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限りある自分

 ふへへ~、だ~れだ?

 て、ちょっと、なんです? なんです! 答えるでもなくエルボー連打とか、それが人間のやることですか!


 ――え? 目じゃなくて、鼻と口をおさえにかかってきていた、と?


 おおっと、それは失礼をば。あやうく殺人未遂の前科がついちゃうところでした。うーん、先輩のタッパもなかなかのものですが、やはりチビに生まれちゃうと、みんながひょいとできるものもなかなかできませんね。重ね重ね、申し訳ありません。

 これでもアルバムの中じゃあ、ちゃんと大きくなっているんですよ? 当たり前かもしれませんけれど。これからの将来性に期待、とはいってもどれだけ将来が残っているんでしょうかね?

 先輩も感じたことはありませんか? 自分の限界のようなもの。

 成長でも力量でもかまいません。これはあいつにかなわないな。俺はもうだめだ~、的なものは?


 ――しょせん、俺には俺にしか分からんことがあるから、きっと大丈夫だ。


 あ~、ありますよね、誰にも明かしていない秘密というか内情というか。

 なるほど、自分しか理解できないものがある限り、なんぴとも俺の上には立てない、と。う~ん、その薄弱な根拠で自信たっぷりなところは見習いたいですね。

 いやいや、ディスってなんかいませんよ。リスペクトですよリスペクト。証拠、エビデンスなんて第三者のためのもので、自分自身を奮い立たせるには不要不要。

 でもですねえ、私はずっと昔に自信というものを吸い取られる出来事がありまして。そのときのこと、聞いてみませんか?


 かれこれ、10年前になるでしょうか?

 当時の私が住んでいた家は、半和風の家でして。あちらこちらの柱は木製ですこし丸みを帯びている風でした。

 はじめて授かった子供ですから、両親も力が入っていたんでしょうね。その柱のそれぞれにテープで私の身長を貼り付けていったんですよ。月に1回くらいのペースでしたかね。

 小さいうちはぐんぐん大きくなりますし、女の子は男の子に比べて成長期が早くにやってきます。順調にいったならばおそらく中学生前後あたりまで、続いたんじゃないですかね。


 しかし、小学4年生のあたり。

 みんながぼちぼち、更に背を伸ばしていくところで、私の育ちは逆に鈍化していきます。

 両親としてはちょっと不安になるところだったでしょう。けれども、私は思い当たるところがありました。

 ここのところ、眠りについているときに頭をなでられるような感触を、私は覚えていたんです。これがほとんど夢を見ているときでして、気づくまでにだいぶ時間がかかりました。

 ほら、夢の中ってちぐはぐなことが起きていても、おかしいと思わないことってあるじゃないですか? 私もその夢の一環だと思っていて、当初はされるがままだったんです。

 しかしある時。お風呂の中で髪を洗っているときに、気づいたんですね。私の頭頂部の神が一部、失われつつあるのを。


 完全にハゲとなっているわけじゃありません。普段から触っている自分の身体だからこそ気づけるわずかな違いといいますか。つむじの巻いているあたりの頭皮の面積が、わずかに広がっている感じがしたんですよ。

 数日すると、それだけでないことも察せてきます。私の背がですね、縮んでしまうんですよ、ほんのちょびっとですけれど。

 柱にしょっちゅう背の高さを記録していたからこそ、ですね。ただし、この背は起きてからほどなくの間しかもちません。少し時間が経つと私の背は元の高さにまで戻ってしまい、あらためて親に見てもらうときは手遅れで、証拠が残りません。

 でも、縮んだ分を取り返すことを繰り返すってことは、つまり本来の成長分を奪われていることと同じ……じゃありませんか?

 本来、身長を重ねていたならば迎えていた伸びしろ。それが外に取られて、ひたすら貯蔵した分で補填していく。これが目減りしないわけがないですよね?


 私としても縮んでは戻っている確信が湧きましてね。なんとしても、頭をなでてくる輩の正体を突き止めんとしたんです。

 当初は夢の中でしか感じられないと思っていましたが、少し前に意識があるときに頭をなでられたことがありましてね。どうやら、その感触が夢の内容に反映されたのだと思いました。

 なので、その晩は事前に眠れるだけ眠りまして、徹夜を敢行したんですね。どうせやるなら徹底的に、です。頭をなでられるのは夜に布団へ入っているときに限っていましたから。

 これほど怪しい現象を起こしておいて、犯人が家族という線はほぼ消えていると見ていいでしょう。じかに触れて良い相手なのか、どうか……。

 私は何枚もの軍手を身に着けて、布団へごろり。夜が静まっていくのを待っていたんです。


 結論から言うと、判断は正解でした。

 もう少しで夢の中へ引っ張り込まれる……その直前、がしっと頭をてっぺんから押さえつけられたんです。

 なでられる直前、ずっとやられてきた動き。すかさず私は、軍手をした両手を頭上へ。頭を押さえる手目がけて伸ばし、がしっとつかみ返したんです。

 手の主は相当驚いたのでしょうね。私に触れられるや、ひゅっと頭から手をどけるとともに、私の拘束からもするりと抜けて戻ってきませんでした。

 ただ、私の何重もした軍手のほうも手元へ引き戻したとき、素肌が見えるギリギリまで破れていたんですよ。

 いや……朽ちていたといったほうがいいですね。いずれの軍手も数十年も野ざらしにしていたようにズタボロに傷んでいましたから。

 以降、手は現れなくなりましたが、私の成長もぴたりと止まってしまったんです。

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