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シロさんが愛おしいです

「モトラヴィチっ!」


 公爵令嬢が僕に抱きついてきて耳元で泣き叫ぶ。物凄くうるさい。


 あれっ。僕、今死んだよな。息をしている感じもしない。確かに死んでいる。


 これは臨死体験というやつだろうか。ここで息を吹き返してこのことを覚えていれば1冊の本が書ける。


 でも霊体が聞いているというよりは、実際に耳で聞いている感じがする。呼吸は止まってもまだ生きているのかも、このままジワジワ死んでいくのか。なんか嫌だな。


 散々泣いて気が済んだのか。公爵令嬢はムクリと起きあがると僕の顔を見つめる。


 こちらも死んで動けないから、視線をそらせない。しかし、美人だな。この人は。あれだけ泣いた後だというのに薄化粧が崩れても、その美しさは全く損なわれていない。


「これじゃあ、二の前じゃない。私は疫病神もいいところだわ。今回は、アレクサンドラ様もいないから蘇生させることもできない。」


 僕は覚えていないが前にも僕は死にかけたらしい。そのときにアレクサンドラ様に助けて頂いたようだ。


 彼女の顔が近づいてくる。唇を重ねられる。まさか死姦の趣味があるのだろうか。


 彼女の腕が肩に回り込み抱き起こしてその胸に抱きしめる。死後硬直は始まっていないらしい。


 そこでようやく唇を離してくれた。


「誘拐犯から助けてくれた貴方。貴方は知らないけども、ずっと私の王子さまだったのよ。なのに最後の言葉はシロヴェーヌ様とクロノワール様だなんて。あんまりだわ。」


 公爵令嬢が誘拐されたときに出会ったらしい。女の子が拐かされかけてたら、身を挺して庇うよ男の子ならね絶対。当時10歳だったけどレイピアを持って警備の真似事をしていたらしいと聞いたことがある。


 しかし、そこに文句を言われても、告白されてもいないものをどうしろというのだ。


 まあ公爵令嬢から告白されても悪い嫌がらせにしか思えなかっただろうけど。


 でもそういう理由があったのなら、賊に扮して救出に来たのもわかる気がする。僕が復讐されるとでも思ったのだろう。彼女にとっては、一刻の猶予も無い状態だったのだ。


 しかし、この人意外とうかつ過ぎるんじゃないだろうか。帝国の諜報部を取り仕切るキャラバン公爵家という恨まれる存在だったのにも関わらず、外を出歩いて誘拐されかけたり、賊に扮して救出を試みたりと。公爵様は苦労していたんだろうな。


 公爵令嬢は、そっと元の位置に寝かせてくれる。このまま死姦されるわけではなさそうである。


「とにかく、殿下と父に連絡してみるわ。ゾンビでもいいから、私の胸に戻ってきてね。」


 ああ、冥界王と死霊王なら、そんな戻り方もできるかもしれないか。僕なら身体が腐った状態で戻りたいとは思わない。だけどシロさんの寂しさを紛らわせるためなら、その姿で傍でお仕えするのもいいかもしれない。


 公爵令嬢が出て行くと今度は子爵夫人が近寄ってきた。


 すみません。すみません。嫌な思いさせてごめんなさい。


 謝りたくても身体はピクリとも動かない。まあ死んでいるのだから、仕方がないけど。


 彼女も同じように僕の顔の真正面に顔を向けてくる。泣きはらした目から視線をそらしたいけどやっぱり動かない。そのまま、彼女の手が僕の背中に滑り込んでくる。


 ぎゃ。めちゃめちゃ感じる。背中の中央を触らないでっ。


 僕を起こすと自分の胸に抱え込むと膝の上に乗っける。


 流石にこの体勢は無いんじゃないだろうか。僕は幼児じゃない。成人しているんだ。


「坊や。私の坊や。どうして、死んでしまったの。私を置いていくなんて酷い子ね。」


 なんだろう。完全に目が逝ってしまっている。ここに心が無い状態だ。


 このセリフを前に抱きしめてくれたときにも言ってなかっただろうか。


 もしかすると、彼女には死んだ子供がいたのかもしれないな。


 僕はその子供の身代わりだったのかもしれない。


 何度も何度も子供の死に直面させるなんて、僕はなんて恩知らずな奴だ。


 あんなに優しくしてもらった癖に、何一つ恩返しもせずに頼ってばかりで、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。






















 おかしい。いくらなんでもおかしい。


 臨死体験というには長すぎる。


 このまま、自分の葬式を見ることになるのだろうか。土葬だから棺に入れられてこのまま埋められるのだろうか。身体が全て腐り落ちるのをずっと棺の中で見つめ続けなくてはならないのだろうか。


 そのときだった。真っ赤な顔をした公爵令嬢と共に1人の女性が駆け込んできた。


 クロだ。クロノワール様から連絡が来たのだろう。


「良かった。貴方のままだ。」


 クロが僕をジッとみると笑顔でワケのわからないことを呟く。僕が死んでいるのにクロの笑顔が見れるなんて。


「もう大丈夫ですよ。葬式もしませんし、棺に入れたりもしません。」


 まるでこちらの状況がわかって言っているかのようだ。


 子爵夫人の膝の上から僕を奪い取ると軽々と抱っこされる。


 いくら僕が小さいからって、その扱いは止めてほしい。できれば子爵夫人に優しくしてあげてほしい。


 そのまま、門の外に止まっているあの黒い馬車に乗り込んだ。


「これから、裏後宮に向かいます。貴方は死霊王に触れていますので、死んで丸1日後に死に戻りをします。」


 僕を馬車に乗せると横からしっかりと抱きかかえる。


 反対側から寄っかかっているのは身体の大きさからすると公爵令嬢のようである。


 なるほど、死に戻ってくることが分かっていればクロが微笑みかけてくれたこともわかる。そして告白を全て聞かれてキスまでした公爵令嬢が真っ赤な顔をしていたのもわかる気がする。


「意識が残っているのはその所為です。ですがゾンビにもなりません。もうすぐ朝を迎えると世界樹の果実の効果を得ます。それで元の健康体に戻れますよ。あとは頑張ってその身体にしがみついていてください。」


 僕は死んだことを受け入れられなくて、身体にしがみついていたらしい。恥ずかしすぎる。


「あの女性の膝の上に乗っていたことが良かったのかもしれません。あの女性の思いが他の霊体を寄せ付けなかったようですから。ここから裏後宮までは私と貴方を愛しているという公爵令嬢で守りきりますし、裏後宮では冥界王も死霊王もいらっしゃるので絶対大丈夫です。」


 他の霊体に身体を奪われる可能性もあるということだ。きっと、生きている人間の強い思いの傍には、他の霊体が近寄ることができないのだろう。


 そのあとのことはあんまり思い出したくない。右から左から念仏のように始終愛を囁かれて、朝が来て健康体に戻ると2人して身体中を弄ってくるのだからたまらない。


 クロの話では快感を手放したく無いと身体と精神の結び付きが強くなるのだという。イヤイヤ恥ずかしすぎるからもう何も言わないでお願い。やっぱり、クロノワール様だわこの人。


 馬車は手配してあったのか皇宮の門を素通りして、裏後宮の門に到着した。


「うわぁぁ。凄いね。門の外にまで、死の恐怖が漂ってきているよ。霊体といえども、というよりは1度死んでいるからこそ近寄りたくは無いんだろうね。」


 確かに怖い。でもこれがシロさんなんだと思うと愛おしくなってくる。


「本当に平気なんだね。凄いね。私の愛する旦那様は。」


 クロは結構平気な振りをしながら、歯をガチガチ鳴らしている。公爵令嬢は・・・・気絶しているらしい。

予想は合っていましたか?

正解は「ヒロインの独白で話が進み、主人公の過去が語られ、世界樹の果実で健康体になり、死に戻ってくる」です。

③以外は全員正解です。正解者に拍手。

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