表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/3097

Death Doga(ホラー/★★)

 あ、先輩。ちょっといいですか。僕の作品の宣伝をさせてください。

 いつの間に本を書いたんだ?

 いやいや、僕に先輩ほどの文才はありませんよ。実はですね、実況動画を撮って、動画サイトに載せることにしたんです! 収録の環境がようやく整ったんですよ。

 こんなこと、先輩以外じゃ数えるほどの人にしか言えなくて……。ほら、僕のクラスってお堅い奴らばかりで、アホな動画さらしてるなんてバレたら恥ずかしいですし。

 かといって、誰も見てくれない、コメントしてくれないじゃ、死にたくなるじゃないですか。お願いですから、見に来てください! コメしてください!

 ――いいんですか!? やった! 

 じゃあ、動画のタイトルと僕のハンドルネームを伝えます! 今日の20時からですよ! 


 先輩先輩、どうでした、昨日の動画?

 学校の時とは、別人のようなテンションだったな?

 キャラづくりですよ、キャラづくり。これからも、あのテンションで盛り上げていくので、よろしくです!

 ――え、撮影している後ろで、変な声が聞こえた?

 ああ、それはウチの猫だと思いますよ。家の中をぶらついていますし。

 猫の声じゃなくて、もっと別の何か、の気がする?

 またまたあ……脅かさないでくださいよ、ぶるぶる。

 ついつい、怖い話を思い出しちゃうじゃないですか。先輩も関係あるんですから、聞いといた方がいいと思いますよ。


 僕の友達も、かつて動画をアップしていたんです。先輩もハンドルネームを聞けば、「ああ、あいつね」とうなずくくらい、有名だった人ですよ。僕みたいな実況と、動画や音声を切り貼りして作る「MAD動画」が持ち味でしてね。

 数年前まで精力的に活動していたんですが、長年、収録機器をいじくっていると、彼らも不満なのか、音声が途切れたり、ノイズが紛れ込んだりしてしまうらしいのですよ。

 後で見直して撮り直したりすることもあるんですが、面白い異常は敢えて放置したままアップしたりと、ウケ最優先の思考回路なんですよ。

 その中でも、ひときわヤバくて、投稿をやめるきっかけになった出来事があったんです。


 その日は、友達の定期更新している動画の配信日。アップ直前に動画の見直しをしていたそうです。

 アニメのMAD動画です。同じアニメ内でも、違う回同士や、テレビと劇場版をごちゃ混ぜにして、会話ややり取りが奇跡的に成り立つタイプの、抱腹絶倒ギャグ動画。

 その中のあるシーンで、音つき緊急速報のテロップをぶち込んだらしいんですよ。オチへの前振りとしてね。

 登場人物たちが、ちょうどテロップで驚いたかのように仕込んだし、問題ないことを確認して、投下したみたいです。


 友達はパソコンを複数台持っていまして、リアルタイムでみんなの反応を見るべく、観賞用の二台で動画を見ていたそうです。

 片方はリアルタイムで鑑賞して、もう一つは更新をしまくって、再生数やコメントのチェックに使うとのことです。

 すでに固定ファンがいますから、再生数はガンガン伸びます。そして、例の緊急速報に差し掛かったのです。

 音とテロップ。あたかもそれを受けて驚いたかのような反応をするキャラたち。コメントでも大受けする視聴者。ここまでは彼の計算通りでした。

 ですが、テロップが消えると、友達が仕込んでいないテキストが表示され出したんです。


「すいません。落とし物をしてしまいました。ここからは見ない方がいいですよ」


 友達が仕込んでおいたのは、爆弾が雨あられと降って来る、いわゆる爆破オチでしたから、あまり内容と矛盾しないテキスト。視聴者も「親切すぎるだろ」というコメントで、ギャグとして受け止められたそうです。

 ただ、友達としては気に食わなかった。今まで面白ければ、異常を黙認してきた友達ですが、「見ない方がいい」などと視聴者を減らすような真似が我慢できない、とのことでした。

 確認したそうですが、手元にあるオリジナル動画に、このテキストはありません。


 それからも、友達は動画を投稿し続けたようですが、入れていないはずの速報テロップとテキストは、相変わらず紛れ込んでいたとのこと。

「落し物はまだ見つかっていません」とか「もう少し時間をもらいます」とかの報告の後に、決まって「見ない方がいいですよ」という一言が、定型句のように入っているんです。

 最初の方は面白がっていた視聴者たちのコメントにも、ネタのマンネリ、つまらなさを指摘する声が目立ち始めました。

 投稿前に何度も見直したにも関わらず、空気をぶち壊していく闖入者ちんにゅうしゃに、友達は怒り心頭。その翌日もふくれっ面で学校に向かったんですが、クラスの様子が変です。


 妙に欠席者が多いのでした。それも友達が動画をアップしていることを知っている人ばかり。

 不審さを感じながら席に着くと、知人の一人に話しかけられます。

 今、休んでいる人たちは、動画を見ていて重度のけいれんを起こし、入院しているらしい、というのです。

 友達は、さすがに驚きました。光の点滅などで、似たような症状が出ることは知っています。ですが、友達がアップした動画は、視聴者に配慮して、視覚的にきついシーンは入れていないはずでした。

 それからもけいれんで休む人たちは増え続け、先生の中にも同じような症状が蔓延しだしました。その影響か、友達の動画も、「呪いの動画」という不名誉なタグがつけられ、コメントによる激しいバッシングがあふれました。

 みんなに楽しんでもらいたい。ただ、その一心だったのに、どうして。

 友達は悩みぬいた挙句、アップロードした動画をすべて削除するのみならず、アカウントも消してしまいました。


 それからというもの、休んでいた人たちが学校に来はじめて、クラスは元通りになりました。みんなは友達の動画が直接の原因ではないと言ってくれましたが、友達自身のダメージは拭えません。

 家に帰り、自分のパソコンのハードディスクに残っているデータたちも消そうとします。

 でも、最期の弔いのつもりで、自分の動画を再生します。

 しばらく、暗闇が続いたかと思うと、早回しにしたように、動画のシーンが次から次へと映し出されます。

 同じシーンは一秒も表示されません。高速シャッフル状態です。目まぐるしく変わり続ける画像に、友達が気持ち悪くなり始めた頃。

 場面が異なる、キャラクターたちの台詞を一文字ずつ借りて、誰かからのメッセージが読み上げられます。


「見つかりました、ありがとう。次はもっと落ち着いて、皆さんをお迎えにあがります」


 言い終わると、パソコンは強制的にシャットダウンしました。友達はサポートセンターも含めて、あらゆる手を尽くしましたが、復旧はかなわず、パソコンを廃棄することになります。

 全力を出しても助けられなかったパソコンとの別れに、友達は逃れられない「死」を感じた、と言っていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ