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金、銀、人も、なにせんに (歴史・ファンタジー/★)

 今年はやけに枝を切ってある木が多いね。まとめて、枝切りを行っているのかな。

 おっと、つぶらやくん。何かおかしいところがあったかい?

 ああ、桜の木か。この桜、今年は早い時期に咲いて、あっという間に散っていっちゃったよね。

 この枝も切られている? どれどれ。

 これはすごい。切られたというより、折られたという感じだね。

 桜は切ったり折ったりしたら、まずいんじゃないか?

 確かに、そう言われているよね。けれども、冬の間に、適切な手順を踏むことで、枝切りもプラス要素にできるらしい。

 それにしたって、僕たちの腕くらいの太さはある枝を真っ向から折るなんて、人の腕力でできることじゃないね。

 熊か……あるいは巨人のしわざかな?

 なんで巨人がでてくる? ああ、ごめんごめん。僕の地元でよくある言い回しなんだよ。

 興味が湧く? へえ、わかった。休みながら話そうか。


 僕の地元は「だいだらぼっち」の伝説が残っているんだ。

 知名度は高いから、つぶらやくんも知っているだろう。日本各地で噂される、巨大な神様や妖怪だよ。

 山は彼らの仕事。湖水は彼らの足跡。貝塚は彼らの食事場所。

 正直、馬鹿らしいと、僕は思うよ。

 なんでもかんでも、そいつの手柄。誰かさんが思いつき、無駄に箔までつけちゃって、思考停止の虚飾道。

 そんなにすごく見せたいかねえ。無い背中に、荷を載せて。

 日本人が、なんでもできるスーパーマンに憧れるのって、こんなところから来てるんじゃないの。

 この風潮のためか、不可解なことを全部、「だいだらぼっち」のせいにする。僕の地元じゃよくあること。

 そして、地元の伝説がこんなものなんだ。


 戦国時代の頃の話。

 大名たちにとって、金の力は侮れなかった。ご存知の鉄砲は、買うのも使うのも金食い虫だし、城普請や道路の整備を進めるにあたって、先立つものは必須だった。

 佐渡金山、石見銀山といった名だたる金山銀山から、多くの鉱物が採掘されたんだ。

 農閑期をメインの時期として、農民たちも鉱夫として駆り出され、命がけの採掘作業が行われた。そんな血と汗と涙の結晶を、私利私欲に使い、あまつさえ自分たちを苦しめる輩が上に立てば……一揆が起きるのは当たり前だよね。

 民の反感を買わないために、より楽に入手できる方法を考えて、大名と家臣たちは頭をひねっていたみたい。


 そして、雷がとどろく台風が去った日の、朝のこと。

 家屋の被害や、出水の規模を確認するために、城の外に出た見張り役が、奇妙な物体を見つけたんだ。

 それは銀。岩のように大きい球状で、ところどころへこんでいたものの、かなりの量であることが、ひと目でわかった。

 すぐに人が集められ、銀の球を城内に運んでいく。

 検証した結果、これは紛れもなく金属の銀だとわかった。

 謎は絶えなかったものの、何かと物入りだった大名家は、さっさと自分の懐にしまいこむことにした。確かに領地経営は楽になったが、奇妙な現象が起こるようになったんだ。

 大名が保有していた銀山のうちの一つ。去年まではコンスタントに採れていた銀が、ほとんど採れなくなってしまった。

 最初は鉱夫たちの怠慢だと思い、犠牲が出るくらい酷使したみたい。だけど、本当に銀が掘り出されないことが確認され、認識を改めることになった。

 何者かが、この銀山の銀を掘りつくし、それを球状にして、城の外に置いた、という推測が成り立ったんだ。


 人間離れした、この所業を見て、多くの人が「だいだらぼっち」の仕業だと噂をするようになった。

 それからも、金銀の球が放置されるということが続き、瞬く間にこの現象は評判となったんだってさ。

 同時に、これは外敵を増やす要因にもなる。噂はあっという間に広がり、金づるを略取しようと、近隣諸国が侵略の手を伸ばしてきたんだ。

 大名たちは手にした金銀を、湯水のように使い、軍備を整えて、引けを取らない激戦を繰り広げたんだ。

 

 ここで問題だ、つぶらやくん。戦で一番腹を立てるのは誰?

 攻めあぐねる諸国の大名? 跳ね返しきれない守勢の大名?

 正解は戦わせられる農民たちでーす。

 人を鉱夫としてさんざん働かせておきながら、今度は長引く戦のはずれくじ。

 当初こそ、やけくそ気味の戦いで、敵勢を退けていた兵士たちも、厭戦ムードが漂ってきた。だけど、大名はあふれる金で、督戦の部隊も用意している。逃げる動きをすれば、後ろから撃たれかねない。

 活路が前しかない中で、後ろ向きな考えが、兵の脳裏を埋め尽くし出したんだ。

 とっとと、この馬鹿げた戦を終わらせたい、とね。


 そして、またまた暴風雨。

 奇襲をひたすら警戒させて、殿は寝所に引き下がる。

 多くの兵士がうずうずと、雨風相手に恨みを吐いて、それにこたえるかのごとく、時が経つほど、強さは増した。

 そして晴れた、翌早朝。

 いつもであれば、金銀球の並ぶ頃。

 今回並ぶは、泥まみれ。小さく汚い球ばかり。

 これには目があり、耳がある。

 両軍大将、首祭り。

 静寂破って、ここに開催。


 かくして、指揮系統を失ったこの戦は、あっけない終わりを告げた。

 戦から解放されて、気が抜けた兵士たちはそれぞれの家に戻っていく。

「だいだらぼっち」のおかげだと、誰もが感謝したらしい。


 漁夫の利狙った他大名に、あっという間に城を取られて、昔以上にこき使われる、短い間だけどもね。



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