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スガタ来る

 う~ん、空気は冷たいけれど、どうにもこたつを引っ張り出すにはもう一歩欲しい、といったところかなあ。

 四季の存在が危ぶまれる昨今、じっくり気温が移り変わってほしい反面、ぴゅっと切り替えてしまいたい気持ちになるのもやまやまだ。これもまた、通信手段が発達して一瞬で答えが分かりがちになってしまった世の中の弊害かな? 何事もこらえられず、結果を急ぎすぎてしまう。

 季節の変わり目は特に注意を払うべきタイミングと、昔から言われているのに、そわそわして落ち着かない。そうなると、昔ながらの脅威が湧いてきたとき、思わぬ痛手を負ってしまう恐れもあるかもしれない。

 僕の聞いた、昔よりの脅威のひとつ。聞いてみないかい?


 僕のいた地域だと、「スガタ」という存在がまことしやかにささやかれている。

 その当て字は「姿」であるとか「素型」であるとかが有力だけど、あやかしの一種とされているんだ。

 スガタは季節の変わり目に、ひょいと現れる。多くは少年から壮年までの男といった形で、女や年寄りのかっこうは見せない。

 ただ、普通の人との区別は容易につく。スガタはボロボロの法衣と、麦わら帽子の形をした被り物をするとともに、その肌を青く青く染めているのだとか。

 それを外出中に見たならば、すみやかに距離を取るようにせよ、と忠告される。

 スガタはこちらへ関心を見せることはない、とされる。けれども、やつがどこを向いていようとも、突然の所作からとっさに逃れることは非常に困難だからだ。


 スガタ現れしとき、それは入れ替わりのきざしなり。

 スガタはそのままだとただ歩いているだけに思えるが、ときおり「かしわで」を打つ。

 このかしわでを、一度まで聞いたのならばまだ間に合うが、二度目以降からは明らかな不調を人は覚えてしまう。三度となれば命を落とし始める人が出始め、四度目を聞いて生きていられたのは数えられるほどのみ。

 やっかいなのが、こいつが生き物だけに影響を与えるものではない。彼のかしわでが複数回打ち鳴らされたとき、突如として周囲の建物が倒壊してしまう恐れがあるのだとか。

 それはスガタの持つ、入れ替わりの仕事。今あるものを壊してしまう、という性質によるものなのだけど。


 僕が父さんから聞いた話をしよう。

 当時、学生だった父さんの通う学校では、かつて戦時中に設けられた防空壕あとが残っていたという。

 戦後も拡張が続けられ、全校生徒が収容できるスペースを確保し続けてきたとのことだ。

 戦争中に焼けてしまった校舎は、建て直されてさほど時間が立っておらず、階層も2階どまり。生徒数も3ケタにようやく及ぶくらいだったとか。

 そうして父さんたちが授業を受けていたとき、パアンとよく響く音が校舎の外から聞こえてきた。

 かしわでだったが、その音量たるや運動会で使われる号砲以上の大きさ。教室にいる誰もが「なんだ?」とあたりを見回してしまうくらいだ。


「……みんな、急きょ避難するぞ」


 授業中の先生が、にわかにテキストを閉じると、みんなへ避難訓練で教えた通りの動きをするよう促してくる。

 避難訓練ならば校庭か体育館のどちらかだったけど、そのときは例の拡張した防空壕の中へ誘導された。父さんたちに前後して、他のクラス、他の学年のみんなも集まってくる。畳が敷かれているとはいっても、壁や天井は簡単な補強を成された土や岩の壁がせり出している。

 いっぺんに生徒全員が入るとなると、おしくらまんじゅう一歩手前といったところだが、そうも言っていられないのが二つ目のかしわでが響いたからだ。

 地面の中だけあって、先ほどよりもずっと小さいものの、集まった生徒の中には不安そうに胸やお腹をなでる者もいる。


「スガタが出ました」


 校長先生がそう伝え、すでに知っている生徒たちは顔をひきつらせたし、知らない生徒たちは続く先生の話によって、その詳細を知った。

 先の胸やお腹を撫でた生徒も、じかにスガタと接したわけではないにしても影響が出ているかもしれない、ということで防空壕の奥へと誘導される。


 それから、ややあっての三回目。

 集まったみんなはかしわで以外にも、長く長く続く崩落音と振動に、肩をいからせてびびらざるを得なかったという。

 それでもすぐに外の様子を確かめることは許されない。まだスガタがいるかもしれず、そこでもしかしわでを打たれたならば、もろに音を受けることになる我々になにが起こるか分からない、ということで。

 おおよそ30分ほど、みんなして息を殺しながら過ごし、四回目が続かないことを確かめた上で、まず先生たちが様子を見に外へ。その後、父さんたちが案内された。

 しかし、戻るべき教室はもはや跡形もなかった。

 先の音は校舎全体が倒壊する音で、ほんの少し前まで自分たちが過ごしていた空間はがれきの山になってしまっていたらしいのさ。

 それから青空教室を余儀なくされた父さんたちだけど、引き続きスガタに対する警戒は行われ続けたとか。

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