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ぴったしの彼

 はああ、こうモデルさんてシュッとしているの、すげえよなあ。

 そりゃモデルとかアイドルとか、並みの人間がそうそうなれねえものを具現化している側面もあるし、そりゃ目にとまっちまうものよなあ。

 つぶらやはよ、この手のモデルとかには興味ないのか? 自分がなるならないでも、誰それが好きだどうだとかでも構わないけどよ。

 お前好みに、ちょいと突っ込んだ考え方をしてみると、これは多くのものに知られる人間の「はかり」なわけだよな。基準とかものさしとか、そういうの。

 これ、勘違いするヤツが増えそうな気がするんだよなあ。世の中知らない連中とか、これをノーマルだとか思っちゃう手合い。いやあ、出会いたくないわな俺。

 でももし、そのような役目を帯びたモンが自分のそばにいたとしたら、どうなるだろうな? 最近、いとこから聞いた話なんだが、聞いてみないか?


 130センチ。

 こう聞いて「うわ、ちいさ!」と思ったら、身長を思い浮かべたことだろう。

 だいたいこの身長は10歳よりも若い6~9歳ぐらいにあたるのだという。はたから見ると子供のころに接してきたのと同じ印象だから、小さい印象が際立つのだろうな。

 ああ、別に低身長を卑下するとかが、今回の話の趣旨じゃないんだぜ。むしろ、この130センチを守るために動き続けたっちゅう人の話さ。

 いとこが学生時代、登校する時間はかなり早めだったらしいが、一番に教室へ入ったことはあまり多くないらしい。というのも、出席しているときは彼がいつも先に来ていたからだ。

 そして、その存在は廊下を歩いている時点で分かる。

 ガツン……ガツン……。

 彼が教室の壁に、頭をぶつける音が響いてくるからだ。


 すでにこの事情を知る人は多く、先生たちも言及はしない。

 彼は自然と伸びゆく身長を130センチジャストにとどめようと、こうして日々、自分の成長をおさえつけているのだと。

 ネズミが歯を削るために、ものをかじるのと同じだ。これが死活問題なのだから、どうか気にしないでくれ。

 彼はいつもそう話していたが、歯の削りと違うのが、縮み過ぎた場合には引き戻さねばならないということでもある。

 壁をどつかない日、彼は日がな一日、帽子らしきものをかぶって過ごしていたらしい。よく見ると、帽子のつばからは小さい万力のようなものが取り付けられ、彼のこめかみにあてがわれていた、とも。

 あれで頭を締め付けるようにして、縮んだ分の肉や骨格を直していくのだろうか。いとこは想像しただけで、自分の頭のほうがムズムズしてしまうような錯覚さえ覚えた。

 しかし、その成果はきっちり身長の測定にあらわれている。彼はきっちり130センチに自らの身長をおさえこんでいた。小数点以下まできっちりだったという。

 結果を出されては、いとこも文句をいえない。彼はまさに模範的130センチ。130センチモデルといっても、過言ではなかった。

 でも、そうなると疑問もわいてくる。なぜ彼はそうして130センチを寸分の狂いもなく保たなくてはいけないのかと。


 彼自身が詳しく語ってくれることはなかったが、いとこはひとつ奇妙な体験をしている。

 近所の神社で行われた夏祭りで、たまたま彼と一緒にまわる機会があったときなのだそうだ。

 出店もあらかた回り終わり、二人して最後のフランクフルトを頬張っていたところ。

 楽器の弦をはじいたような震えが、にわかにいとこの耳に飛び込んできたんだ。どこかで演奏でもするのか、といとこはあたりを見やる。

 一方、この音を聞いた彼はというと、ぴょこんと小さく飛び跳ねた。びっくりした風にも見えるが、その表情はむしろきりりと引き締まったものだ。フランクフルトの残りをせわしく口へ放り込んでしまうと、「ちょっと用事ができたから」と足早に境内の外へ駆けて行ってしまう。

 それを見送りかけたところで、いとこがふと彼のいたあたりを見ると、彼の財布が落ちていた。一緒に回る間に何度も見たから間違いない。

 渡さないと、と拾い上げてすぐに彼の後を追う。見送った限りでは全力疾走というほどじゃなかった。すぐに追いつけるだろうと踏んでいたらしい。


 が、境内を出て周囲を見回しても、彼らしい後ろ姿はなかった。家のある方向こそ知っているものの、家そのものを知っているわけじゃない。今の時代のスマホのような、手軽な連絡手段もない。

 どうやって彼を見つけようか……と思った矢先に。

 また、あの弦をはじくような音が聞こえる。先ほどよりも大きく聞こえてきている。

 あのときの彼の反応からして、彼に関係のあるものかもしれない。そう思っていとこが音の出どころへ向かう。


 それを見たのは、ほんの一瞬だったという。

 彼は家が取り壊されて久しい空き地に立っていた。その横で、地面からにゅっと木の幹らしいものが瞬時に生えたらしいんだ。

 その幹は灰色じみていて、もしこの瞬間を目の当たりにしなかったら数年も昔からそこへ生えていたといわれても、納得してしまいそうな堅牢ぶり。

 それがぴたりと自らの背と合わさったのを確かめると、彼はこちらに気づいて駆けてくる。財布を拾ってくれたお礼をいいながら、彼はいう。


「あれが、僕の130センチジャストの理由。きっちり、あそこでいったん止めないといけない目やすなのさ」


 あの植物についても、彼が詳しく語ることはない。ただそれが、何かしら害のあるものでないことを、いとこは願うのみだとか。

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