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既視の見

 デジャヴ、既視感に出くわした経験、君にはあるかな?

 病気とか疾患でまとめるには、健常な人でもしばしばあり得るという点で、少し無理があるだろう。科学的に再現するのが難しい現象ということもあり、今なお研究が続けられている現象のひとつだ。

 なんで、はじめての場所やシチュエーションなのに、見た覚えがあるのだろう。理由はいろいろ考えられるな。いた記憶が欠落しているのか、夢の中などでそっくりな光景を見たことがあるのか。

 あるいは自分の奥の奥の部分に、つながる何かが予言のようなヴィジョンでもって教えてくれているのかな。

 私の昔の話なのだけど、耳に入れてみないかい?


 私の友達の家は、小さいころから転勤とともに引っ越しを多くする家だったと聞いている。

 彼が生まれるより前から、いろいろな場所をめぐったらしくてね。私たちの地元にyってきたのも、10年ぶりと親から聞かされていたようだ。

 最初に訪れたとき、まだ彼はお腹の中へいたそうでね。ここの景色などは、自分の目でろくに見ることさえなかったはず、とのことだった。

 しかし、ここへ来て学校へ通いはじめたときに、どこか懐かしい景色に出くわすことがあったと話すことがあったんだよ。


 あくまで、友達の話していることだ。私たちはそれを見聞きし、判断するしかないわけで。

 それでも遠足ではじめて訪れるところへ行ったとき、私たちのいる位置からは見えないトイレや目標としている建物の位置などを、ほぼ正確に言い当てることができたんだ。

 それだけじゃなく、彼は塗り替えられる前の建物の色も当ててみせた。私たちが生まれるより前に行われたことで、先生たちなどの大人に確かめなければ分かりえないことだ。


「ここへ以前、来たような覚えがある」


 なかば、既視感による予言めいたことを話す前の、決め台詞のようになっていたフレーズだったよ。


 ただ、その友達がいっこうに足を運ばないところがある。

 私たちの利用する通学路。そのよく人が行き来する、交差点のひとつだ。そこが見えてくると、彼は露骨にそこを避ける動きを見せた。

 一緒に登下校するときは、ちくいち気をつかっているが、休みの日のプライベートでもそれは変わらない。

 彼にその徹底ぶりを尋ねると、自分がそこへ行くと良からぬことが起こる。いや、起こりそうな気がする、と話してくれた。

 どのようなことが起こるのか、と尋ねたけれども、最初は詳しく教えてもらえなかった。

 教えれば、どうしても気にかけてしまう。いい意味でも、悪い意味でも。

 それは絶対にこれから先、おかしなことを起こしかねないから、自分が変な奴扱いされるだけで済むなら、それでいいと。


 それでおりこうさんになり、退く……なんてことができれば、子供は子供をしていないんだろうなあ。

 彼が気取っているように思えた私は、それからもチャンスを見つけては、彼にその交差点でのことを聞いて回った。

 うっとおしく思った相手。それも無視してもつきまとう相手に対して、どのように対処するのがいいか。

 答え。手切れ金なりを渡して、とっととおかえり願う。

 それは私自身が、ほぼ永久的に彼に嫌われるという、人間関係的によろしくないものではあったが、好奇心が勝ってしまう、いやな子供だったな。


 そうして、すっかり機嫌が悪くなり、ぞんざいなまなざしを送るようになった彼に、ほぼ投げやりで渡された情報。

 それはあの交差点で、カラスが飛ぶとよくないということ。

 自分がいるとき、交差点でカラスが一羽だけ飛んでいくとき、よくないことが起こる。

 自分は確かにその瞬間を見た覚えがあるけれど、それは現実のものになっちゃいけないのだと。

 ただ、このとき自分は立ってはいない。寝そべるかのような視点でもって、視界もまた何かしらさえぎるものがあった。自分のまつ毛か、前髪によるものか、他のものかははっきりとは分からなかった、と。

 もしかすると、あの場で自分はなにかしらの原因でこけてしまうのかもしれない。そのときにあの景色になったなら……と。


 彼と疎遠になりながらも、ようやく聞き出せたその状況。その景色。

 狙ったわけではないが、私は偶然に居合わせることになったんだ。

 休日の外出時。私は自転車に乗っているときに、一台の車に追い越される。

 動体視力が良かったからね。その追い越し際で、車のバックシートに横たわる彼の姿がちらりと見えたんだよ。そのあとに見たバックナンバーも、確かに彼の家の車だった。

 ちょうど、場所は例の交差点の直前。

 彼の家の車は赤信号で停まったのだが、ふと空を見た私の視界の中を一羽のカラスが横切ろうとしていたんだ。


 ――もしや。


 以前に、彼に聞いた、寝そべるかのような姿勢、とはああしてバックシートで横たわる姿ではないのか。視界を邪魔するのは、車のウインドウなどを支えるフレームたちなどで、そこへカラスが飛ぶとなれば……。


 まもなく、彼の待つ車の目前で事故が起こった。

 青信号同士、互いの路線を守っていれば起こらなかった事故が、対向車同士が乗り出し、接触したことで起きてしまった。

 私はすぐ、その場を離れたから、ことの顛末は分からない。疎遠になった彼からも詳しいことを聞ける義理もない。

 ただ、彼の見た景色が、記憶がまたひとつ、確かな現実であったことを知るだけだったんだ。

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