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私が人から欲しい物 (ヒューマンドラマ/★)

 おお、つぶらや。真夜中によく来たな、まあゆっくりしていけよ。

 なに、始発で出たいから、仮眠程度だがな?

 こいつ、人の歓迎ムードをぶち壊して、ストレス解消か? 一応、そんだけ気の置けない相手と感じてもらっている、と前向きにとらえるぜ。

 ん、棚の上のプラモがまた増えたんじゃないか?

 へへへ、さすが、鋭いな。

 例のロボットアニメ。ようやく128分の1サイズのプラモが売り出されてな。即座に確保したぜ。

 世間じゃ地雷だ、爆死確実だ、と騒いでいるが、俺の勘だとそろそろ神展開になるはずなんだ。お楽しみはこれからだぜ。


 これからって、具体的にいつからなのか?

 お前、揚げ足取りすんの、本当に好きだな。ツッコミ属性か。

 確かに物書きは、一人でアクティブライティング・ノリツッコミをしないといけないのは分かるがな。そんなだから、空気が読めないコミュ障作家が増えてんじゃねえの?

 おっと、失言だったか。それは申し訳ない。

 お前にとっての書き物は、俺にとってのプラモ集めだ。好きでやっていること。

 それに入れあげるのも当然だが、他のものに目を配る余裕も欲しいもんだ。

 寝るまでの間に、ちょっと話に付き合っちゃくれないか?


 好きなことってよ、どうして好きなのか、考えたことがあるか?

 好きなんだから、好きなんだと言われたらそれまでだ。幸せだろう。

 だが、中には人と比べて、優越感に浸りたいがため、というのもある。

 苦労と鍛錬を重ね、困難に打ち勝ち、苦汁をなめさせられた相手にリベンジ。創作でも燃える展開だろ?

 だが見方を変えれば、私怨のために力を手にして、振り回し、叩きつけているようにしか思えない。過程や理由を知らなけりゃ、なおさらだ。

 かといって、「こんな過去があったんです。だから正当性があるんです」なんて声高に主張したら、「かまってちゃんかよ」「不幸自慢ヤローめ。てめえだけだと思ってやがる」だろ。

 きれいな真実を受け入れがたいのも、神様がこさえた、人間の器の限界なのかもしれんな。


 その男は、父親が冒険家という家庭でな。父親が家を空けることが多かった。

 年に二、三回は帰ってくるんだが、友達のからかいがひどくてな。

 ガラクタとほら話を持ち帰る、ご苦労な仕事だって、言われ続けたらしい。

 そうなると、思春期の男は複雑なもんだ。

 父親がそんなザコじゃないという気持ちと、父親の言うこと成すことは意味があるのかという気持ちの板挟みになって、疑惑の始まりだ。

「おかえり」と父親を出迎える度に、対抗心を燃やしだす。


 成人してから、彼は家を飛び出してな。「世界中の宝を集めてやる!」と躍起になったんだと。ただ肩書きは「冒険家」ではなく「収集家」だがな。

 父親のすごさを証明したかったのかもしれないし、父親を超えることを目指していたのかもしれない。実際の胸の内は、彼以外の誰にも分からん。


 だが、世の中はそんなに甘くない。

 収集家ってのは、本職があった上で、道楽でやるべきもの。本職にするべきじゃないだろうな。

 彼もたちまち生活苦。歴史的に価値があると踏んでも、二束三文で買いたたかれて、食うや食わずの毎日だ。

 自分の眼がへボいのか、相手の眼がへボいのか、彼にはさっぱり分からない。この次は、この次はと、どん底でのたうち回っていた。

 世間の冷たい風にさらされ、心身を痛めつけられた彼は、次第に収集家どころか、盗掘者に成り下がっていった。

 古来より伝わる墓や遺跡を暴き出し、得たものたちを、高く買い取りそうな商人に向かって売りつける。それを繰り返し、彼は大いに金を稼いだのさ。

 かたや、偉大な考古学者。かたや、世紀の大悪党。それが彼の評判だった。

 でも、彼の根っこは変わらない。

「認められること」。その執念が、どのような外法に手を染めても、彼を突き動かしていた。


 だがな、報いって奴は、どこかで必ず来る者らしい。

 考古学者という側面がある以上、彼もいくつか出土品があったんだが、その中に現代の盗難品が混じっていたんだ。

 彼とは別の泥棒が、おそらくカモフラージュのために埋め込んだ代物。彼の成果はたびたび報道されていたものだから、本来の持ち主の目に止まることになったんだ。

 裁判にまで持ち込んで、敗北した彼の名声は地に堕ちた。自分の今までの成果も、実は盗んだ品ではないか、というゴシップにまみれ、価値を失ってしまう。

 宝からガラクタに変わった山たちに、彼の身を支える力はない。再び彼の苦労は、はした金程度の価値しか持たなくなったのさ。

 そうして、信頼を失った彼には、誰も期待を寄せなくなった。依頼や取材も途絶えたから、ギャラもあてにできない。

 そんな彼にできることは、尻尾を巻いてこそこそと、何年も連絡を絶っていた故郷に、逃げ帰ることだった。


 父親は彼を待っていた。

 胴も手足もやせ細り、杖をつかねば、歩くこともできない体でな。

 かつて、自分が張り合い、また、認めてもらおうとした父親。あの日の面影はもう、ほとんど残っていなかった。まるで、自分が集め続けた宝たちのように。

 だが、宝たちになかったものがあった。それは孤独に戦い続けた彼が、心のどこかで望んでいたもの。

「おかえり」という声。

 これを聞いて、彼は不意にボロボロと泣き出してしまったんだ。

 彼は残りの人生をそこで過ごすことになるんだが、昔、バカにしてきた旧友に話したんだそうだ。

 父親の冒険の本当の目的は、旅先で得た宝でも、思い出話でもなく。

 数えきれない「おかえり」と出会うためだったのではないか、とね。

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