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回り続ける玉

 つぶらやくんは、自分の肩に自信があるかい? 遠投力のことだ。

 野球ボールを100メートル以上投げることができたなら、特に鍛えていない人の基準だと大したものなんじゃないかと思う。

 自分が投げたボールが、目で追えない地点まで飛んでいく。想像してみると、ロマンある光景と思わないかい? 道具を用いた競技ならば、さらに距離を稼ぐことも容易だろうが、やはり自分の身一つで投げたものには特別感がないかな?

 自分の限界に挑む、とは形の違い、熱意の違いなどがあっても、多くの人が興味惹かれる事柄だと思う。相手が自分でも、競うことが心身を活性化させてくれるしな。


 しかし、ちゃんと記録できている間なら、まだいい。自分のやったことであるという証拠があるわけだしな。そこへもし……ほかのものが混じってしまったら、どうなるだろうか?

 私の昔の話なのだが、聞いてみないか?


 先に話した遠投の競い合い。私も子供のときにやったことがある。

 当時は外で一緒に野球をする仲間がいたからね。草野球のおりにキャッチボールをしていると、そのうちボールをどこまで遠くに飛ばせるかが気になってくるわけだ。

 私はみんなの中では肩の強いほうで、ほぼ1位。しかし不動のトップではなく、もうひとり私と同レベルで競争する仲の子がいたんだ。

 二人の実力は伯仲しており、たいてい競い合いは私と彼の一騎打ちの様相を呈する。


 私たちなりの競技方法は、適当なところに線を引き、その線をノーバウンドで越えた者をクリアとし、ダメだったものは脱落していくスタイルだ。

 全員が投げ終わると、また線が引かれるが、先ほどよりも少し距離がはなされていく。そうしてみんなが投げて、届かなかった者が抜けていく。なにかミスやトラブルでもない限り、順当に力足りないものたちが「ふるい」にかけられるわけだ。

 その日も、私と彼がみんなを引き離して競い合っていたものの、思わぬ事故が起こった。

 私が先に投げ、定められたラインをまずは越えた。少しきわどかったものの、これまでの記録の中でも最高のもの。ここまでくれば、順当に勝ちが見えると思っていたんだ。


 忘れられないな。彼の一投は。

 このとき、思い切り振りかぶってから投げた彼の玉は、そばにいる私たちの誰もが耳にしたばかりか、帽子をかぶっていた人のそれを吹き飛ばすほどの音と風を伴っていたんだ。

 迫力もさることながら、その投げた玉もまたすさまじく速い。

 これまでの距離的に、大きくアーチを描かなくてはまず届かないはずだし、当初は投球ミスと思われたが、とんでもなかった。

 かなたに立つ、審判役の友達の横を玉はあっさり通過していってしまったんだ。最初に投げた真っすぐの球筋のままでだ。そのまま余裕で私の玉を通り越していき、重力にひかれて沈むどころか、逆にホップしながら小さくなっていき、ついには見えなくなってしまったんだ。


 私たちも、投げた友達も唖然としていた。

 トリックなどを仕込んではいない、との話で、なぜあのような弾道となったのか自分でも分からないようだった。

 落ちるところを、誰も確認していない。ここは小山の中腹にある広場であり、投げた先にあるのは空。眼下に広がるのは私たちの住まう街だ。

 ひょっとしたら今ごろ、あの街のどこかしらに落ちているのでは……そうなると探すのが厄介だし、なんといって謝ればいいだろう……。

 この場に集う一同、そう物語る表情をしていたな。その子の勝ちということはまぎれもないし、私も再挑戦したとしても、あれ以上の記録は出せない。

 みんなして荷物をまとめはじめて、山を下りたらみんなであのボールのゆくえを探そうと、話がまとまり始めていたときだった。


「なあ……うなる音が聞こえないか?」


 一人がそういい、私たちもまた耳を澄ませてみた。

 かすかだが、私たちの背後のほうから、確かにうなりが聞こえてくる。後ろは山肌を剃って反対側へ抜ける空間となっているが……。

 音はたちまち大きくなってくる。それは先ほど、あの友達の手から放たれたものと、そっくりなような。


「ふせとけ!」


 誰かがそういい、私たちも瞬く間に音の正体の見当をつける。

 ぱっとみんな伏せてほどなく、見覚えのある白球が私たちの頭上を飛び去っていったんだ。

 目でとらえられたのは、ほんのわずかな間だったがあの大きさと汚れ具合は、友達の投げたものに違いないだろう。玉は再びかなたを目指してぐんぐん前進、またしても見えなくなってしまった。


 私たちがそれから慌てふためいて下山したのは、いうまでもない。

 友達の投げた玉が、世界を一周してきた……などと話しても信じてはもらえなかったけれどね。

 でも、あの山ではそれからたびたび小動物の変死体が発見される。その身体は大きくえぐられたものばかりで、ちょうど野球の玉くらいの大きさの傷ばかりなのだとか。

 友達の玉の仕業かは分からない。ひょっとしたらそれを真似た何者かが、友達の玉を真似てよからぬことをしているのかもしれないな。

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