道間違いのすれ違い
なにか、変わったこと起きないかな~……なんで、誰でも一度は頭をよぎることがあるんじゃないだろうか。
平和の証かもしれない。多忙の結果かもしれない。
自分にとって、ほぼ同じような感想を覚える刺激ばかりだと、どうにも退屈を覚えてしまうのが人間だ。
心は平穏無事を求めながらも、新しいものを求める。未知の存在はすでに持っているものを簡単に壊しかねないからね。知識を欲しがる習性もまた、防衛本能の一部といえるかもしれない。
とはいえ、変わったことそのものは、ちょっと道や視野を変えた先に存在している可能性も高い。我々が「いつものこと」に慣れきっていて、そちらを向けない、あるいは向くようなめぐりあわせがない、とかね。
ちょっと前に友達から聞いた話なのだけど、耳に入れてみないかい?
それは、友達が中学校にあがって間もないころだったらしい。
6年間、通い続けた小学校への道が、まだ色濃く記憶に残っているころ。何度か間違えて小学校に向かいかけてしまったことがあったとか。
どちらの学校も、途中までは共通する通学路というのが、友達には厄介だった。その日も、共通するところから小学校へたどり着くまでの中間あたりまで来て、ふと気が付いたらしい。
これまでに何度もあり、注意もしてきたことだ。何度も繰り返す自分にちょっと嫌気がさすも、時間そのものはまだ余裕がある。きびすを返して、中学校へ向かう本来の分岐点まで戻ってきたのだけど、ふと気が付いた。
分岐点直前の電柱の一本。こうして引き返して、はじめて見える柱の裏側に紙が張り付けてあったんだ。緑色の養生テープで張り付けられたそれは、てっきり飼い犬、飼い猫さがし募集のものと思わせる体裁だったとか。
でも、違った。写真と思しき部分は、よく見ると夜に写したアスファルトの道路のように、ぼんやりと輪郭が浮かんでいるのみ。
写真の下のフレーズもまた、不可解な予言めいたものだったとか。
「これからあなたは左へ曲がり、二つ目の信号でしばらく待ったのち、そこを直進して~」
それは、友達がこれから中学校へ向かうルートを、そのまま指し示す文言だった。
友達は顔をしかめたものの、当初は無視を決め込んだらしい。
張り紙のそばに誰もいなかった以上、案内などの線は考えづらい。いたずらにしても、このあたりの学区なら中学校に向かう学生はめずらしくないし、大人だって場合によっては向かうかもしれない。
でも、あの紙はただ道順を示すだけじゃなかった。「二つ目の信号でしばらく待ったのち~」という、先を見通したフレーズが気にかかっていたそうだ。
実際、友達は二つ目の信号を歩行者信号の赤により、いくらか待たされてしまう。車の往来が多く、無視して進めば事故るか、大ひんしゅくを買うかするところだった。
そこから先も、あの張り紙通りの展開が続いて、友達もちょっぴり胸の中がざわつくのを感じていたそうな。
というのも、張り紙の指す文の終わりが校門に差し掛かるところなのだが、その締めがいっそう気味悪かったからだ。
「――そこで、頭は宙を飛び、胴はその場に寝そべって、飛び行くさまを見送るだろう。頭もは転がり、天を向く。それを最後の動きとし、その後を他者へゆだねるだろう」
ここまでの文言の的中具合は異常だ。どれひとつとして外してはいなかった。となれば、すでに見えてきている校門前で起こることも、おそらくは事実となるのだとう。
横開きの校門前に、先生などの姿はない。生徒たちもほとんどが時間に余裕をもって登校するタイプで、予鈴までさほどゆとりのなくなった今の時間だと、ほとんど姿も見られなかった。
友達を出迎える者は何もない。そうなると、あの文言の通りになるのは……と考えたら、足取りも重くなってくる。
――ぎりぎりまで、様子を見よう。
最悪、予鈴がなってから本鈴までの間に着席すればセーフのはずだ。自分の足ならそれができる。
門の数メートル前で、じっとたたずむ数百秒くらいなら制服姿もあいまって、そこまで怪しまれないはずだ。
その判断、ある意味で正解だったかもしれない。
予鈴の鳴る一分前に、ふと校門前の道路を一台の黒いワゴン車が通りかかったそうだ。校門に面する側の助手席の窓を開けていたその車は、スピードを緩めないまま、校門を通り過ぎる直前に助手席からあるものを放り投げたんだ。
あっという間に目前を通り過ぎたそれを、友達が眼で追ってとらえられたのは、ほんの数秒だった。
おそらくはマネキンか、それに類する精巧な人形。
それが校門の手前で首と胴体が分離し、首は敷地内へ、胴体は敷地外へ転がったんだ。首はあの文言のようにあおむけなって、動きを止めてしまう。
そこから、ばっと物陰に隠れていた先生たちがいっせいに姿を見せて、人形の首と胴体をあっという間に回収し、引っ込んでいったことのほうが、どちらかというと鳥肌が立ったとか。
先生たちは、このとき友達には一瞥もくれなかった。まるで、その場にいないかのようにね。でも、学校へ入ってからは普段通りに接してくれたのだとか。
あの人形らしきものについては、いまだ謎のままらしい。




