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引き寄せる運

 先輩、そちらの収穫はどうですか? こちらの戦況はあまり芳しくありません! 残り10枚。何とか元が取れるといいんですが……。こんな時こそ、気合ですね!

 ふん、はあっ、てぇりゃーっ! ……ダメでした。

 いやいや、そこで涼しい顔で、目線そらすのやめましょうよ! 私がバカみたいじゃないですか! あとは先輩にかかっているんですから、お願いしますよ。


 結局、惨敗ですか……私たちの人生、ここから下り坂ですかね……。

 たかがスクラッチくじで、大げさ? いやあ、どうせ生きているんですから、大いなる右肩上がりを味わいたいと思いません? 下落とか低空飛行とか、望まずにやらされているだけで、内心ではじっと耐えている人は多いでしょう。

 だから。ここらでどかんと一発、自分がホントはついているんだと証明できたらと思うんです! 宝くじには夢がある!

 あ、でも自分の目線ばかりで、利益を追いかけるのも危険ですかね。

全体の仕組みを把握し、そこまでいけなくても想像をしてみる。人間に与えられた武器ですから、大切にしないと。

 いきなり殊勝なことを言い出して、どうしたか? いやあ、ちょっとくじをめぐって思い出した話があるんです。聞いてみません?


 宝くじは、寺社の勧進のために、江戸時代には存在していたそうですね。それから長い禁止期間を経て、戦費調達のための「勝札」が行われ、戦後の法律が制定されたおかげで、こうして宝くじができるようになったとのこと。

 私、小さい頃は、目の飛び出る額のお金が当たることに、驚きが隠せませんでしたよ。こんなにもらっちゃって、ちゃんと利益は出ているのか、なんて。でも、そんな心配、杞憂でしたね。

 販売実績のうち、大体4割くらいはしっかり収益が出ているみたいです。宝くじって儲かるんですね。だから個人や会社が作成することはできないように、取り締まられているとか。

 当たるかどうかのスリルが手軽に味わえる、くじ。ですから宝くじでなくても、デパートとかでは様々なくじが展開されているのは、先輩もご存知かと思います。


 私の友達の近所にあるデパート、頻繁にくじ引きイベントがありましたね。季節の変わり目どころか、開店記念とかお客様感謝デーとか、様々な区切りで行っていましたよ。それこそ、行っていない月なんてない、と言えそうな勢いで。

 いわゆる、何円以上の買い物をした人にスタンプが押されて、そのスタンプが規定数以上溜まると、抽選ができます。箱に手を突っこんでくじを引く、昔ながらのスタイルだったみたいです。

 私の家からは遠いので、話程度しか聞いたことはないですけれど、一等だと豪華海外旅行。それ以外の商品も粒ぞろいだったと聞いています。


 やがて、そのデパートは閉店することが決まったそうです。上の経営方針が関係しているとかで。大方の予想通り、閉店セールにかこつけて、くじ引きが行われましたよ。くじ引きの箱も、お店のマークが金色に縁どられて、少し豪華な仕様です。

 友達の家も、友達自身を含め、あって困らない日用雑貨をそれなりに買いあさり、くじ引きに臨んだとのことです。さっきの私みたいに、無駄な気合を入れながらね。

 最終的な収穫は、友達自身が当てた三等のマッサージチェアとのことでした。友達としては五等にあったおもちゃ詰め合わせが良かったみたいですけど、親にはベタ褒めされたので、まあいいか、と思ったとか。

 ただ今回は、運の振り戻しがあったようです。


 例のマッサージチェア。保証期間は5年間だったみたいですが、ものの1ヶ月で故障してしまったそうです。無償で交換してもらいましたが、それもまたしばらく経ったら故障。

 これが何回も繰り返されて、友達の家も苦情をぶつけたらしいですが、2年間で10回以上の交換となると、タダとはいえ、さすがに面倒になってきたようです。今じゃ、また壊したら面倒ということで、家に封印してあるとのことですよ。

 でも、友達の家は、まだいい方らしいです。例えば、友達の目当てであったおもちゃ詰め合わせセットを手に入れた、近所の子供。わずか2カ月後に、近所の公園でおもちゃを広げて遊んでいたところ、ワルのガキ大将におもちゃを取られてしまい、追いかけまわして道路に飛び出した瞬間、走ってきた車とぶつかってしまったとのこと。幸い、命に別状はありませんでしたが、何ヶ月もの入院を強いられることになります。

 一等の海外旅行を手にした家も、旅行先で病気をうつされてしまったらしく、帰国後に発病。やはり病院送りになってしまいました。今でも完治しきれていない、重い症状だと聞いています。


 これらの事故は、話を聞いた人からすれば、運が悪かった以上のことは追及できないでしょう。ただ、友達を含む、あのくじを引いた人からすれば、不気味なことこの上ありません。

 そしてデパートの跡地は、今も買い手がつかず、荒れ放題となっています。施錠されていて中に入ることはできないようですが、それでもガラスが無数に割れていて、浮浪者の溜まり場になっている可能性もあるそうです。

 その証拠に、友達が学校帰りに、たまたまデパート跡地のそばを通った時、誰もいないはずの建物の中から、けたたましい笑い声が聞こえてきたとのことです。

 わずか数秒ほどでしたが、友達はよく覚えているようですね。というのも、いつもなら何もないはずの建物の入り口に、その日は閉店セールの際に使われた、あの金縁のくじ箱が置かれていたからです。

 そのくじ箱の周りは、陽炎のように揺らめきつつ、淡い光を放っていたとの話でしたよ。



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