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重なる通学路

 う~ん、こう高いところから遠くを眺めると、なんだか不思議な気分にならないかい?

 高所を低いところから見上げたときに「たかいな~」と思うけれど、高いところから低所を見下ろす時も、やはり「たかいな~」と思うでしょ。

 いずれも事実を見ての評価だけれど、自分にとって未達か既達かによる違いって、少しあると思う。なにも山登りなどにかかわらず、自分のやってきた勉強や仕事に対しても似たようなものだ。

 当初は見上げるばかりだった目標を、いざ自分の足で踏みしめてみて、ここまで来たのだなと考える。つい自分の力だけで来た気になってしまうけれど、振り返ってみる道は、必ず誰かのどこかを踏んできているわけだ。

 これらをしっかり見てきたかどうか、というのがときに大事になることもある。今の時間に起きる報いはたいてい、これまでおろそかにしてきた時間の報いだからね……。

 ひとつ、道のりに関する話なのだけど聞いてみないかい?


 あの日は、学校で珍しく登下校のルートを尋ねられたんだ。

 掃除の時間前の学活。生徒側としては放課までのラストスパートってところで、気合を入れて臨む子もちらほらいる。もともと、学級活動の時間だったこともあったものの、何をやるのかは聞かされていなかった。

 それがこの登下校の道筋の確認とはいささか奇妙なものだった。先生は色とりどりのマジックと、じゅうたんとして使えそうなくらいの巨大な地図を用意していて、それへ皆がおのおのが通る道を書いていくというものだ。


「ちょっと、ここのところ変質者が出ているという話を聞いてね。みんながどのような道で帰っているかを調べようと思ったんだ。場合によっては注意を促さなくちゃいけない」


 一理ある言葉に思える。

 その変質者とやらがよく現れる道を通る生徒がいるなら、あらかじめ呼び掛けておくのはアリだろう。めいめいが用意されたマジックを手に取り、この特大の地図へそれぞれの登下校ルートを書き込んでいく。

 道が同じでも、構わずに重ねていってくれということで、自然と主要な道はケミカルな色合いが生まれていく。僕は最初に書いてしまったから、あとは残るみんなの仕事を延々と眺める係だった。

 そうして一通りが終わると、先生が道をいくつか指し示して、少しの間はここを通らないように、と話をしてくれたわけなのだけど、僕にとっては少し妙だった。


 先生の示してくれた道は3か所あったのだけど、それがみんなの重なる道のトップスリーそのままだったんだ。

 先生の話だったら、おそらくここに変質者が出たのだろうし、偶然の一致の可能性もなきにしもあらず。けれど、僕の勘はこれをアドリブだと判断した。

 仮に別の道がベスト3だとしたら、おそらくそちらへ先生は指示を移していたんじゃないか、とね。予想を裏付けるために、僕は帰りの会が終わってもすぐには帰らずに、同学年の別クラスの友達をたずねた。

 学級活動で、登下校の調査をしなかったかってね。案の定、こちらも調査はしていたものの、聞いてみるとルートが異なっていたんだ。

 友達は僕ほど気にしてはいなかったようだけど、そのルートもまたみんながよく示したところばかりだったという。


 変質者の出現は建前。ほんとのところは別にある。

 そう考えを固める僕は、その禁止されたエリアへ向かってみたんだ。

 最初に、友達のクラスで通るのをよしとされないところを歩いてみる。これに関しては、3か所すべてなんということはなかったんだ。

 変質者との出会いを期待していたわけじゃないけど、所詮は注意ごとの範囲かと胸をなでおろす。ただ妙なのが、みんなで同一のルートを注意することなく、クラスごとに分けて教えたということ。

 この調子で全クラスぶんを統合したとしたら、学区内のすべての道が通行不能、とかもあり得てしまうのでは。ならばなおのこと、クラスによって指示する箇所を限定的にしたのはなぜだ?


 その理由はすぐに、そして望むべきではない形でおとずれた。

 僕はいよいよ、自分のクラスで注意されたあたりに近づく。実際に足を踏み入れないにしても、近くで様子をうかがうことはできよう……。

 そう思っていた矢先に、僕の背後から笑い声とともに駆ける足音が聞こえたかと思うと、すぐさま僕を追い越していったんだ。それは僕と同じクラスのひとりだったのだけど。

 その子が指示された道へ入るや、ダッシュをやめてうずくまってしまう。駆け寄ってみると先ほどまで履いていた靴や靴下はどこへやら。素足の足の裏も血がにじむほどに皮が破れているじゃないか。

 幸い、学校から近いこともあって、保健室へ連れていきがてら先生に事情を尋ねようとしたよ。

 詳しいことは分からない。ただ、この地域には学校のとあるクラスに所属している子たちが歩くと、ああして靴や靴下を足の皮ごと引っぺがしていく者が現れるかもしれないらしい。

 確かに、僕たちとは性質を異にする変質者に違いはないだろう。そいつが多く道を通る人を観察し、積み重なってきたころを見計らって、そこを避けるようにするとか。

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