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転び地蔵のうわさ (ホラー/★★)

 うん、どうしたんだい、こーらくん。じっとお地蔵さんを見つめているみたいだけど。

 頭巾を被っているお地蔵さんは初めて見たかい? 結構、多いんだよ。お地蔵さんが頭巾と前掛けをしているのって。

 頭巾と前掛けを、もう一度見てごらん。どちらも赤いだろう。

 これはね、お地蔵さんが子供たちを導いてくれるという言い伝えにのっとっているんだ。生まれて間もない子供のことを「赤子」や「赤ん坊」というだろう? 赤い装いに身を包んでいるのは、彼らの手を引いてあげる存在であることを表しているんだ。

 もっとも、これは先生なりの考えだけどね。世の中には、色々な考え方を持っている人がいる。

 子供を導くどころか、逆にひどい目に合わせてしまおうとする、悪いお地蔵さまの話もあるのさ。見る人、聞いた人によって感じることは違うけどね。

 ちょっと、悪い評判が立ってしまった、お地蔵さんの話をしてあげようか。時間をもらえるかい。

 お、こーらくん、いい顔をするじゃない。先生も嬉しくなってきたよ。


 お地蔵さんは、本来、地蔵菩薩という名前だ。苦しみ悩む人を、限りない優しさで包み、救うものといわれている。

 特に「子供の守り神」という見方をされることが多いね。子供向けのお菓子が供えられているのは、そのためだよ。

 そして、お地蔵さんは道の守り神として、まつられている。道祖神という奴だね。

 道祖神はただ、行き交う人を見守るだけではない。村と村の境界線を明らかにしたり、災いが中に入り込まないように、守ってくれる力があるんだ。

 こーらくんとしては、納得がいかないかな? 目に見えないものを防ぐというのは。

 確かに災いは、ことが起こらないと目にすることはできない。でも、それは同時に手遅れでもあるんだよ。

 準備をして、何も起こらないと、がっかりするかも知れない。だけど、それによって自分たち以外の多くの人が苦しまずに済む。

 取り越し苦労だけになれば、世の中は少しだけ良くなるだろう。苦労している人の不満は溜まるだろうけどね。


 とある田舎のこと。

 一体のお地蔵さんが、村の外れに作られていた。先ほどもいったように、村の境目を表すためだね。

 ただ、そのお地蔵さんは、全身に大小さまざまなヒビが入っていた。長年、風雨にさらされて、人知れず災いを防いでいたんだ。傷ついてもおかしくなかっただろう。

 もっとも、目に映らないから、ありがたみが分からず、敬う人も少なかった。

 その日も、空を飛ぶ鳥からフンをまともに浴びて、相変わらず微笑んでいたんだ。

 臭いが染みついたままのお地蔵さんだが、やがて妙な噂が飛び交うようになった。


 そのお地蔵さんの前を一人で通ると、必ず転んでしまう、というものさ。

 最初は数人が騒いでいただけだったのだけど、このような話を聞くと、肝を試したくなるのが、人間というものだねえ。

 怖いものみたさに、実際に試したところ、噂は事実だったんだ。

 お地蔵さんの前を一人で横切ろうとすると、必ず転んでしまう。足をぐっとつかまえられる、力強い感触があるらしいよ。その証拠に、つかまれたところには、手の形に青あざがくっきりとつく。

 この転ばされる現象。二人以上で通ったり、近くに人の目があったりすると、絶対に起こりはしなかったらしい。

 現象を味わった人たちは考えた。たたりにしては、規模が小さすぎる。これはお地蔵さんの何らかのメッセージじゃないか、という考えが出た。


 真っ先に思い浮かべたのが、埋蔵金の存在。まさに、「ここ掘れ、わんわん」と同じ思考回路だね。お地蔵さんの周りの地面が手当たり次第、掘り返されたんだ。

 だけれど、出てきたのはいくつかの植物の根と、地中を住まいとする生き物たちだけ。金の粒一つ、出てきやしなかった。

 次は自分をきれいにしろ、というお告げ。お地蔵さんの体は洗われて、ヒビは上から塗られて消えたものの、時間を置かずに新しいヒビが入ってきた。

 どうも、化粧が下手でお気に召さなかったらしい。誰がやっても同じことになるから、身を清めることを求めていないと、結論づけられた。

 そうなると、お地蔵さんをあがめることに落ち着くんだね。先ほども話した、赤い頭巾を被せてね、子供の好きそうなお菓子を供えていくわけだ。

 相変わらず、転ばせ続けるところをみると、よほど頭にきていたみたい。いつか、機嫌を直してくれるまで、人々はお地蔵さんを大切にしていくことを決めたとのことだよ。

 こうして「転び地蔵」は、その存在を、多くの人に知られるようになった。


 ん? 「転び地蔵」なんて聞いたことがない?

 ああ、それは仕方ないね。もう何年も前に、お地蔵さんは壊されてしまったんだよ。

 その子はたたりとかを、いっさい信じない子で、転び地蔵もどうせ迷信だろ、と鼻で笑うつもり、まんまんだったという話だ。

 当然のごとく、彼はこけたわけなんだが、お地蔵さんに怒りだしたんだよ。手に持っていたランドセルで、ひびだらけのお地蔵さんを、めちゃくちゃに壊してしまったんだ。

 だけど、ほどなく彼は、悲鳴をあげて、その場に尻もちをついてしまった。声を聞きつけて、近くに住んでいる人も集まって来て、それを見たんだ。

 壊れたお地蔵さんの内側には、茨がびっしりと生えていたそうだよ。その中央には巨大なつぼみがあって、心臓のように脈打っていた。

 茨の先っちょは、人の手のひらのような形をしていて、閉じたり開いたりを繰り返しながら、うねっていたんだ。

 誰も見たことのない植物で、どう対処すればいいかわからなかった。

 そして、みんなが見ている前で、太陽にさらされた植物らしき物体は、つぼみも茨も瞬く間に縮んでいき、最初から存在しなかったかのように、きれいさっぱり消えてしまったという話だよ。



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