意外と耐性が無いようです
「シロより怖いって言われた・・・・・・。嘘でしょ。そんなこと言われたの。ボクちん初めてだよ。」
クロノワール様がブツブツ言っているのは放っておいて、翼竜王アズキーヌ様のところに向かう。
大きいっ! 身長はマッチャロール様より少し大きいだけなのだが、その背中には大きな翼が仕舞われており、その分さらに身体が大きく見える。
「アズキの体長って本当は100倍位あるんだよ。今は隷属の首輪の制約でこのサイズだけど。」
僕が見上げていたからかクロノワール様がいらない補足を入れてくる。100年後にしか見れないことを教えるなよ。少なくとも僕が生きている間に見ることにはないな。
「伸縮自在なんですね。もっと小さくなることもできるんですか?」
僕がそう言うとアズキーヌ様が頷いてくれる。そして、どんどん小さくなっていく。可愛い。丁度、僕の頭位まで小さくなっていた。僕がしゃがむとその小さい翼で僕の肩に乗ってくれた。
まるで妖精みたい。魔界の緑樹王の領地に居ると言われているが誰も見たことがない。
「モーちゃんよろしくね。私のこともアズキって呼んでね。」
耳元でそう囁くと、ほっぺにキスをしてくれる。良かった。小さくなってもらって、ほのぼのとした雰囲気だったからか。公爵令嬢の視線は冷ややか程度で済んでいる。
「・・・・・・こちらこそ、よろしくお願いします。アズキさん。」
僕の呼び名はモーちゃんで決まりらしい。まあいいけどね。店番をしていたときでも年上の女性から呼ばれる場合は、『モトラちゃん』だったり、『モトちゃん』だったり、必ず『ちゃん』が付いている。気にしても仕方が無い。
「私もモーちゃんと呼んでもいい?」
「勘弁してください。」
公爵令嬢からだった。ごめんなさい。図に乗ってごめんなさい。助けてください。まだクビになりたくないです。
「なんで土下座っ!」
モーちゃんなんて呼ばれたら何をやらされるのかと戦々恐々としてしまう。そんなところを公爵様に見られたりしたら・・・。恐ろ・・・しい。
「待っていたよ。殴りあいがいいか? 剣を使うのがいいか?」
好戦王コーヒーズ様のところまで来たら、いきなり戦うことを迫られた。しかも肉体美を誇るように最小限の布で秘部を隠しただけで殆ど裸同然の格好だ。それでいて色気の欠片も無いのは、変なポーズを付けながら喋っているからだろう。
金髪で日焼けしており、その身体は筋肉の固まりにみえる。胸の大きさをそれなりにあるように見えるが変なポーズを付けながらピクピク動いているところをみるとあれも筋肉なのだろう。人族にありえない赤い瞳じゃなければ、イカレたSクラス冒険者の女性といった雰囲気だ。
「剣がいいです。」
「なるほど。レイピア遣いか。勇者アレクサンドラの家系らしいのう。1度やりあってみたかったのだ。安心していいぞ。隷属の首輪の制限で急所は狙えないからな。」
腰に提げたレイピア見てそう告げられる。隷属の首輪の制限って緩いな。普通『戦えない』とかじゃないのか?
「じゃあ、お互いに体調が万全なときにやろう。何時がいいか? 次回の警護任務のときでは如何かな。」
「ダメだよ。次回はボクちんが相手をしてもらうんだから。次の次はシロでしょ。次の次の次がボクちんで次の次の次の次がシロだから、コーヒーの回は永遠に来ないね。」
突然、クロノワール様が話しに割り込んでくる。2回に1回は相手をしてほしいらしい。
僕は100回に1回も相手したくないっ!
出来れば顔もみたくないっ!
何でだろう。この拒絶反応は。自分でも上手くコントロールできない。
「次回稽古をつけていただけますか?」
レイピアの腕を磨くための本当の意味での師という存在が居なかったから丁度いい。レイピアを主に使う人間は皇族関係ばかりでその殆どが女性だ。コーヒーズ様はレイピア遣いじゃないかもしれないがアレクサンドラ様の剣筋とかを知っていそうだ。
「楽しみにしておるぞ。」
コーヒーズ様が上機嫌になっていく。本当に戦い好きのようである。
「本当に君ってボクちんのこと嫌いなの? 信じられない。覚えていなさいよ。」
単に公爵令嬢が恐いだけです。貴女に本気で迫られたら理性は簡単に焼き切られそうですもんね。仕事中にそんなことになったらクビ決定です。下手をしたら爵位まで取り上げられそうです。
「シロさん。助けてクロさんが虐めてくる。」
怒りを向けてくるクロノワール様から逃げて、シロヴェーヌ様の後ろに隠れる。
「モーちゃん 虐める ダメ 許さない 」
後ろに居てもシロヴェーヌ様の死の恐怖がビリビリと伝わってくる。敵意を感じたのかクロノワール様が一瞬で消え、部屋の端っこまで移動している。
「シロさん。もうその辺で・・・。」
その余波にやられたのか近くに居た公爵令嬢が倒れそうになるのが見えたので慌てて抱き支えて、シロヴェーヌ様を止める。これくらいしないとクロノワール様には効かないらしい。
公爵令嬢は気絶していた。気絶していれば只の女の子みたい。公爵様も娘に恐がられたくないのか。それとも直系には効かないのか。余り恐怖に耐性が無いようだ。