昼寝踏み
先輩って、昼寝はどれくらい普段からしていますか?
昼寝は適度にとると、午後からの活動効率が上がると聞いたことがあります。許される環境なら、とったほうがいいかもしれませんね。
しかし、それは本当に自分の意思によるものでしょうか? 身体が本当に欲しているものなのでしょうか? 考えたことはありますか?
疑うきっかけも何も得られなければ、考えの及ばないこともあるでしょう。そのほうが穏やかで幸福に過ごせる可能性も大きいかもしれません。しかし、一度疑いを持ってしまったら、それを晴らすことは難しい。
先輩も昼寝に関するちょっとした、疑いを持つかもしれない話、聞いてみませんか?
寒い季節は、身体の熱を保とうとするために全身が働きづくめでカロリーを消費するといいます。
暑い季節でも、体温を保とうとしたら同じようなもの。身体は汗をかくことで大いにカロリーを使います。それによって訪れる疲労度たるや、穏やかな気温の日に比べたらずっと大きいものでしょう。
そうなると、つい眠気に誘われてしまいます。立って動いている間は気を張っていても、いったん腰を下ろしたり、横になったりすると、もううつらうつらしないことのほうが難しい。
こうして訪れる眠気を素直に受け入れることこそ、休み時間の特権ではありますが、ふとした拍子に崩されることもあるものです。
私が一時期、家で昼寝にはまっていたとは、以前に話したかもしれませんね。
どうも、細切れ睡眠であろうと私は合計を長く寝ないと持たない感じでしたので、休みの日の昼寝は特に貴重な時間だったのです。
しかし、いつのころからかその安眠を妨害されるようになりました。
目をつむって、自分でもウトウトしてくるのが分かる前後あたりにですね、床から熱を感じるんです。
はじめは自分の身体の熱かと思っていました。あおむけにせよ、うつぶせにせよ、床と接した部分から熱くなり始めていましたからね。
しかし、回数を重ねるうちにどうやら床のほうから熱くなっているらしいことが分かったんです。しかもじっととどまっていると熱は際限なく高まっていって、私がつい飛び起きてしまうほどにまでなるんですよ。
この厄介なところが、家の中であれば場所をまず問わないというところ。
私がまどろむところ、かっと熱を帯びてくる。
さすがにトイレの便座の上までは大丈夫でしたが、あの丸い洋式便座の座り心地では熟睡にはほど遠く。かえって寝覚めが悪く感じられてしまうほど。
ひとところに居続けると、熱が高まってしまうということで、ごろごろ寝返りを打つ作戦も試したりはしましたが、これも熟睡を求める私からしたら本末転倒な作戦。結局は、床からの熱に耐えた上で、さっさと意識を手放してしまう……というのが私なりの付き合い方と結論付けたのですが。
私の身に新しい試練が降りかかります。
熱をこらえられるようになった私に、今度は足からじょじょにしびれが「のぼって」くるんです。
正座と解いたりするとくる、あのしびれです。分かりますよね?
ずっと続くわけじゃないんです。寝ている足先にちょんと、針で触れたかのような局所的かつ一瞬の刺激。気のせいかな、としばらくそのままでいると、またちょんと来る。
ぱっと跳ね起きて確かめても、足先には何もないんです。床へ転がしていたゴミなどの類はないし、首をひねっちゃいました。やむなく、また観察の時間とあいなります。
意識を失わないうちでの話ですが、この断続的なしびれはある程度、同じ箇所で繰り返されたあと、数センチほどのぼって、またいくらかしびれが。これを幾度も繰り返すんです。
――絶対に、意図的な何かだ。
そう思いましたね。
私が起きていると分かると、とたんに引っ込んでしまうのも、仮説を後押しします。
なので、私も我慢を重ねましたね。
おそらく、このままこらえていれば、しびれは顔面あたりまでくるはず。そこで正体を確かめてやろう、と。
――ん? 結局どうなったか、ですか?
いやあ、せっかちでございますね。あまりカッコいいものじゃなかったですよ。
決行の際の昼寝を決め込むと、案の定、しびれは現れました。
当然、背中の熱はすでに発生していますが、人の慣れとはすごいものですね。以前は我慢できずに暴れていたものを、じっと耐えられるようになっているのですから。
私は動きを最小限にとどめ、しびれの上昇を待ちます。
しびれはちょんちょんと、同じ箇所をいくらか叩きながら上へ。足先から膝、腰、お腹、胸と動いてきます。
あごに来ても、私は動きませんでした。次に来る顔の中央で、必ずおさえてやろうと、手を出せる用意はしていましたがね。
そして次の移動。鼻のてっぺんまで来たとき、私のハエたたきビンタが己の顔へ飛びました。以前に、これでハエを仕留めたことがありまして、ちょっとばかし自信があったんです。
しかし、これがまずかったかもですね。
鼻を叩くや、私は夢の中で崖から足を踏み外したときと同じ、落下の感触を味わいます。
直後、鉄板で肉を焼くときにも似た音が響き渡り、同時に私の身体中も瞬く間に高熱に取り巻かれます。
あわてて起き上がったときには遅く、私の全身は真っ黒に日焼けしていたんです。先ほどまで白めだったのにですよ。
そして鼻のてっぺんには、私のものとは違う、緑色の液体がべったりついていたんです。




