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骨董市場でお買い物

 やったぜ、つぶらや! 念願のレトロパソコンゲームを手に入れたぜ!

 なに? ころしてでも奪い取る?

 はーっはっはっは! 無駄無駄ァ! ハードを持たない貴様に、何ができるというのだね? 説明書だけ読んで、ソフトの中身を妄想するくらいだろ。

 それとも違法手段に手を染めるのか? 亡霊になってでも、通報してやるぜ!


 ん? なんでリメイクが出ているのに、原版を買ったか?

 おいおい、ゲーマーなら分かるだろう。原作ならではの、殺伐とした感じがいいんだよ。最近のリメイクは、間口を広げようとユーザーフレンドリーな傾向が目立ってねえか?

 冒険、冒険と言ったって、その実、ストレス解消の接待旅行に過ぎねえ。

 画面越しの命の危機。最後に感じたのはいつだった? あの無体な世界を、もう一度味わいたくなったんだ。懐古と言われようと、いいと思うものは、いいんだよ。俺にとってはな。

 だが、すべては過去を大事にしてくれる誰かのおかげだ。モノに気を取られている俺たちは、その存在を蔑ろにしちゃいけないと思う。

 過去を取っておくものたちの話、興味はないか?


 俺の父が、まだ子供だった時のこと。

 父は小さい頃から、めんこやビー玉を集めるのが好きだった。新しいものばかりじゃなく、誰も持っていないような、古いものも気に入っていたらしい。父の父親たる祖父が芸術家で、色々なものを収集していたから、その影響を受けたんだろう、と自分で話していたぜ。

 傷や汚れがあっても、構わなかった。紛れもない「過去」を、「今」の自分が手にしているというのに、心が惹かれたという話だ。ゲームに例えたら、伝説の武器、幻のアイテムを手にしている優越感、満足感かも知れないな。

 暇さえあれば、掘り出し物屋を訪ね歩いたという父。界隈を歩きつくしたと自負していた頃に、祖父が題材を得るための、引っ越し話が出たらしいから、渡りに船だったろうな。


 移り住んだのは、ごみごみした都会から離れた、空気のうまい田舎。

 ああ、田舎と言っても、車がないとどうしようもないってほどの場所じゃないぞ。俺の感覚だと、未舗装の砂利道や田んぼがあれば、どこでも田舎だ。偏見まみれですまんな。


 それで父は、引っ越しが住むと、早速付近の散策に出かけたんだ。

 昔からの名残なのか、けっこうな数の神社があったらしくてな。これまた昔ながらの定期市みたいなものも開かれていた。

 父としても興味しんしんだったみたいで、付近を練り歩いたらしいぜ。毬、お札、小刀……いかにも、いわくがありそうな品が目白押しだ。

 当時を振り返って、「あの頃は若かったな」なんて懐かしがっていたぜ。

 だが、そんな父が、思わぬ品に出くわすことになるんだ。


 その日も散歩をしていた父だったんだが、山の中へと足を伸ばしたんだそうだ。

 霊験あらたかな神社というのは、高く険しい山の中にある、というお約束に則ったらしい。

 時刻は昼過ぎ。朝に弁当として用意した、三個の特大おむすびも、残り一つとなっていた。未だに収穫は芳しくなく、「今日は外れかな」と半ばあきらめかけていた時。

 木立の奥から、人の話し声が聞こえる。二人、三人というものではない。大勢だから成せる、声の群れ。それが父の耳朶を打った。

 声に導かれるまま、父が森の奥へ奥へと進んでいくと、開けた空間に出る。そこでは紅い鳥居を取り囲むように、屋台が並んでいたとのことだ。


 そこは山の中だというのに、地面が整っていたこと。そして、晴れていたのに、雨の日みたいに地面も屋台も濡れていたことを、父はよく覚えているらしい。

 屋台を見て回ると、取り扱っている品も様々。

 中には「河童の皿」とか「龍の尾」なんていう、怪しげなものまであって、胸が躍ったってよ。ただ、どれも父の手持ちより、ゼロがいくつも多いものばかりで、本当に需要があるのか、首を傾げそうな価格設定だったらしい。

 しかし、どうにか手土産を入手したい。そうして、歩き回った父はやがて一軒の屋台の前で足を止めた。


 そこでは絵や人形を売っていた。ところどころ傷みがあるせいで、想像以上に安い。しかし、どこか心惹かれるものがあったらしい。

 父が特に気がかかったのが、粗末な木製の額縁に入れられた絵。花瓶に生けられた、ユリの絵だった。

 いくつものつぼみに囲まれて、一つだけ花開いている姿に、勝利とか可能性とかのメッセージを感じたって話だ。だが、その絵の値札に数字が書かれていない。

 父が理由を尋ねると、店主は「あなたの思い出のある品物と交換です」と答えたらしい。


 不思議なことを言うな、と思った父だが、このようなノリは嫌いじゃないし、例の絵は見れば見るほど、心が引きつけられて、是が非でも手に入れたい衝動に駆られてくる。

 父はいつも持ち歩いていたビー玉のうち、一番年季の入ったものを差し出す。深い一文字の傷が入っていたが、何年も一緒にいた相棒だ。

 店主は虫メガネを取り出して、丹念にビー玉を見つめていたが、やがて大きくうなずいた。交渉は成立したんだ。

 父が絵を受け取ると、軽く地面が揺れた。まるで一緒に喜びを表すようだったと、父は感じたってよ。

 面白い買い物をしたな、とスキップしそうな足取りで家に向かったらしい。


 ところが、家に帰ると祖父が絵を見るなり、驚いた顔をした。そして、父に詰め寄って来る。


「どこでこの絵を手に入れたんだ」と。


 いわく、この絵は祖父の処女作なのだという。

 祖父としては、認めがたい不出来で、手元に置きたくない。しかし、芸術家を志した思い出の品でもあり、焼いたり破いたりする気になれなかった。悩んだ挙句、当時の住まいの近くにあった、池に沈めたとのことだった。

 父は絵を購入した屋台の話をすると、祖父と二人でその場所に向かう。


 わずか一時間足らずの時間で、屋台たちはすっかり姿を消していた。それどころか、地面さえも消え失せて、ぽっかりと巨大な沼が残っているばかりだった。

 父があっけに取られている横で、祖父が絵の額縁を外すと、内側には水草がびっしりと生えていたそうだ。

 後で地元の人に聞いたところ、その沼ははるか昔から存在する、底なし沼なのだという。それをいい事に、今までの人々はゴミ捨て場として使っていたらしいんだ。

 だけど、今回の父みたいに、本来は失われたはずのものが、世代を超えて手に取られることがあるらしい。そのいずれもが、父みたいに、屋台で物々交換をして手に入れた、とのことだ。


 その屋台たち、文字通りの「掘り出し物」を引っさげて、ひょっこり浮かんでくるんじゃないかと、俺は思うんだ。

 父が預けたあのビー玉も、もしかしたら俺の思い出と引き換えに、戻ってくるかもしれねえな。



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