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楽園を掴みとれ (歴史・ヒューマンドラマ/★★)

 やっほー、つぶらや。遊びに来たぞ。

 お前の会社のチラシも見たぜ。相変わらず、宣伝が熱心なところだな。まるで宗教みたいだぜ。

 提供する側が自信を持って勧めなけりゃ、誰が来てくれるんだ?

 ふ、そうだな。自分を信じると書いて、「自信」だもんな。俺はバリバリのアピールは煙たがるけれど、結果を求めるハングリー精神は、見習いたいと思うぜ。

 中途半端は見苦しいが、一流のものは、良くも悪くも気圧されるからな。下手に仕掛けても、返り討ちにされそうな、重厚さを感じることもある。


 信じることってのは、ポテンシャルを引き出すにはグッドだよな。さっき出てきた宗教は信じることに関して、規模も強さも世界トップだろう。

 幸か不幸か、今の日本はどの宗教を信じるかは、個人の自由だ。神様を巡っての争いはそうそう起こらないだろ。最も、今は二次元で信仰を集めているのか……。

 俺か? 俺は無宗教だ。

 お前たち物書きは「人間教」じゃねえの? 自分にせよ他人にせよ、何かしらをこよなく、もしくは飢えるほど愛してなきゃ、物なんか書かねえだろ。

 戦いもそうだ。心の飢えで、戦った記録。つぶらやは知っているか?


 日本の歴史の中で、小学生でも教わる宗教がらみの戦いといえば、島原天草一揆だろうな。

 キリスト教徒三十万人が繰り広げた激戦だ。

 江戸時代は将軍をトップにいただく体制。それを脅かす考えを持つ奴らは、根絶やしにしなければ、という危機感もあったろうな。

 外国から伝わってきた教えでも、こうなんだ。日本で発達してきた教えなら、その凄まじさたるや想像に難くない。

 特に有名なのが、一向一揆だろう。加賀の一揆なんかは、百年近く本願寺の勢力が支配して、信長が打ち倒すまで自治を続けていたという話だ。

 教えもシンプル。南無阿弥陀仏と唱えりゃ、極楽行きが約束される。学のある者が限られていた時代柄、分かりやすさが強い武器になって、民衆をとりこにした。

 支持の強さは、力の強さ。身体の強さは、心の強さって奴かねえ。

 だが、信ずるものが神様じゃねえケースもあったのさ。


 その国でも、一揆が起こったらしいんだ。

 知っての通り、当時の「国」という単位は、現在の「県」をいくつかに分割した一つということが多い。その中の城一つというのは、市を一つ占拠した、くらいの認識かねえ。

 で、大勢の門徒たちが城に押し寄せたんだと。

 当然、城主の兵たちも応戦したんだが、最終的に門徒たちに軍配が上がった。

 だが、門徒たちは城を奪っただけでは飽き足らず、投降した兵たちも数珠つなぎにして、なでぎりに処したらしい。

 すさまじい恨みの表現だった。そんな奴らをのさばらせていたのでは、領主の名折れということで、ただちに鎮圧のための軍勢が整えられたんだ。

 ところが、たかが農民という侮りがあったのか、領主の兵は惨敗を喫した。

 生き残った兵たちは、口々に言ったそうだ。


「あの城の兵士は、化け物だ」とな。


 更に、もう一度編成された軍勢も跳ね返された。やはり、奴らはただものではないということを、兵たちは口を揃えて連呼する。

 化け物とはどういうことだ、と問い詰めると、言葉にしても信じられない、実際の目で確かめた方がいい、とおののきながらの証言ばかり。

 とうとう、領主は重い腰を上げることにした。

 たとえ、教えに支えられた狂信者としても、その身体に刃が突き通るなら、必ず殲滅できる。その意気込みを示すかのように、選りすぐりの精兵たちを従えて、領主は奴らの乗っ取った城へと向かった。


 その戦いは、何日にも渡り、激しさを増していく。

 丘の上の本陣から、白兵戦に臨む兵士たちを眺める。領主も化け物と噂されたことに納得し、また胴震いすら覚えた。

 奴らは一歩も引かないんだ。戦いの素人集団に違いないんだが、普通の兵士ならば、あるいはのたうち、あるいは逃げ出すことを考えるであろう深手を負っても、ひるまなかったらしい。

 そして、相対した兵士が死んでもなお、めった打ちにする姿を見て、領主も覚悟を決めたらしい。

 人間として扱うのはやめる。一片の慈悲すら与えない。

 元はといえば、自分の持っていた城。構造は把握している。井戸の水源がどこにあるかも。

 領主は水源に毒を入れたんだ。飲み水全てが、城兵全ての命を蝕むように。

 そして、数々の不潔極まる物体たちを、投石機と同じ要領で城内に打ち出し続けた。空気を汚し、病をはびこらせるために。

 そして、奴らが城内の空気に耐えられず、決死隊となって飛び出してきたところを、鉄砲の集中砲火で蜂の巣にする。城を取り戻した後のことなど、微塵も考えない撃滅策だった。


 決着は着いた。もはや汚れていない場所を探すことの方が、難しくなった城内を領主は検分する。

 化け物扱いされた兵士たち。一人、二人を見て、殿様も不快さに顔をしかめた。だが十人、二十人、と増え、百人を数えるころになると、領主も兵士たちの言い分に納得する。


 彼らは、全員、奇形を患っていた。

 指の数、足の数、腕の数。それらが常人とは異なる奴らと、刃を交えていたのだ。

 中には二人が一人に無理やりくっついた、「リョウメンスクナ」を連想させる者もいた。

 彼らがどのような迫害を受けてきたか。想像はできても、筆舌には尽くしがたい。

 そして、彼らはこの城へと攻めかかった。

 自分たちだけの、安住の地を、この城に求めて。自分たちの得ることができなかったものを持ち、自分たちを蔑む連中への怒りのやり場を欲して。


 領主はその城を即刻取り壊したらしい。

 血と毒と汚物にまみれた、彼らの願った「楽園」を。



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