表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/3150

私は聞こえる あなたの鼓動 (ホラー/★★)

 お疲れ様、つぶらやくん。今日の配送もこれで終わりだ。

 経費で落ちるし、帰りも上の道をいこうか。

 ああ、でもサービスエリアには寄らせてくれよ。どうもこの年になると、長時間の運転はこたえるんだ。


 ふう。悪いね、一服させてもらって。

 仕事をしている時の一服と、仕事をしたあとの一杯。人生の楽しみの一つだね。

 つぶらやくんも少し休んでいこうよ。帰ってから、いつもの仕事だろ? あんまり根を詰めると、疲れが分からないまま、疲れ果てちゃうよ。

 自分のことは自分が一番よくわかる、という言葉を時々目にするけど、案外分かっていないことが多いんじゃないかな。

 特に何かに力を入れている時なんか、前ばかり向いてガンガン進むものだから、周りが見えなくなっていく。そんな自分の周りを見てくれる人がそばにいてくれたら、とても素敵なことだろうね。

 更に視野を広げれば、教えてくれる相手が人とは限らない。

 つぶらやくんも元気が出てきたかい? じゃあ、少し話をしようか。


 人間の歴史で、付き合いの長い動物と言ったら、馬は真っ先に挙げられる候補の一つだろうね。

 荷物や人間そのものを運ぶために、古来から利用されてきた。人間の歴史における相棒と言っても過言ではないだろうね。

 出力を表すのに、馬力という表現をするくらい、生活に密着していた。

 そんな彼らだからこそ、色々なことが見えているのかもしれないね。


 その遊馬場では、馬からポニー、ミニチュアホースまで幅広く飼っていた。

 知っているかもしれないけど、これらの名前は種類や品種で分けられているわけじゃないよ。

 体の高さによる分類なんだ。

 乗馬以外にも、馬を飼いたいという人に、販売も行っていたみたいだよ。

 けれども、時代の流れ。

 遊馬場の経営者も、移動手段は車になっていた。速度も積載量も上だからね。

 効率と時間は、お金で買える。

 新しい「鉄の馬」と一緒に、遊馬場は経営を続けていた。


 車が使われ始めて、かなりの時間が経った。

 馬の数も増えて賑やかになり、経営者も飼料の補充のために、町に車で出かけることが多くなっていたんだ。

 ところが、その日は妙なことが起こった。

 経営者が車に乗って、走り出した時、何頭かの馬が柵伝いに、後をついてくるんだ。車が進むたび、バックミラーやサイドミラーに映る馬の数は、どんどん増えていく。

 無類の馬好きだった経営者は、何事かと思い、車を停めて馬たちに歩み寄る。

 彼らは鼻先を経営者に向かって、しきりに押し付けてきた。ブラッシングをおねだりするサインだ。

 これまた経営者の愛に火をつけてしまい、結局、その日はブラッシングデーとならざるを得なかった。

 だが、翌日も、その翌日も、彼らはブラッシングをおねだりをしてきた。

 経営者としては喜ばしいのだが、このままではいつまでも用を足すことができない。

 そこで、従業員の一人に代わりにお使いを頼んだんだね。


 しかし、従業員が乗った車が動き出すと、ブラッシングされていようがいまいが、馬たちは我先にと、車を追いかけ出した。経営主のことなど眼中にないかのようにさ。

 もしや、従業員も馬に好かれていたのか、と思った経営者。

 彼はここに勤めてまだ一週間も経っていない。この短期間にここまで馬の心を掴むことができるのであれば、すぐにでも助手に格上げしたところだ。

 従業員の車が走り去ってしまった後も、馬たちは柵越しに、ずっと車の方向を見ていたのだとか。

 その姿は帰ってくる時も同じで、みんなで押し寄せるようにして、車を出迎えしてくれたらしいよ。


 更に何日かが過ぎて、相変わらず馬たちは、車の後を追いかけてダイナミックな見送りをしてくれていた。

 このようなことが続くと、経営者も不審に思う。

 馬たちはどうして自分たちよりも、車に関心を持つのだろうか。

 従業員と相談した結果、車検には少し早いが、車を扱う業者にみてもらうことにした。

 すると、経営者たちは驚きの結果を知る。

 車の各所に、肉眼では発見できないほどの、微細なひびが入っていたのだそうだ。原因は経年劣化のため。

 どこか一つでも、本格的に亀裂が入れば車体に致命的なダメージが入る場所。それが奇跡的なバランスで、今までの運転に耐えていたんだそうだ。

 よく、気づくことができましたねえ、と業者さんは感心したんだって。

 経営者たちは、馬たちをいっそう大切に、愛情をこめて育てることを誓った。


 私も仕事が休みの時には、その遊馬場に行くんだよ。

 小高い丘の上にあって、見晴らしがいいからね。気分転換にとても最適だ。

 乗馬90分コースとかは、馬にまたがってその丘をぐるりと一周回る。

 経営者や従業員の皆さんが付き添ってくれるから、初心者でも安心だ。

 つぶらやくんもどうだい? 面白い題材に出会えるかもしれないよ。


 あ、ただねえ。夜以外で、乗馬ができない時間が決まっているから注意が必要なんだ。

 それは、飛行機が上空を通る時。

 まれに馬たちが興奮して、一斉に飛行機の後を追いかける現象が、起こるためなんだって。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ