休みを活かす
臨時休暇。
なんとも、心が躍るワードじゃないだろうか。
あらかじめ休みだと分かっているのなら、それもいい。しかし、降ってわいた不意打ち気味のものは、与える影響も大きいものだ。これが逆に臨時の仕事とかだったら、げんなりするだろ? そういうものさ。
純粋にもろ手をあげて休みを喜べるならいいけれど、ときに「なんで休みになったんだろう?」と疑問に思うことはないかい? 突発的な出来事、それも現在の運営をおどかしかねないアクシデントがあったのでは? と考えるとちょっと不安を覚えてこないか?
僕はこの手のことに、どうもそわそわしてしまうタチでね。あのときも、理由が気になっ
てつい調べようとしてしまったんだ。
そのときの話、聞いてみないか?
その日、学校がいきなり休みになったんだ。
この寒い時期、インフルとかで学級閉鎖などはよく聞く話だろ? でも、そのときは休みの理由がいっさい、僕には伝えられなかった。ただ学校が休み、というだけだ。
しかも自宅待機推奨といった風ではなく、代わりに学校近辺へ近づかないように、との注意がされる。
話を聞いて、僕は考えた。昨日まではみんな普通に通っていたし、こうも注意を促されるような事件、事故のたぐいは起こっていなかったはず。
僕たちが帰ったあとで、何かしら面倒ごとが起きたという線だろうか? でも、窓ガラスとかの備品がやられた、くらいなら一部立ち入りを禁止されても、休校などというレベルには至らないような……。
興味の湧いた僕は、ちょっとそれを調べてみたいなと思ったんだ。
とはいえ、学校に近づくことは禁じられているだけに容易じゃない。事実、通学路に先生たちが朝から立っていて、みんなの動向を探っている。
交通整理とかが入っていないあたり、本当に緊急の大事などではない気がして、また判断に困った。かといって、先生に尋ねたところで詳しいことを教えてくれるかどうか……当時の僕は職員室に入るのに度胸が必要だったこともあり、じかに聞くのはためらわれた。
離れて、学校の様子をうかがうのにちょうどいい場所といえば。
僕の頭はすでにプランを立てている。
最近、新装開店したショッピングモール。
学校から少し離れてはいるが、階層は高めで、その高いフロアからなら学校方面を見下ろすことが可能。
僕はそちらへ足を向けた。通学路から外れるから先生の目もなく、スムーズに店内へ到着。エスカレーターでフロアごとの眺めを確認しつつ、ちょうどいいポイントを探し出す。
見下ろす学校の敷地は、最初はいつもと変わりない様子だった。
それが観察をはじめてほどなく、消防車とは似て非なる車が次々と押し寄せ、校庭へ乗り込んできた。
消防車じゃない理由? だってつくりはそっくりだけどさ、色が真っ白なんだよ真っ白。
そこに乗っていた人たちが次々に降りたかと思うと、慣れた手際でホースを車両につないでいって、四方へ中身をぶちまけていったんだよ。
消火のための液としては、いやに透明なものだった。子供のときの衰えていない視力だから、ようやくとらえることができたんだ。
あれを撒くために通りかからないようにしていたのか。でも、なんのために、そこまで?
疑問の答えは理解はできなかったが、把握はできた。
液をかけられたところは、たちまちに溶けていく。背の高いものはまるで火であぶられるように身をよじりながら、たちどころに縮んでいってしまうんだ。
しかし、長続きしない。そうしてくしゃくしゃになったと思った次の瞬間には、ぴんと元通りの姿勢に伸び切って、しゃんとしているのだから。
フェンスや木々、そして校舎全体も。いっぺんにではなく、何か所にも分けてだけど、いずれも一度はしぼみにしぼみ……またぴんと立ち直す、あるいは建て直す。その繰り返しだったんだ。
次に学校へ行った時には、ずっとこびりついていた汚れや傷などはきちっと直っていたのだけど、あの光景を見ては素直に喜べなかったなあ。




