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独り占め出来ないみたいだ

「その前にここでキスをして頂けませんか?」


「はあ。はい、もちろん構いませんが。」


 突然のことで動揺してしまい微妙な反応を返してしまった。


「いえ。分体のうち誰でもいいから『唇を奪ってこい。』というのがクロノワール様に昨日指示頂いたことなんです。それで『ボクちんが一歩リードだ。』だそうです。・・・どうもすみません。」


 あまりにも子供っぽい指示なためか謝ってくれる。でも大歓迎だ。こんな美女にキスできる名目をくれたクロノワール様に大感謝である。


 なるほど、それを指示するために昨日交代する際にお会いできなかったのか。


 分体とキスで一歩リードね。


 シロさんとは濃厚なキスをしたし、マッチャロールのおっp・・・世界樹の果実をくわえた気がするけど。まあいいか。それでクロノワール様が満足してくれるのならば。


「この身体がお好きであれば、触って頂いても構いませんよ。遠目では良く見えなかったでしょうが、こんな格好をしています。」


 クロが何かを合図したのだろう。ソファーの周囲が突然明るくなった。


 そして、目の前にあったものは、肌色の下地に黒い柄のレオタードじゃなく黒い柄をペイントされている素肌だった。横からみれば胸の先の形も良くわかるし、下はもじゃもじゃしていた。


 なるほど、この人もクロノワール様だ。男の欲望というものを良く知ってらっしゃるようである。


「チュ。」


 相手に言われたからといって、いきなり胸とかを触ったりしない。壊れ物を扱うように背中に手を回し、軽く触れるようなキスをして身体を離す。


「これだけですか? 私は全然満足できませんが。」


 物凄く不満そうに頬を膨らます。こういったところはクロノワール様にそっくりだ。まあ分体なんだから当たり前なんだけど。


「それもクロノワール様の指示ですか?」


 流石にこれ以上進むのに彼女の本体とはいえ、別の意識が介在した行為はつらいものがある。


「いいえ。私自身の言葉です。分体にも欲望というものがあるのですが、本体の意志を無視して情を交わすわけにはいかないのです。ですから、貴方が私を選んでくださってとても感謝しています。できれば私の全てを差し上げたいんです。」


 ここまで言われれば僕も男だ。クロノワール様のことは意識の隅に追いやる。今は目の前の美女とキスを楽しもう。


 改めて彼女の背中に手を回し、今度はしっかりと抱きしめる。彼女の膨らみが僕の胸に当たり押しつぶされる感触が伝わってくる。


「・・・ん・ふ・・ぅ・・。チュ・・ん・・・ぬぅ・・・。」


 ヤバイヤバイ。キスの経験値が違い過ぎる。クロは経験してないらしいから、クロノワール様本体の経験なのだろう。


 しかも彼女の手が身体の至る所を這い回る。だが背中の真ん中を触ってこないところをみると隷属の首輪の効果は彼女にも及んでいるようだ。


「まだよ。まだ足らないわ・・・ん・ちゅ・・・んふっ・・ぁ・・あん・・・ずぱ・・・ゃ・・・。」


 随分、長い間キスを貪りあっていたが、ようやく離してくれた。既に僕の身体の一部は臨戦体制に陥ってしまっている。


「あら嬉しい。感じてくれたのね。向こうに素敵な部屋があるの。そこに行かない?」


 クロが早急なのか。クロノワール様らしいというべきか強引に先に進めようとしてくる。こういったショーを見せてくれる小屋には、気に入ったダンサーと入れる部屋があるということは聞いたことがある。いかに豪華に装っていてもそこは小屋の一部でとてもそんなところでイチャイチャしたいなんて気持ちは浮かんでこない。


「そうよね。せっかくイチャイチャするんだったら、もっと素敵なところが沢山あるものね。ごめんなさい、オバサン舞い上がっていたわ。」


 僕が首を振るとそう謝ってくる。


「出来ればオバサンとかお婆さんとか自分を卑下することも止めてもらえないかな。君は美女だ。とっても若くて綺麗なんだからね。」


「あっ、うん。そうよね。若い分体に言われるのでついつい言ってしまうのよね。気をつけるわ。」


「そうとも、誰にみせても羨ましがる僕の恋人さ。」


「恋人・・・嬉しいっ! とても嬉しいわ。何番目でもかまわないから大事にしてね。」


 そうか。シロさんのことは知っているんだった。僕もいい加減不誠実な人間だな。いずれ家に縛られることはわかっているのに・・・ダメな人間だ。


「そう言えば、クロノワール様にはどこまで伝わるんだい? こうやって触れていることも伝わってしまうのかな?」


 分体が今、何体いるのか知らないが、さきほど踊っていた女性だけでも6人いた。きっとそれの何倍もの分体がいるだろう。


 その分体の5感や感情など全ての情報がクロノワール様本体に行って、その情報を全て処理しているとは到底思えない。だがその境目を知っておくことは必要だ。


「クロノワール様が意識すれば、私と同調することも可能だけど、そんなことはめったになさらない。それに接触しなければ過去の記憶も取り出せないみたい。普段は私が伝えたいと思うことを思い浮かべてお伝えするだけよ。だから初めの軽いキスだけ伝えておくわ。だから、もっと沢山キスをして頂戴。・・・ん・っ・・・む・・ふ・・ぁ・・・ちゅ・・ぱ・ぁ。」


 テレパシーみたいなものは存在しているみたいだ。


「クロはキスが大好きだね。サラッとして気持ちいいクチビルだよ。」






















 クロを連れてオシャレな店が建ち並ぶ通りを歩いている。まずは、軽く買い物をしてから、レストランに入るつもりである。


「クロを連れ出した時に払う花代は幾ら? このランクの店の相場がわからなくて。大金貨があれば足りるかな。」


 帝都にある水商売のお店では、お店の女の子を連れ出しても花代を取る店は少ない。だが高級店は違う、僕が利用するランクの相場は大体教えて貰ったが、ミッシェルクラスとなると想像がつかない。


 一応こちらが接待することも考えて、高級店を貸切にできるくらいのお金は持ち出してきている。


「多過ぎるわよ金貨2枚あれば十分。だけど必要無いわ。こちらが招待したんですもの。」


 金貨2枚か痛いな。これから頻繁にショーと僕のお休みが重なる日を狙って連れ出そうと思ったけど、僕の小遣いでは月に1回が精一杯みたいだ。


 こんな美女を僕が独り占めしようと思ったのが間違いだったのだ。


「そう。じゃあ、デート代は僕に持たせてね。夜のショータイムが始まるまでに帰ってくればいいんだよね。」


 ヘイム商会が新しい国に進出する場合は、いつも夜の街で顔を売って、その伝手を使い商売を広げていくのだそうだ。だから商会を預かるクロにも3日に1日はショーの出番があるらしい。


 昼の部は僕みたいな特別な招待客が居る場合に催されるらしくめったに無いのだが、夜の部はミッシェルが休みの日以外は催されるらしい。


 少ない出番かもしれないけれど、セクシーな格好のクロを誰の目にも触れさせたくないなんて凄い我が儘なんだよね。お金が無いことがつらいなんて初めての経験だ。

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