未知なるカードをチョコに求めて (ファンタジー/★★)
ま、負けた……。
トレーディングカードゲームを愛する俺が、レアカードめくりで、負けた……。
ずるいぜ、こーちゃん! 何でお目当てのカードばかり、こーちゃんが当てて、俺が紙束なんだよ!
ゼロ一つ分は、こーちゃんより余計に金をつぎ込んだのに……。
納得いかねえ! カードを賭けて勝負しろ!
今、手に入れたカード限定勝負? うわっ、ずっけえ! どう考えても、俺に勝ち目ないじゃん。
俺は紙束なのに、こーちゃんのカード、ぜんぶ爆弾レベルだろ! それで勝負とか、大人のやることかよ!
むしろ、大人だからやるのだよ、がきんちょめ?
ちくしょう! 大人なんか大嫌いだ!
こーちゃんのような大人には絶対ならねえ! おいぼれになっても、席は絶対譲らねえから、覚悟しとけよ!
これでまた三ヶ月はパン生活……。
シングル買いは高いし、小遣いは少ないし……。
ちくしょう! 学生なんて大嫌いだ!
はああ……。
本当に罪づくりだよな。トレーディングカードゲーム。コレクションだけでも、金食い虫だよ……。
え、面白い話をしたら、おすそ分けしてやる?
くう〜、プライドではねつけたいけど、実物は大事!
いいぜ、カードを巡る話をしようか。
今でこそコレクションできてゲームができる、カードたちはたくさんある。だけど、昔はコレクションするのが目的のカードたちばかりだった。
チョコやポテトチップスについてくる、アニメキャラやスポーツ選手のものだな。
特別なカードが当たった時には、みんなに見せびらかしたくなるのも、人間の心理かも。ある意味で選ばれた存在ってわけだ。燃えるだろ。
これは俺のおじさんがカード集めにはまっていた頃の話さ。
おじさんたちも、自分たちの限られた小遣いで、キャラクターカード付きのチョコをたくさん買っていたんだ。
ガチャガチャと同じでさ、全種類を集めることが目的だったんだって。コレクターとしてのロマン。苦労の末に手にする、完全無欠感。この気持ち、こーちゃんも分かってくれるよな。
情報が出回りやすい現代じゃ、すぐにフルスポイラーとかがネットで公開されて、足りないものが何かわかっちまう。
揃えることを楽しみにしているならいいが、新しい絵柄に出会うことが目的な人にはきついんじゃないか、と思う。ネタバレの嵐なわけだし、満足してカード集めから離れる奴もいただろうな。
そして、おじさんたちがコレクションしていたカード。全何種類か、分かっていなかったんだよ。
クラス全員でも大いにダブるものがあれば、一部の人しか持っていないものもある。みんなが全種類揃ったか、と思うと、新しいものがひょっこり顔を出す。
もう出ないと思っても、新たな結果が姿を現すんだ。オリンピックの記録みたいだよな。
クラスの中では、おじさんともう一人、熱心にカードを集めている子がいて、どちらが全種類を集められるか、勝負していたみたいだよ。
そんなおじさんの手元には、みんなにも、例の彼にも内緒で持っているカードがあった。
それは、右足だけが書かれたカードだったんだ。
しかも、他のカードたちのように、漫画タッチじゃない。写真を切り抜いて、そのまま貼り付けたような絵だった。
絵の中の右足は、人間のものではなかった。白くて真っすぐ。丸太のような太さ。足の先は二股に分かれた、ひづめになっていたんだ。
他と比べると、異様さが際立つこのカード。おじさんはみんなには黙って、残りを探そうと思ったらしいぜ。完成できた時に、彼やみんなに見せびらかせてやろうと思っていたらしい。
おじさんは、お小遣いをもらうたび、足しげく駄菓子屋に足を運んだらしい。例のシールがついたチョコを買うには、そこが一番安かったんだってよ。
入荷のたびに、箱買い、箱買い、箱買い。
一つ一つは安価でも、チリも積もればなんとやら。おじさんの毎月の資金は、茶色い甘味へと瞬く間に姿を変えちまう日々だったらしい。
おじさんの心も、カードのことで、いっぱいになっちまっていた。他にチョコを買いたかった子たちの、ささやかな楽しみを、感じられないくらいに。
数々の夢を踏みにじり、おじさんは合計三枚のカードを手に入れた。
右足、左足、右手。
構造的には、あと、左手、胴体、頭部が必要になるはず。
残りのパーツを求めて、おじさんは更にチョコを買おうとしたんだが、とたんに難易度が跳ね上がった。
バカな買い物を続けたおじさんは、駄菓子屋から入店を断られてしまったのさ。よっぽど多くの人が腹に据えかねたんだろうね。
おじさんはうろたえた。例のチョコは高い。この駄菓子屋が特別に負けていたからこそ、箱買いできたんだ。他の場所だと、おじさんの小遣いでは、今までの半分も買うことはできない。
それでも望みを捨てずに、チョコを買い続けたおじさん。そして、普通のカードに出会い、いらだち、破いて捨てる。家のゴミ箱をキャラクターたちが埋め尽くしていったんだ。
そして、ある朝。
おじさんが目を覚まして、日課でカードを確認した時。
あの三枚のカードがなくなっていた。いや、厳密には書かれた絵が、きれいさっぱり消えてしまったんだ。
残されたのは、最初から何も印刷されていなかったかのような、三枚の白紙カード。
おじさんは慌てた。確かに昨日まで存在していたものが、するりと逃げ出してしまったのだから。
でも、同時に夢から覚めたような気がしたんだって。自分が白昼夢のために、今まで犠牲にしてきたものを省みると、自分の愚かさが身に染みたんだって。
おじさんは三枚のカードをゴミ箱に捨てる。破らなかったのは、おじさんなりの最後の敬意だったみたい。
そして、おじさんはカード集めにケリをつけるため、ゴミ捨てを自分で行った。
ゴミ捨て場に、カードたちが入った袋を投げ捨てる。自分に苛立ちながら、ずんずんと早足で去っていくおじさんの背中に、こんな声が掛かった。
「やはり、無理だったか」
振り返ると、先ほどのゴミ捨て場に、あのカード集めに熱心なクラスメートの一人がいたんだ。その子はおじさんが捨てた袋を漁り、三枚の白紙カードを取り出した。
すると、三枚の白紙カードに、あの体のパーツたちが鮮明に浮かびだしたんだって。ちょうど、あぶり絵のように。
おじさんが驚いて近づこうとすると、その子は石を投げつけてきた。信じられないスピードで、おじさんの額を直撃し、どうにか体勢を整えた時には、そのクラスメートはいなかったみたい。
クラスメートは、その日から学校を欠席。そのまま遠くのどこかに引っ越してしまったようだよ。
合体カード。もしかしたらクラスメートは、残りを持っていたのかもしれない。
すべてを揃えたかも知れない彼が、何を見たのか。
それとも、これから何かが現れるのか。
おじさんは、心のどこかで、今も不安に思っているんだってさ。




