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矛盾の先へ

 う~ん、どう答えたものかな……あ、こーちゃん、いいところに。

 いや、国語の課題でちょっと困ったことがあってさ。ほら、こーちゃんも知っているでしょ、「矛盾」の故事をさ。

 これでさ、もし「応ふること能はざるなり」なんて逃げるんじゃなく、あえて答えるとしたらどのように答えますか? という問題を出されたんだよ。

 どうする? 僕だったら平身低頭あやまることくらいしか考えられないけれど。


 ――え? これは正解を見出すというよりも、自分の論理をもっともらしく説明できる、言いくるめじみた力を試す課題だろう?


 ええ~、うまく煙に巻く練習ってこと? ちょっと、それってひねくれてな~い? でもまあ、世の中ってそんなものが多いとも聞くしなあ。騙されないためにも、考える側にまわってみろ……てところ?

 う~ん、どうも気が乗らないな~ちょっと休憩。

 ねえねえ、矛盾てさ矛も盾も戦争に使う道具じゃない。こういう故事ができるとき、戦争って身近にあったんだなあ、と思う。

 現実の戦争とはもうまったく次元が違うけどさ。こう、本当に武器と自分の腕でもって生死を分ける、みたいなウエイトが重くってさ。きっと矛も盾も、実際のところは握る人の力量とか、本当に細かいところの整備不良とかで、明暗が分かれるんだろうなと思う。

 つじつまが合わないな、ということが起こるとき、そこでは実は争いが起きているのかもしれないね。

 休憩がてら、友達から聞いた話なのだけど、耳に入れてみない?


 自由参加という名の強制参加。

 おそらく世の中にある矛盾の中でも、ポピュラーなもののひとつじゃないかと思う。

 参加しなくてもいい、という体をとっていながら、いざ参加しないと参加した面々からあとあとなじられたり、陰口をいわれたりと、自己評価を低下させる原因になる。

 ノブレスオブリージュの精神ならば、多くを持つ人が多くを要求される、というのはおかしくないかもしれない。けれどノブレスじゃあない、同等な立場である人同士でこうも上下を分けようというきっかけの数々、正直僕は好きじゃないね。

 価値の多様化を訴えながら、それが好きとか肯定的とかばかりを言われても噴飯ものだ。ちゃんと嫌いとか否定的とかも同じだけ認めてあげてほしいな。


 友達も似たようなことを考えていたと見えて、そのときに誘われた放課後の肝試しにも、乗り気じゃなかったらしい。

 かといって、断るのも気が進まない。すでに「○○も肝試しにいったってよ」とクラスメートの名を引き合いに出されたからだ。

 言っちゃあ悪いけれど、その子はクラスでも特に臆病ものだとレッテルを張られている子だったらしい。その子が肝試しに参加したとなれば、これを断るとなると自動的に、臆病最底辺を更新する羽目になるわけだ。

 自尊心。なまじっか、自分に無限の可能性があると感じられる若さや活力があるばかりに、下に見られるのをよしとしない。

 友達もまた、その自由参加の肝試しに参加することにしたんだ。


 すでに川床が見えて久しい川。そこにかかる陸橋の下が肝試しスポットであると同時に、地元の人にはちょっと知られた心霊スポットだった。

 橋の上を通る分には何も問題がない。橋の下もそれぞれのたもとや、川床にそって端を切る分には問題がない。ただこの橋を端から端まで……いや、ギャグじゃないからね?

 橋下の端っこから端っこまでを歩ききると、奇妙なことが起こるとされている。それは当人のみに降りかかるものだが、ときにまわりにいる人間に影響を与える恐れもある……らしいが、子供ならではの無鉄砲さが悪いケースを軽んじる。


「向こうの橋の下に、青いロウソクを用意している。それを回収して戻ってきたら終わりだかんな。俺たちは橋の下からお前がはみ出ないよう、こっちと向こうで見張ってるからよ」


 ――はあ~、かったり~。


 自分のクラスカーストのためとはいえ、かったるいことをかったるいと思って何が悪い。

 橋の長さはざっと30メートルほど。徒競走するにも半端な短さだが、そのぶん両端で見張られては、確かに逃げることはかなわないだろう。

 とっとと済ませるか、と友達は橋の下の影の中を歩いていく。歩き始めはそうは思わなかったものの、半ばあたりから妙に寒気を感じるようになってきてね。半ズボンだったから、むき出しの素肌に鳥肌が立つのを覚えて、少し立ち止まっちゃったらしい。

 あたりを見回して、風など吹いていないよな? と確かめて向き直り、友達は「おや?」と思う。


 対面で見張っていた連中の姿がなくなっている。自分が来た側の橋のたもとにもだ。見張りを買って出た面々の姿がない。


 ――ははあ。あえて身を隠しておいてこっそり見張り、俺が逃げ出さないか目を光らせてるんだろ。その手を食うか。


 友達はささっと橋の下を渡り切って、注文通りに青いロウソクを回収。元の地点まで戻ったが連中は相変わらず姿を見せない。ロウソク振り回しながら、声をかけても誰も出てこない。

 10分ほど経っても状況は変わらず。いよいよあほらしくなった友達は、そのまま家に帰ったらしいけど、翌日になってクラスにいた肝試しの面々は全員が口を合わせて、友達が青いロウソクを手にしたこと。そして一緒に帰ったことを話してきたのだとか。


 とてつもない矛盾だ。自分は確かにロウソクを持ち、ひとりで帰ったというのに。その証拠の青いロウソクを見せてみると、全員が目を丸くしたとか。あの帰るときに回収して処分したはずなのに、と。

 その後、友達が卒業するまでの一年の間に、この肝試しに参加した全員。厳密には友達と一緒に帰ったという面々は転校してしまい、ゆくえが知れないとのことだよ。

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