友達のペースは落ちない。800メートルを過ぎても、ペースが安定している。順位も6,7位。スパートを考えれば、目標の5位以内を狙うに、悪くないポジションだ。

 それどころか、すぐ後ろから見守るように追走している、親父を徐々に引き離していく。ここに来てのペースアップなど、走ることだけに必死になりがちな、素人ができる技じゃない。


 わずか一日で、こんな走りを! と、親父は心底、驚いたらしい。

 そのままのペースを崩さず、ラストのストレート。ここに来て、友達は更にスピードを増した。もはや短距離走の時と、引けを取らない速さ。

 ペースを崩す奴らをごぼう抜きし……1位でゴールした。

 だが、さすがに力尽きたようにグラウンドに寝転がっちまったらしい。クールダウンしろと担任に蹴られていたようだ。「この鬼め」と親父は心の中で毒づいたんだと。

 体育が終わった後に、先ほどの走りについて親父が尋ねると、友達はこう答えたそうだ。


「言っただろ。流した汗は、俺の力になるってな」


 それからも、友達は持久走上位であり続けた。翌日には筋肉痛になっていたけどな。

 あいつもすげえ努力してんだな、と親父は感動しかけたが、別の友達から聞いた言葉で、一抹の不安を抱くようになる。


 その友達が家族旅行で、タクシーに乗っていた時。

 例の友達らしき人影が、毎年、行われている駅伝のコースに転がっている石を拾ってな。

 手当たり次第に口に放り込んで、ガリガリかみ砕きながら食べていたんだってよ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ