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出る子は打たれる

 ねえねえ、こーちゃん、聞いた? あの学校の共学化の話。

 長年の女子高だったのに、近くの高校と合併してさ、男子生徒の受け入れが始まるみたいだよ。

 伝統を振り切って、思い切った決断をしたと思わない? 実際は経営難とかなんだろうけど、ロマンやポリシーのために意地を張りたくなるのも人間。現実的な判断ができる人がそばにいてくれると、ありがたいだろうね。理想ばかりで、ご飯は食べれないし。

 よくさ、創作とかだと合体って、強化手段の一つに取られるじゃない。でも現実問題、都合よくいかないことも往々にしてある。

 前に、合体したことで起こった、不思議な話を聞いたよ。興味はないかい?


 学校の統合の話をしたけれど、少し規模が大きくなれば、市町村合併も合体の一つといえないかな?

 理由はどうあれ、人々は属するコミュニティの変更を余儀なくされる。たとえ、場所を動かなくたって、魂はその拠り所を変えざるを得なくなるんだ。

 そうなると、不可解な現象が起こるのも、無理ないと思わない? 

 よくあるのが、「知らない間に増えている一人」。中でも、僕のおじさんが体験したパターンはこんな感じだ。


 おじさんが小さい頃に住んでいた市の名前は、もう存在していない。隣の市に吸収されるような形で、姿を消してしまった。

 おじさんも新しい学校に通うことになって、クラスメートたちと打ち解けようと、毎日遊んでいたみたいだね。

 定番は、鬼ごっこやかくれんぼなどの、大人数で行うもの。それも予め時間をきっちり区切って遊ぶようにしていた。前の学校では、全員の気力が続く限り、終わらなかったから、ちょっと妙な感覚だったと、おじさんは話していたな。

 どちらかがギブアップするまで続けたらいけないのか? おじさんがそう問いかけると、こんな答えが返ってきた。


「時間をかけすぎて何かが起こると困るから」


 答えた友達いわく、ずっと遊んでいると、ふとした拍子に人数が増えていることがあるんだそうだ。

 おじさんとしては、「そんな迷信を信じているのか」と内心、鼻で笑ったらしい。どうせ、友達の誰かが無断で加わってきただけじゃないのか、と

 でも、表立ってバカにしては、今後の自分の立場に悪影響が出る。なら、秘かに自分だけでもまやかしのタネを明かしてやる、と思ったらしいね。


 その日のかくれんぼの参加者は12人。制限時間は30分。

 おじさんは最初、隠れる側だったのだけれど、こっそり自分を含めたメンバーの名前を書いたメモを取っておいた。筆記用具は持ち歩かず、メモだけ肌身離さず持っている。

「さて、本当に怪異だとしたら、どうやって増えたことを気づかれないようにする?」とおじさんは半ば喧嘩を売るような姿勢で、かくれんぼに臨んだみたいだよ。


 見つけたり、見つかったりを繰り返して、20分以上が経過した。おじさんは暇さえあれば、握りしめたメモを盗み見て、参加メンバーを確認する。確かに12人、間違いない。

 かくれんぼの後は、必ず点呼を取る。それ以前にも何回か、わざと鬼になって、確認代わりにみんなを見つけていた。

 誰かが途中で加わったのなら、絶対に誰か分かる。例え、みんなが納得しなくても、俺自身は納得しちゃうぜ、と自己満足にほくそ笑んていたみたい。

 隠れていたおじさんは、やがて腕時計がタイムリミットを指したのを確認する。かくれんぼの最後にも点呼を行うようにしているから、取り決められた場所に向かうおじさん。

 みんなはまだ来ていなかった。今まで、みんなが時間に間に合わないということはなかったから、不思議だったみたい。


 それから数時間経ち、日が暮れても、誰一人やってこなかった。集合場所は間違えていないはずなのに。

 まじで置いてけぼりにされた。察したおじさんは、ここから一番近い友達宅を訪ねた。

 友達が出てくると同時に首を傾げる。さっき、みんなで集まった時、家の人と一緒に出掛けるから、と言って帰ったんじゃないのか、と。

 おじさんは自宅に足を向ける。家はわずかな明かりもついておらず、静まり返っていた。鍵も厳重にかけられている。

 本当に出かけているんだろうか。今朝は、そんな気配などみじんもなかったのに。携帯電話がない時分、呼び出す手段は、おじさんになかった。ひたすら待つだけ。

 ところが午後九時を回り、日付が変わり、丑三つ時にさしかかっても、誰も帰ってこない。いい加減、眠気に抗うのも限界だ。すでに何回もやってきた、声や大きな音を出すことは、はばかられる時間帯。

 家族はどうしているのか。それ以前に、「俺」はどうしたんだろうか。疑問を浮かべながら、おじさんは玄関のドアに寄り掛かって、うとうとしたらしい。


 はっと目覚めると、おじさんは家の中の自分の部屋で、いつも通り眠っていた。そして、いつも通り、自分を呼ぶ母親の声がする。

 おじさんはいつもの慌ただしさで準備を整えたけど、腹が立っていた。もしかすると、母親は、あの時玄関で眠りこけていた自分を、ふとんに寝かせて、自分の落ち度を隠そうとしているんじゃ、と思ったらしいね。

 うやむやにするのは嫌で、母親に昨日の件を遠回しに非難したけど、「いったい何があったの?」と心底、不思議そうな顔をされたみたいで、追及できなくなっちゃったみたい。


 学校でもいつものクラスに入ってあいさつしたけど、どこかおかしい。昨日も、あいさつすれば、みんなが返事をしてくれたのに、今日はクラスの中の誰一人、おじさんを見向きもしない。自分から声をかけて、ようやく反応をしてくれる始末。

 無視するな、と詰め寄ると、みんなは一様に言うんだ。


「さっきあいさつしたし、ずっと座っていたじゃないか。何度もあいさつしないと、不安になることでもあったのか?」


 一体、友達が接していた者は何だったのか、おじさんには分からないことばかりだったけど、何日か経つと事情が呑み込めてきた。

 学校のみんなは、自分からおじさんに声をかけなくなっていたんだ。おじさんから話しかけて、ようやく反応してくれた。

 かくれんぼやそのほかの遊びをする時も、あの日みたいに勝手に解散されて置いてけぼりをくらう。全員を問いただしても、「さっき一緒に帰っただろ」の一点張り。

 そして毎晩、明かりも反応もない家から閉め出される。ずっと起きていようとしたけど、丑三つ時に差し掛かると、絶対に勝てないほど強力な睡魔に襲われ、目覚めると布団の中だったみたい。


 やがて、学校でおじさんに声をかけてくれる人は、いなくなってしまった。しつこく詰め寄り過ぎたせいかもしれないし、本当に「おじさんではない何か」がおじさんになりすましていたのかもしれない。

 ただ、おじさんが感じたこと。それは、このままだと「居ながらにして、存在が消える」ということだ。

 同時におじさんは、観念した。どうやらあの時、友達が言っていた「おかしなこと」の術中にはまってしまったらしい。紛れ込んだ「おじさんではない何か」を追い払うには、この合併によって生まれた、新しいコミュニティに溶け込むしかない、と判断したって。


 謙虚に接するようになったおじさんは、やがて今までのように声をかけられるようになって安心したみたい。

 ただ、遊びで点呼を取る時、二回名前を呼ばれる時が、子供の頃はずっと続いたらしいよ。



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