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海を守るもの (ホラー/★★)

 うーん、お正月はいいなあ。

 こたつに入って、テレビを眺めて、気の向くままにお餅を貪る……のほほ、極楽、極楽。

 今日という日が、一年中続けばいいのに。

 おっと、新しく焼けたみたい。こーちゃん、いくつ食べる? 二つ? はい、どうぞ!


 しょうゆをつけて、のり巻いて、かりかり、もちもち、ご満悦。幸せですなあ。

 恥ずかしながら、最近まで私は、のりが海藻の一種だということを信じておりませなんです。

 海藻と聞くとわかめやこんぶのイメージで、このパリパリの物体が同類などと、思ってなかったんだよ。


 世の中、初見だと見抜けないものが多いと思わない? こんにゃくだって、イモからできているなんて、すぐには信じられなかったよ。

 大豆だって、納豆はともかく、しょうゆとか、みそも作っているなんて、多彩だよね。日本人が食べることに、どれだけこだわりを持っているかが分かるよ。

 だけどさ、元の姿は元の姿で、きちんと役割があるって話。

 お餅食べながらだけどさ、よもやま話だと思って、聞いてみてよ。


 さっき話した通り、私たちが目にする多くの食べ物って、加工されたものも含まれているよね。

 これって、ざっくばらんに言うとさ、「私たちにとって、都合の良い姿」なわけじゃん。

 あるべき見た目を捻じ曲げてさ、私たちの考える見栄えの良さ、効率の良い姿を押しつけたってことでしょ。しかも、それが役に立っているのだから、批判されるいわれもない。

 容姿の風当たりが強い世の中で、ブサイクがイケメンに整形するのは、おかしくないかも知れない。

 でも逆に、自然という大きなくくりで見れば、イケメンに部類されるものを、ブサイクに作り変えてしまったとしたら?

 これは、とある島の小さな漁村で起きた出来事。


 その漁村は、人口百人足らずで、みんなの食生活は魚介類が大きなウエイトを占めていた。

 小さい頃から釣りのやり方を仕込まれて、腹が減ったら自分で一本釣りっていうのが当たり前だったらしいよ。

 漁をして、食べて、寝る。

 基本はこれの繰り返しだったんだけど、ふとした拍子に「商い」と出会ったことから、競争が始まった。

 誰もが持っていない、自分だけの珍品を収集する。貝殻集めのような、自然の産物によるものだけでなく、装飾品を始めとする、人工の産物へと関心が移っていったんだ。

 干物、塩辛、各種の海藻。

 多くの人に親しまれるために、姿を変えていく命たち。それは人々の暮らしを豊かにしていったのは、確かだったんだけどね。


 ある朝のこと。

 海岸に一匹の、大きな魚が打ち上げられていたんだ。

 それはサメ。

 言わずと知れた、海の恐怖の一つ。時には、人の命さえも奪う、水面下の脅威。

 その危険な狩人が、呼吸のできない陸の上に、打ち上げられていたから、みんなびっくりしたみたい。しかも全身にわかめを巻きつけながら。


 一部の年寄りは気味悪がったけれど、結局は、若さが押し勝った。

 サメもわかめも、食料として胃袋に、金づるとしてふところに、それぞれ収まることになったんだ。

 それからも時々、色々な魚が海藻にくるまって、海岸に打ち上げられたことがあったらしいよ。

 その度に、天からの恵みだって、多くの人はほくほく顔をする人が多かったけれど、とうとう気味の悪いことが起こった。

 

 わかめにくるまって、水死体が陸に打ち上げられたんだ。いや、戻ってきたって表現が正しいかな。

 その漁村では、命の源は海にあるって考えだった。だから、命を終えた時には海に還るということで、水葬が行われていたんだ。

 現世に帰還を果たした、水死体。あちらこちらを魚に食われて、中途半端に腐敗が進んだ、それはそれは、ひどい有様だったって話だよ。

 たまらずに、人々はそれを海に送り還したんだ。


 ところがね、時間が経つと戻ってくるんだよ、その死体。海藻に巻かれて、一層、腐った姿になってさ。

 何度繰り返しても、結果は同じ。

 しかも、村人の中には身体の自由が利かなくなる者が増え、不気味さは増す一方。

 ついに、その漁村は死体を焼くことにしたんだ。焼け残った骨たちを細かく砕いて、海に撒く。「散骨」の方法が取られたわけだね。

 そうして、人々は不快の元を絶ち、いつもの生活に戻っていくはずだった。


 でも、ほどなくしてね。猟師たちが異変に気づいたんだ。

 獲物である魚たち。沖で取ってきたものも、大半が死んでいるものばかりになっていた。

 それも半ば腐っている。商品にはもちろん、食べ物にも適さない。

 打ち上げられる魚たちも、同じだった。そしてまた、どれもこれもご丁寧に海藻にくるまった状態で。

 島の人たちは飢えていき、体調不良を訴える者は更に増え、とうとう島を出ることに決めたみたい。


 だけれど、出発の準備ができた日の朝。

 季節外れの台風が、島を直撃したんだ。目も開けていられない雨と風が、海を怒らせ、巨大な波を育んだ。

 行くのか、留まるのか。人々は選択を迫られた。

 そして、行った者は舟ごと海のもくずに。留まった者は、島全体を覆いつくす大波を前にして、家屋と運命を共にしたみたい。


 島が沈んでしまってから、二日後のこと。

 とある海岸に、海藻にくるまった、多くの魚と人間の死体が流れ着いたんだって。

 この異常事態に、多くの人が呼び寄せられて、死体の解剖が成された結果、恐ろしいことが分かった。

 魚も人間も、身体のあちらこちらに、様々な猛毒が蓄積されていたんだって。その上、何年も溜めていなければ、あり得ないほどの量。

 人間が持っていたとしたら、どうやって生きていたのか分からないっていう、不思議な結果だったんだ。

 海藻たちはこの異変に気づいて、海を守るシグナルを出していたのかも知れないね。



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