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砂目と石

 おー、こー坊、起きちまったか。

 どうした、まだ夜も明けきらないうちだが、ションベンにでも行きたくなったか?


 ――じいちゃんが、がさごそ音立てているのが気になった?


 おお、やっぱ聞こえとったか。それなり気をつかったつもりじゃったんじゃが。

 ふむ……今からじいちゃんは外に出るが、付き合ってみる気はあるか? ちょいと危ないことがあるかもしれんがな。

 まあ、世の中危ないことなぞゴロゴロ転がっておる。昼間だって、向こうから何を仕掛けられてケガするかは分からん。暗いうちはちょいと、その領域が広がるということで、気張り続けているうちは、そう不幸もやってこんわけじゃ。

 お前も普段はできないことに、興味が湧いてこんか?


 予報によると、夜が明けるまであと一時間ばかりじゃという。その間で、わしらが相手をするのは、「砂目」と呼ばれる存在じゃ。

 こー坊は、もう砂とはどのようなものか知っていような? そう、あのさらさらとした奴じゃな。舗装されていない道かつ、泥に覆われた場所などでなければ、容易に見ることができよう。

 いま、こうしてお前に持たせた袋の中に入っとるのも、そうじゃ。ただし砂だけじゃなく、塩と薬味を刻んだものをよく混ぜ込んでおるがな。


 ――なぜ、そのような準備をしたのか?


 先にも話したように、砂目を相手するためよ……と、ちょうどよいところにいたな。


 今回は分かりやすくていいな。

 見るがいい。道の真ん中に小さい砂山ができておるじゃろ。足で踏みつぶそうと思えば簡単な大きさではあるが、巣のたぐいなら、もっとひっそりしたところに作るもの。昼には人通りが多いであろうこのような場所にわざわざ設けるか?

 砂目の仕業であろうな。で、こう怪しい砂の山を見つけたら、先に渡した砂を上からかぶせてやるんじゃよ。

 ひとつかみ程度で構わん。そいつをぱらぱらとこいつの上へ……聞こえたか、セミの鳴き声みたいなものが響いたろ?

 あれが砂目のビビる音。それにより、こいつはただの砂山と化すことができるんじゃよ。そうなれば、無害のシロモノとなる。

 こー坊も、こっからはさらに気張ってあちらこちらへ目を配れ。見つけたら、じいちゃんと一緒にやろう。


 うむ……これで、だいたいこの一帯は片付いたか。

 もう夜が明けようとしとるな。ぼちぼち帰るとするか……と、こいつは厄介じゃな。

 ああも家の真ん前を通せんぼするほどの砂山。それも見上げるほどの大きさとはな……ある意味、こー坊がいてくれて助かったかもしれん。

 まだ砂は残っておるな? こいつに砂をまぶしていくぞ。わしはこちらからやるから、こー坊は向こうへ回り込め。

 くれぐれも、こいつがのぞかせる「目」には用心しろ。山全体を見回して、もしそのすき間からのぞくまなこあらば、即座に砂をかけて潰せ。

 あと「石」の部分を見つけたら、これもすぐに砂をかけるのを忘れるな。


 ふう……うるさかった、うるさかった。

 これでこいつも、どうにか砂目を退散させることができたじゃろ。

 こー坊、服を脱げ。わしも脱ぐからな。

 なに、恥ずかしがるな。必要なことじゃ。砂目のやつめの被害は、自分だけだと見落とすかもしれんし、前も後ろもよく確かめるぞ。本格的に固まってしまう前にな。


 ――なぜ、砂目のような奴が存在しているか?


 さあ……実際のところは、じいちゃんも親から聞いたことしか分からん。

 それによると、あやつらはこの空気の下にいられない存在だという。

 外気へ肌をさらすことができず、常に砂をかぶらなくては維持することのできない身体の持ち主。じゃが、我らとともに生きるすべは、今なお確立されておらぬ。

 と、お前もわきの下をやられておるな。砂をかけて……と、よし。これでこそぎ落とせるようになるはずじゃ。じいちゃんのほうもやってくれ。


 見ての通り、あやつのまなこは視線の先にあるものを石とせんとする。

 他の生き物は平気だが、なにゆえか人にばかりこの症状をもたらしうるのじゃ。たとえ目同士が合っておらずとも、こうして身体のそこかしこに染みわたってしまってはな。話によるといかなる厚着も功を奏することはなかったと。

 こいつは放っておくと、身体の芯まで石となり、最悪切り離さねばならなくなる。しかし、間もないうちならば、こうして特製の砂で落とせる。おそらくは砂に練り込んだものたちもまた、皮膚を通して作用するのじゃろう。


 ――ん? 石になった者たちはどうして見つからんのか?


 これも聞いた話だと、砂目たちは石になったものに覆いかぶさって、内側へ取り込んでしまうんじゃと。そして、そいつは新しい砂目を生み出すための元となってしまうわけじゃ。

 石という自然にありふれたものに対し、人間というのは生き物としての種として、その総数はとうてい及ばない。ゆえに人間製の石というのは、砂目たちにとって特別、都合のいいものなのかもしれんな。


 よし、こいつですっかり石も落ちたな。

 それじゃ、この山を崩して、おしまいにするとしよう。


 ――いつか、砂目たちと共に過ごせるときが来るか?


 さてな。

 人か砂目か……いずれかが根本的に変わる何かがない限り、不可能とわしは思っている。奇跡、というものに期待できる歳でもないしの。

 それでも、わしがこの目で見られずとも、こー坊がその目で見られずとも、互いの歴史が続く限りは付き合いも変わるときが訪れるかもしれんな。

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