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コンビニ座敷わらし (ファンタジー/★)

 は〜い、こーちゃん、いらっしゃい!

 驚いたかい、コンビニになってたなんて。今のご時世、お酒を売っているだけじゃ、商売あがったりだからね。ちょっと趣向を変えたってわけよ。

 それでも家の構造は変わらねえ。表が店で、裏が家。

 長年親しんだ住まいだ。そう大胆にリフォームしたんじゃ、ご先祖様に申し訳が立たないような気がしてくるんだよ。

 ささ、疲れただろう。上がりなよ。


 ほい、コーラと大福。

 糖分補充とはいえ、妙ちきりんな組み合わせだな。あ、大福はおれも欲しいから、楊枝は二本つけさせてもらった。

 お代? はは、律儀だな、こーちゃん。子供ならホイホイとプレゼントしちまうんだが、こーちゃんももう大人だしな。きっちりいただいとくぜ。毎度あり!

 世間じゃ二十四時間営業が当たり前だろうけど、この年じゃ午後十一時が限界だ。

 こーちゃんもいつまでも若いままだと思うなよ。体力過信して、車にひかれる、ご老人のような最期は嫌だろう?

 そんで、もう一つ大事なことがある。それは神様に感謝するってこった。商売では特にな。

 ほれ、うちにも神棚があるだろう? こーちゃんもネタが欲しいだろうし、今日はうちの神様の話をしようか。


 うちの神様は、「座敷わらし」。妖怪の世界では、大御所だよな。

 座敷わらしのいる家は裕福になり、去っていくと没落しちまうっていうのが有名どころ。

 日本全国に色々な言い伝えがあるが、うちの座敷わらしは、男の子と女の子の二人組だ。毎日、お供え物をしている。

 ご利益はどのようなものがあるか? はは〜ん、気になるのか。

 いいだろう。今日は調子がいいから見せてやるか。説明するより実演した方が早い。

 こーちゃん、そのままコーラと大福を食べていて構わん。少し時間をもらうぜ。


 ふんふん、なるほど。

 こーちゃん、今日、お金をおろしてきたばかりだろう? 財布の中にたんまりお金が入っているはずだ。これからまた、色々なところを巡るんじゃないのか。

 ビンゴのようだな。さっき、こーちゃんが出したのは小銭入れ。どうして出していない財布の中身まで分かったのか、不思議だろ。

 うちの神様のご利益はこれだ。調子がいいと、やってくるお客の懐具合を察することができる。もっと調子の良い時には、その人が何を欲しがっているかが分かる。タバコの銘柄さえもな。

 だから、来店する客を見て、彼らの欲しがるものが、さりげなく目に入るように調整する。ここら辺はご利益によらない、経営戦術だな。

「これこれはないですか?」なんて尋ねられたりしたら、それだけで時間のロスにつながっちまう。そこまでの人はめったにいないが、品物を探す手間がもったいないだろう。無駄なコストカットの一環ってわけだ。

 他にも、俺が神様を大事にしなきゃいけねえって、一層、強く思った出来事もあった。

 さっき、このコンビニは午後十一時までの営業にしているって話したよな。あれは年以外にも理由があるんだ。

 

 コンビニに改装した当初は、ここも二十四時間営業だったんだ。

 でも、新しいコンビニということで、求人募集に来てくれたのは、学生たちが大半だった。経験者は、どうやら静観を決め込んじまったらしい。

 学生を夜遅くまで働かせるわけにはいかないからな。午後十一時以降は、俺一人ですべての業務をやっていた。

 それで、ちょうど深夜二時あたり。店の中の客がはけて、そろそろ掃除を始めようか、とレジの前にモップをかけ始めた時。

 一人、客が来たんだよ。フルフェイスのヘルメットをかぶってのご来店。不審度マックス。そして、見たところ、素寒貧と来ている。さすがにシナリオが読めたぜ。

 案の定、その客は俺の目の前まで来て、ナイフを突きつけてきたよ。金を出せ、ってな。

 俺か? 素直に金を出す準備を始めたよ。武術の心得はあったが、けがをしたり、悪いうわさが広まったら、こんな場末のコンビニはあっという間に壊滅だ。

 金で健康が買えるなら、安いもの。ただ、人の目につきやすくするため、さりげなくモタモタしてやった。

 そしてお約束の「早くしろ」コールだ。バカな奴だと思ったよ。

 人を急かしてまで、そんなに早く犯罪者になりたいのか。今なら、まだ引き返せるというのに。

 それでも、プッツンされたら厄介。札束を揃え始めた時だ。


 自動ドアが開いた。反射的に俺も奴も、そちらを向いちまったね。

 客が来たんじゃない。店から出ていったんだ。確かにさっきまで、店内には俺と奴しかいなかったというのに。

 出ていったのは、小さい男の子と女の子で、手をつないでいた。お祭りの帰りを思わせる浴衣姿で、下駄を履いていたよ。

 奴は俺に構っている場合じゃなくなった。通報されたりしたら、一巻の終わりだからな。

 その二人を追いかけて、外に出ようとしたんだ。だが、モップをかけたばかりの床の上。急に走れば、どうなるか。

 奴は見事に、前のめりにずっこけた。その上、棚の角に顔をぶつけた。

 結構な勢いがついていたからな。ヘルメットのバイザーを突き破って、大惨事だ。

 お世話になるのがパトカーじゃなくて救急車になったのが、奴にとっての不幸中の幸いだな。障害者になるかも知れねえが、前科持ちにはならなかったんだ。

 あの男の子と女の子は、そのまま姿を消しちまって、それっきりだよ。


 ありゃ、楊枝から大福が落ちちまった。とと、こーちゃんもか。

 どうやら、座敷わらし様たちが、お話料をお求めみたいだぜ。

 ちょっと落ちた大福をくれ。一緒にお供えしよう。

 うちでは、こうやって食べ物が落ちる時、いつも感謝の気持ちと共に、神様に捧げている。

 お金も幸運も、巡り巡って、自分に返ってくると信じているからな。



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