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光影のヒロイン道

 ねーつぶつぶ。あんたが考えるヒロイン像って、どんな感じ?

 ヒーローの女版としてあげられるヒロイン。それってひと昔前のとらわれのお姫様って感じじゃないのよね~。あれはあくまで「プリンセス」って感じ。

 ヒーローの代わりを務めるってなると、何かしらの優れた力があって、影響力のあることを成して、来たる結末を受け入れて、良くも悪くも世界は大きく変わっていく……といったところかしら。

 敵役もいてくれると分かりやすいけど、まあそのときどきよね。身体をじかに張るかどうかも作品傾向によるし、物語世界において何かしらの波を起こす存在、かしら。


 あたしたちも、自分たちこそが人生の主人公と教えられる。誰のために生きるでもなく、自分のためってね。

 けれども、物語みたいにどこからが始めで、どこまでが終わりかは分からない。

 これから始まるのか。もう始まっているのか。すでに終わっているのか。

 創作の人たちは描かれないところで自由に生きているでしょうけど、私たちは描写すべき場所から場所へ、都合よくワープすることはできない。無為に思える日々も、重ねていかねばいけないわ。

 いったい、自分にいつ何が起こるのか。用心はしておいていいかもしれないわね。

 それに関して、ママから聞いた話があるのよ。あんた、ネタを探しているといっていたからね。よかったら聞いてみる?


 ママとしても、子供のころから女はか弱い者~なんて考えには、大反対だったみたいね。

 女の成長期が男よりも早く訪れることもあって、小学校高学年のころは背が男を追い越していることも多い。

 ママは大柄なほうだったし、運動神経だって高いほうで男にだって引けをとらなかった。スキあらば男のお株を奪うことへ躍起になっていた、とも話していたわね。

 それが別に男らしいことにばかりこだわることもない。授業などにおいても、抜かりなく上位でい続けること。ママなりのプライドがあったみたいね。


 その時期は、ちょうど音楽の時間でリコーダーのテストが迫っていたみたい。

 ママは今回もばっちり備えるべく、練習をかかさず行っていたとか。人前でなにかすることに対しての羞恥はあまりないし、学校の中のみならず、外でもリコーダー吹きながら歩いていたとか。

 かず練習をこなしているから、指の動きは意識しなくても滑らかな運び。後は一回でも多く重ねること。

 そう信じてやまないママが、いつもの通学路の途中。車同士がすれ違える短くも大きいトンネルへ差し掛かったとき。


 そのとき、十数メートルの長さのトンネルの中には、ママ以外誰もいないはずだった。

 停まっている車もない。トンネルの入り口側と出口側から入ってくる明かりによって、その近辺に何もいないことは分かっている。

 トンネル中央。すでに数えきれないほど演奏した課題曲を、ママがまたいちから奏でようとした際。

 数音で、ママはリコーダーから口を離したわ。自分の息の吹き込みにいくらか遅れて、別の音が響いたのを聞いたから。

 耳を澄ませてみる。自分の音に乗っかっていたからか、先ほどは大きく聞こえていたけれど、今はだいぶ忍びやか。けれども、黙りこくっているわけじゃない。

 ママの手にするソプラノリコーダーとよく似た音色。知らない曲だったけれど、ときどき音が明らかに乱れる。ちょうど指のおさえ方をとちったかのよう。


 ――まだまだ、へったくそだなあ。


 そう思いつつも、ママはトンネルを抜けようとする。

 誰が暗がりで奏でていようが構わないが、自分の演奏がわずかにでも聞きづらくなるのは勘弁。とっととこの音が聞こえないところまで行こう……。

 そう、足を早めかけたところで。


 気づくと、その女の子が目前1メートル弱のところへいたみたい。手には縦笛を持って口にあてながら、ママへ向かって歩いてくる。

 いったいどこから? と思いながらもママは反射的に脇へどいたわ。

 女の子はママを一瞥もすることなく、あたかも元から道は開いていたといわんばかりの足取りで進んでいく。口の笛もそのままに、これまでママが遠くから聞こえてきていると思っていた、メロディをかなでながら。

 すでにここはトンネルの出口近かった。こちらの明かりも向こうの明かりも、満足に届かないトンネル中央へ、ね。

 けれども、妙だった。本来は向かうにつれ闇に溶け込んでいくであろう女の子の姿が、より鮮明に見えるようになっていったのだから。

 ママにぶつかる直前は、背後から差してくる光の影響もあったから、黒い影のようにしか思えなかった。それが今はその髪、その肌、その縦笛と指。あたかも光の下へいかんとしているひとりの女の子のよう。


 それだけで終わらない。

 ふとママは自分の両手を見て、愕然とした。

 あの子とは真逆。すでに自分はトンネル外よりの光を浴びているにもかかわらず、いつもの肌の色はちっとも見えてこない。

 持ち歩いている手鏡に映してみても、自分の顔もその身体も、光の中にありながら真っ黒に沈んでいるのだから。ちょうどいま、闇をいかんとする彼女とあべこべに……。


 ――あの子に、色をとられちゃう!


 そう直感したママが踵を返して、色鮮やかになっていったあの子を振り返り、追いすがろうとしたとき、ふいに足元が大きく揺れ始めたの。


 地震でそのトンネルが半ば埋まってしまったのは、その直後のことだったわ。

 かろうじて引き返すことのできたママは、このときすでに身体が元通りの色を取り戻していたみたい。

 もし、あの子を追っていま少し深くトンネルに潜っていたら、よくて生き埋め、悪くて命をすぐに落としていたかもしれなかったとか。

 取り除かれたがれきの下からは、誰も出てこなかったみたいだけど、ママはうすうす感じている。

 あのとき、自分が消えていたなら、あの子が自分の「お株」を奪ってあべこべにこの世にあらわれていたんじゃないかと。


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