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神様の 正体見たり 黒い玉 (歴史/★★)

 おじさん、こんなところで何してんだ。狭い境内を行ったり来たりして、賽銭泥棒か?

 文筆家? 物を書いてんのか。

 興味津々なのはわかるが、あまり首を突っ込むとロクなことにならないぜ。とっとと取材を終わらせて、帰んな。

 ん、何か面白い話を知りませんか、だと?

 じゃあ、話をしたら帰ってくれるのか? まったく、物書きの考えることは、とんと分からねえな。

 ま、あちこちを嗅ぎまわられて、面倒を増やされても困る。

 そこらへんに腰かけな。

 俺が話すのは、ご神体のことだ。


 ご神体と聞くと、おじさんは何をイメージする?

 霊峰の富士山。定番どころだな。

 森羅万象の神々は、自然のあらゆるところに宿っている。宿った時間の長い自然は、依り代として、適した力を持つという話だ。

 昔はあるがままに崇めていたんだがな。日本各地に神社ができると、神様をそこに呼び込もうという動きが活発になった。

 この神社こそは、由緒正しき神様をお迎えした正当なる系譜である、と周囲の人に知らしめる。それにより人を集めて、布施をいただき、信仰を広めていく。


 神様はありがたいもの。文字通り「有難い」ということは、容易に存在してはならないということだ。

 だから、人の目から隠す。社などを設けて、その中にご神体を安置し、やたらめったらに見られないようにする。

 開帳に関しては、それぞれの神社の方針によるな。ここら辺では、もっぱら秘匿する方針をとっている。

 それに、昔、ご神体に向かってバカなことをした輩がいたそうでな。近くに住んでいる連中は顛末を知っているがために、分をわきまえるようになっている。

 戒めの意味も込めて、ご神体のいわれについて話そう。


 むかし、むかしのことだ。

 この地域に、空の上から巨大な黒い玉が、たくさん降り注いできた。地面を大いにくぼませたそれらの物体を、最初、人々は遠巻きにおそるおそる眺めるだけだったんだ。

 数日がたち、玉に動きが見られないことを確認すると、有志達がすぐそばまで近づいた。

 得体の知れない物体と肉薄する。人間にとって、根っこにある本能だろうな。

 一抱えほどの大きさの黒い玉。木の枝でつついてみたが、特に反応はない。そして、手ごたえからして、鉄のようだと判断した。

 製鉄の技術はすでに伝わっていたが、ここまで精巧に球形を保たせるのは、当時は非常に困難だった。

 誰彼となく、神の御業だと言い出して、何人も協力し、それぞれの村に鉄の玉を運び込んだ。そして、それを奉るために、特別な領域を設けることにした。

 これが、この辺り一帯で、神社がたくさんある理由になっているんだ。

 数百年前までは、今よりももう少し数が多かったんだけどな、ある事件を境になくなっちまった神社がある。

 神の怒りに触れちまったって、伝わっているがね。


 ご神体に祭り上げられた鉄の玉は、長く人々の信仰を集めていた。

 諸行無常の世の中において、不変であり続けるもの。様々な命が移りゆく中で、移ろわずに姿を留めるもの。神格化の基準はそこにあったんだろうな。

 信心深さに守られて、ご神体も社の中に鎮座ましましていたんだが、時間と共に、ご神体に信心の庇護が及ばなくなる時が、来てしまったのさ。


 比叡山延暦寺の焼き討ち。

 知っての通り、織田信長が行った、日本の大手術の一つさ。

 長い時を経て、俗世に染まってしまい、学問と道徳を修める場所でありながら、信長に敵対する勢力にとって、都合のいい砦ともなってしまっていた、延暦寺。

 信長が第六天魔王と呼ばれるのは、この事件に由来するという人もいる。

 その別名も、もともとは書状の中で、信長がネタ半分で書いた自称だと言われているが、この焼き討ちは肩書きを裏付ける、史上まれにみる悪事。信長が仏教の敵として、にらまれることになったのは知っての通りだろう。

 彼が掲げた、腐った聖域の撲滅。過激なスローガンは、熱に浮かされる暴徒を生んだ。

 ご神体の悲劇も、それによって起こった。


 とある神社の、ほど近く。二つの部隊がぶつかり合った。

 一昔前なら、矢を射かけ合うんだが、両部隊が鉄砲を持っていたことで、あいさつがわりの銃撃が成された。

 だが、流れ弾が神社に飛び込み、ご神体の入った社を直撃したんだ。

 それで、戦は終わったよ。


 社は大爆発。神社一帯を焼け野原にする勢いで火の手が上がった。

 爆死したものが半数。「かたわ」はもう半数近く。奇跡的に無傷のものが数名。

 もはや戦どころではなく、両部隊は撤退。周囲の木々を燃やし尽くしながら、一日中、神の怒りは収まらなかったという。

 粉々となった神社には、木と肉が焦げた臭いがこびりついていたが、ご神体の姿はどこにもなかったという。

 このことがあって、人々は神の機嫌を取ることに躍起になったって話だ。


 しかし、今の世の中、技術が発達したおかげで、多少はご神体のカラクリもわかる。

 不発弾だ。くすぶっていた火薬樽が、外からの鉛玉で、火をつけられちまったのさ。

 何ともやばい神様がいたものだろう?


 こんな物騒な連中をよ、はるかな昔に持ち込んできたのは、どこの誰なんだろうな。



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