天の光はすべて客 (SF/★)
いや〜、プラネタリウムは久しぶりに見たけれど、やっぱりいいものだね。
僕は天体観測よりも、星空関係のアニメや演奏の方が、興味があるんだよ。
何というか、癒しってやつ? がっつり天文学、という人もいると思うけど、リラックスしたいのだよねえ、僕は。
つぶらや君は星座の伝説はたくさん知っているだろう。今日は退屈じゃなかったかい? 途中眠そうになっていたけれど。
社会人はどかっと椅子に腰かけただけで、疲れと眠りに襲われる、因果なご身分だからねえ。そんな君をハッスルさせるには、やはりストーリーしかないかな。
これは宇宙関係の仕事に就いている、おじさんから聞いたものだよ。
星座という概念が現れたのは、古代エジプトだと言われている。
人、もの、神の姿に見立てた星座。時期によって見える星座が違うから、それを元に、暦を分けようとする試みがあったらしい。
星々は、長い年月の中で、徐々に位置を変えている。あと何百万年も経てば、僕たちの知っている形の星座は、すっかりなくなってしまうかも知れない。だけど、星の命がある限り、光は地球に届き続ける。
遠い遠いところから、こんな辺境の惑星までやって来るなんて、物好きな観光客がいたものだよ。そして彼らは、しばしば僕たちにとって、興味深い現象をもたらしてくれる。
世界各地にある、様々な巨人伝説。その中でも、雲一つない夜に現れる、巨人については知っているかな?
出会うのは、たいてい山や深い森の中だ。これらの妖の類は、夜の闇に乗じて、極力目立たないように、人の心を揺さぶるのが常道。
しかし、この巨人は堂々と目の前に姿を表すらしい。目撃者の話によると、突然、大きな足が天上から降りてきた、という話だ。
特撮やパニック映画でさ、家屋で眠っていた人が、屋根を突き破って床に刺さる、巨大生物の足におののくシーンとか、見たことないかい? ちょうどあんな感じなんだってさ。
だが、怪獣とかと違う点は、そいつは自分がいた物的な証拠を一切残さない点にある。
足跡を残すことはおろか、巨人が触れたはずの木々も、身じろぎ一つしない。あたかも、存在しないかのように、あらゆる物体をすり抜けていってしまうんだ。
これは昔の人にとっては、幽霊そのもの。聞いたところによると、全国どころか世界中に出没しているらしいよ、この透けた巨人は。
共通点は、見上げても足しか見えないということだね。とてつもない高さを持っていたんだ。そして、目を離したすきに、いつの間にか姿を消してしまう。
長年の研究の末、この巨人は、数十年ごとに数週間の間、各地に現れていることが判明したんだ。
第二次世界大戦が終わり、科学は急激なスピードで発展を遂げた。その力を使い、謎の巨人の正体を突き止めようという動きが、水面下で繰り広げられていたんだって。
やがて科学は、人類を新しいステージに押し上げる。宇宙飛行の成功だ。
大国の宇宙を巡る競争に関しては、もはや語るべくもないけど、一部の関係者たちは秘かに心を躍らせることになる。
今までは空を飛んだとしても、見上げることしかできなかった、巨人の正体。地球という枠組みを飛び越えた宇宙からなら、突き止められるんじゃないかとね。
月への到着。宇宙ステーションの開発などを経て、経験を積み、技術を増していく人類。
やがて、周期の時期が訪れる。その年代は過去最高の回数の、有人宇宙飛行が試みられた。様々な期待を胸に抱き、地上にいる人々は彼らの報告を待ちわびた。
そして、ついに望み通りの報告を持ち帰ることに、成功したメンバーがいるんだ。
このことはあまり表向きにしちゃいけないらしいんだけど、おじさんはこの手の話を鼻で笑う人だったから、聞き出すことができたよ。
ロケットから見た地球の映像に写り込んでいたもの。
遠景では地球に生えた、もやしのようにしか見えない。しかし、拡大してみると、その一つ一つは、神話の英雄を思わせる、毛皮の腰巻きを身につけた偉丈夫の姿だった。
彼らは、あるいは海を、あるいは大地を足場にして、ボクシングをしていたんだ。繰り出される拳を、ガードすることはあっても、よけることはしない。
血も汗も飛び散らないけれども、足をあまり動かさない打ち合いが、地球のあちらこちらで繰り広げられていたんだ。
だけどこの時、別方向を撮影していた映像がある。
いつの間にか、ロケットの周りを――とは言っても、何万キロも離れているみたいだけど――無数の光が取り巻いていたんだってさ。
それはボクシングの展開と共に、激しくまたたいたり、しぼむように光が弱くなったりしたらしいよ。
やがて、巨人たちのボクシングは唐突に終わりを告げる。
彼らはいきなり、ふっと消えてしまったんだ。テレビのスイッチを切ったように、突然ね。
同時に、ロケットを取り巻いていた光たちも、地球から遠ざかっていく。時々、光同士が寄り添って、会話するように点滅した。
まるで、僕らが映画を見た後に、その内容をくっちゃべっているかのような、動きだったんだってさ。