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明滅の決まり事

 つぶらやくんは、この世のルールについていかほどご存じですか?

 と、いきなりこのような問いをされても、たいていの人は困ってしまうでしょうね。

 ルール、とひとくちにいっても、規模や場所によってそれぞれ異なってきますから。いまや、この世界中にある大小さまざまなルールを網羅しようとしたら、一生をかけても足りないかもしれません。

 もし、今あるすべてのルールを知ることができたとしても、ルールは日々変わり、作られていくもの。同時に失われもしていくものなのです。

 憲法について習うとき、公布と施行についても教わったでしょう。皆にルールが変わると知らせ、準備期間を設けたのちに実際の効力を持たせるようにする。

 一部始終を知っているなら、その流れも理解できるかもしれませんが、もしそれらを知らずに突然入ってきた者や、あまりに世事にうとい者であったならば、急に世界が変わってしまったかのように感じられるでしょう。

 ルールの変更は、私たちが関知しないところで目まぐるしく変わり続けているかもしれない。以前、友達から聞いた話なのですけれど、耳に入れてみませんか?



 友達がたまたま、休みの日に外出していたときのことです。

 用事を終えて家へ帰る途中に、そばを通る運動場がありました。緑色をした背の高い防球ネットに覆われるそこは、野球にもサッカーにも使える広々としたスペースです。

 休みの日はジュニアチームたちと応援をしている人たちの姿を見かけることしばしばなのですが、この日は人はおらず、とても静かだったようですね。

 もっとも、いないのは「人」ではありましたが。


 運動場脇の、友達が通る歩道は上り坂になっており、進むほど高さが増してグラウンド全体を見ることができるようになります。

 運動場の端にある屋根付きのベンチもまた同じで、緑色のトタン屋根の全容が見えてくるのですが、その隅っこにうずくまっている影があります。

 友達はちょっとそれを見やった後、少し近づいて確かめたところ猫だったといいます。

 白い毛並みの猫が肩を寄せ合って、うつ伏せになりながら目を細めていました。昼寝でもしているのかな、と友達は思ったとか。

 二匹とも、目を細めたまま無人のグラウンドを眺めるような姿勢。天気もいいし、ひなたぼっこでもしているのかな、とその場を後に仕掛けたところで。


 ふと、友達は目の前が細かに点滅するのを感じました。

 蛍光灯の寿命が尽きかけで、最後のあがきとばかりに目障りなほど明滅をしていく。あのときとそっくりだったそうです。

 しかし、ここは屋外。頭上からそそぐ人工の光はありません。ならば太陽が? と仰ぎ見た時にはすでに、光の明滅はおさまっていました。再び、同じことが始まるような気配もありません。

 いぶかしく思いながらも、グラウンドへ向き直る友達。その目がまた屋根の上へ戻ったおり、よもやの事態を目にすることになります。


 先ほどまで、仲良く寝ころんでいた2匹の猫たち。

 彼らの片割れが、屋根の上にいるままあおむけになっていたそうです。

 それだけなら、猫単体として珍しいポーズでもないのですが、相方の一匹の動きも問題でした。そのあおむけになっている覆いかぶさっていたのです。

 しかし、それだけじゃありません。遠目で自信がなかったと話していましたが、あおむけになっている猫の首の下から股にかけて、白い身体に見合わない赤いもので染めていたんです。

 覆いかぶさる猫は、しきりに手を動かしている。その動きのたび、あおむけになる猫の白い身体へ新しく赤いものが散っていくように思えたのだとか。


 そんな、まさか。

 想像するようなむごいことが、本当に行われているというのか。友達は歩道から分かれる道、グラウンドへ向かう道へと足をむけました。

 ずっと視線は屋根へ集中させていた友達。いくらも向かわないうちに、また事態は動きます。

 おそらくはお腹を上に向けながら、惨状をさらしていた猫。その身を汚す赤が、みるみる引いていくではありませんか。

 覆いかぶさった猫がどいてからほどなく、寝ていた猫のお腹は赤がどんどんと消えていき元の白色を取り戻していくんです。

 まもなく寝ころんでいた猫は、元気に起き上がりました。かわりに、覆いかぶさっていた猫が今度はあおむけになったのです。


 先ほどより近づいたことで、はっきりしました。

 立場が入れ替わり、覆いかぶさる猫側はあおむけになる猫の身体を薄く裂いていたのです。

 寝転がる側は何も動きません。叫ぶこともしません。無防備でなされるがままです。

 覆いかぶさる側はというと、先ほど自分がされたように手代わりの前足を動かして、どんどんとその血の版図を広げていったのですが。


 また、あの明滅です。

 蛍光灯なき、蛍光灯のいまわ。その明滅が始まるや、覆いかぶさる猫があわてて、手をこれまでと逆へ動かします。

 切り開くような動きは、つなぎ合わせるようなものへ。まもなく、寝転がっていた猫からも悲痛な叫びがあがります。

 喧嘩のときに聞くときとはまた違う、痛みと苦しみへのあえぎ。その響きの中、やがて寝転がっていた猫は起き上がると、二匹連れ立って屋根の向こうへ消えていってしまったのだとか。


 それから数日の間、近所では猫の変死体が数多く見つかったとウワサになったみたいでして。

 いずれもあおむけになって、首から股にかけてを広く開かれている……と聞いたら、友達もうならざるを得ません。

 あの明滅から明滅までの間、猫たちには特別なルールが課されていたんでしょうかね? お腹をさばいても死なず、縫い合わせることも造作なくなる、そのようなルールが。

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