Death Doga(ホラー/★★)
あ、先輩。ちょっといいですか。僕の作品の宣伝をさせてください。
いつの間に本を書いたんだ?
いやいや、僕に先輩ほどの文才はありませんよ。実はですね、実況動画を撮って、動画サイトに載せることにしたんです! 収録の環境がようやく整ったんですよ。
こんなこと、先輩以外じゃ数えるほどの人にしか言えなくて……。ほら、僕のクラスってお堅い奴らばかりで、アホな動画さらしてるなんてバレたら恥ずかしいですし。
かといって、誰も見てくれない、コメントしてくれないじゃ、死にたくなるじゃないですか。お願いですから、見に来てください! コメしてください!
――いいんですか!? やった!
じゃあ、動画のタイトルと僕のハンドルネームを伝えます! 今日の20時からですよ!
先輩先輩、どうでした、昨日の動画?
学校の時とは、別人のようなテンションだったな?
キャラづくりですよ、キャラづくり。これからも、あのテンションで盛り上げていくので、よろしくです!
――え、撮影している後ろで、変な声が聞こえた?
ああ、それはウチの猫だと思いますよ。家の中をぶらついていますし。
猫の声じゃなくて、もっと別の何か、の気がする?
またまたあ……脅かさないでくださいよ、ぶるぶる。
ついつい、怖い話を思い出しちゃうじゃないですか。先輩も関係あるんですから、聞いといた方がいいと思いますよ。
僕の友達も、かつて動画をアップしていたんです。先輩もハンドルネームを聞けば、「ああ、あいつね」とうなずくくらい、有名だった人ですよ。僕みたいな実況と、動画や音声を切り貼りして作る「MAD動画」が持ち味でしてね。
数年前まで精力的に活動していたんですが、長年、収録機器をいじくっていると、彼らも不満なのか、音声が途切れたり、ノイズが紛れ込んだりしてしまうらしいのですよ。
後で見直して撮り直したりすることもあるんですが、面白い異常は敢えて放置したままアップしたりと、ウケ最優先の思考回路なんですよ。
その中でも、ひときわヤバくて、投稿をやめるきっかけになった出来事があったんです。
その日は、友達の定期更新している動画の配信日。アップ直前に動画の見直しをしていたそうです。
アニメのMAD動画です。同じアニメ内でも、違う回同士や、テレビと劇場版をごちゃ混ぜにして、会話ややり取りが奇跡的に成り立つタイプの、抱腹絶倒ギャグ動画。
その中のあるシーンで、音つき緊急速報のテロップをぶち込んだらしいんですよ。オチへの前振りとしてね。
登場人物たちが、ちょうどテロップで驚いたかのように仕込んだし、問題ないことを確認して、投下したみたいです。
友達はパソコンを複数台持っていまして、リアルタイムでみんなの反応を見るべく、観賞用の二台で動画を見ていたそうです。
片方はリアルタイムで鑑賞して、もう一つは更新をしまくって、再生数やコメントのチェックに使うとのことです。
すでに固定ファンがいますから、再生数はガンガン伸びます。そして、例の緊急速報に差し掛かったのです。
音とテロップ。あたかもそれを受けて驚いたかのような反応をするキャラたち。コメントでも大受けする視聴者。ここまでは彼の計算通りでした。
ですが、テロップが消えると、友達が仕込んでいないテキストが表示され出したんです。
「すいません。落とし物をしてしまいました。ここからは見ない方がいいですよ」
友達が仕込んでおいたのは、爆弾が雨あられと降って来る、いわゆる爆破オチでしたから、あまり内容と矛盾しないテキスト。視聴者も「親切すぎるだろ」というコメントで、ギャグとして受け止められたそうです。
ただ、友達としては気に食わなかった。今まで面白ければ、異常を黙認してきた友達ですが、「見ない方がいい」などと視聴者を減らすような真似が我慢できない、とのことでした。
確認したそうですが、手元にあるオリジナル動画に、このテキストはありません。
それからも、友達は動画を投稿し続けたようですが、入れていないはずの速報テロップとテキストは、相変わらず紛れ込んでいたとのこと。
「落し物はまだ見つかっていません」とか「もう少し時間をもらいます」とかの報告の後に、決まって「見ない方がいいですよ」という一言が、定型句のように入っているんです。
最初の方は面白がっていた視聴者たちのコメントにも、ネタのマンネリ、つまらなさを指摘する声が目立ち始めました。
投稿前に何度も見直したにも関わらず、空気をぶち壊していく闖入者に、友達は怒り心頭。その翌日もふくれっ面で学校に向かったんですが、クラスの様子が変です。
妙に欠席者が多いのでした。それも友達が動画をアップしていることを知っている人ばかり。
不審さを感じながら席に着くと、知人の一人に話しかけられます。
今、休んでいる人たちは、動画を見ていて重度のけいれんを起こし、入院しているらしい、というのです。
友達は、さすがに驚きました。光の点滅などで、似たような症状が出ることは知っています。ですが、友達がアップした動画は、視聴者に配慮して、視覚的にきついシーンは入れていないはずでした。
それからもけいれんで休む人たちは増え続け、先生の中にも同じような症状が蔓延しだしました。その影響か、友達の動画も、「呪いの動画」という不名誉なタグがつけられ、コメントによる激しいバッシングがあふれました。
みんなに楽しんでもらいたい。ただ、その一心だったのに、どうして。
友達は悩みぬいた挙句、アップロードした動画をすべて削除するのみならず、アカウントも消してしまいました。
それからというもの、休んでいた人たちが学校に来はじめて、クラスは元通りになりました。みんなは友達の動画が直接の原因ではないと言ってくれましたが、友達自身のダメージは拭えません。
家に帰り、自分のパソコンのハードディスクに残っているデータたちも消そうとします。
でも、最期の弔いのつもりで、自分の動画を再生します。
しばらく、暗闇が続いたかと思うと、早回しにしたように、動画のシーンが次から次へと映し出されます。
同じシーンは一秒も表示されません。高速シャッフル状態です。目まぐるしく変わり続ける画像に、友達が気持ち悪くなり始めた頃。
場面が異なる、キャラクターたちの台詞を一文字ずつ借りて、誰かからのメッセージが読み上げられます。
「見つかりました、ありがとう。次はもっと落ち着いて、皆さんをお迎えにあがります」
言い終わると、パソコンは強制的にシャットダウンしました。友達はサポートセンターも含めて、あらゆる手を尽くしましたが、復旧はかなわず、パソコンを廃棄することになります。
全力を出しても助けられなかったパソコンとの別れに、友達は逃れられない「死」を感じた、と言っていました。