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クロとデートすることになった

 その馬車は昼過ぎに到着した。


 朝早くから当主として決済書類に目を通し、昼食を戴き十分な食休みが取れたころである。相手は、そういったことも思慮できる人物のようである。


「随分、大きいなリチャード。」


 男爵家の門の前に似つかわしくない大きさの真っ黒な馬車が横付けされた。


「はい。大きさ、装備共に皇族専用車両並みかと思われます。それにアレクサンドラ様が開発に関わったサスペンション機構が付けられていますので帝国の産業庁を通した特注品でしょう。」


 産業庁とはアレクサンドラ様が帝国に残してくださった技術の中でも国家機密に属するものを扱っている部門であり、この馬車もメンテナンスは産業庁の技術者だけが行なえることになっている。


「ポルテ・ド・モトラヴィチ男爵でございますか?」


 御者台から真っ黒な外套を着た従者らしき人物が降りてくる。全身漆黒のいでたちで顔もマスクをしているし、手には黒い手袋、靴は土で汚れていたが黒いような気がする。目元は何もつけていないはずなのに周りが全て黒い所為か薄ぼんやりとしか輪郭がわからない。


「は、はい。そうです。ヘイム商会の方でしょうか?」


「そうでございます。当商会の主人が『ミッシェル』でお待ちです。そこまでお連れしろと言付かって参りました。さあお乗りくださいませ。」


 従者が馬車の扉を開ける。内部はベルベットを黒く染め直したのだろうか。重厚な雰囲気のソファーが設置されており、とても乗り心地は良さそうだ。


 ミッシェルとは首都の繁華街にある超一流のショーを見せてくれるという噂の店だ。大商人か、伯爵クラスの収入が無ければとても出入り出来ない店らしい。


「では、リチャード。リチャード。リチャード・・・行ってくる。」


 馬車の雰囲気に圧倒されたのか。呼んでも返事をしないので肩を叩き、こちらに向かせる。


「は、はい。いってらっしゃいませ。」



















 店の中に入り、僕が舞台の真ん前の席に腰を下ろすと舞台にライトが灯る。


 舞台の上には、数人の女性たちが現れる。皆、肌色のレオタードに黒い柄で秘部が隠れているとてもセクシーな衣装を着ており、舞台上に設置されている金属製の棒を使い踊りだした。


「彼女たちは、我がヘルヘイム国から連れてきたダンサーたちでしてな。なかなかの綺麗どころ揃いでしょう。」


 夢中で彼女たちの踊りに見入っていたら、突然隣から話しかけられた。


 そちらに目をむけると周囲が暗いからか。薄ぼんやりとひとりの人物が浮かび上がってみえる。彼がヘイム商会の主人なのだろう。


「如何でしょう。好みのタイプはいらっしゃいますかな。席に呼んで接客させますよ。」


 接待を受ける側の心得も本店の元店長に教えて頂いている。遠慮して断ると失礼に当たると聞いた覚えがある。だが好みのタイプがぶつかってしまうと拙いことになる。こういうときは一番年上そうな女性を選べばいいらしい。


「ほほう。そうですか。なるほど。なるほど。商談は後ほどということで私は席を外しますので楽しんでいってくだされ。」


 反応がいいということは正解を引いたらしい。彼と入れ替わりに僕が指名した女性がソファーの隣に座ってきた。


「クロと申します。よろしくお願いします。」


 長い黒髪に金色の瞳。一番年上そうな女性を選んだ積もりだったがそれでも年の頃20といったくらいだった。思わず見とれてしまう。物凄く綺麗な女性だ。


 その金色の瞳に引き込まれそうである。そういえばクロノワール様も同じ金色の瞳だった。しかも同じ黒髪でどことなく似ている気がする。同じ種族なのかもしれないな。


「モトラヴィチです。」


「ええ知っていますよ。クロノワール様を拒絶なさった方ですよね。」


 何っ。クロノワール様とはつい先日お会いしたばかりなのに何故この女性が知っているのだろう。いくらクロノワール様が王を務めるヘルヘイム国の人間だからといっても早すぎる。


「ああ驚かせてしまいましたね。私たちは、世界に散らばっているクロノワール様の分体のひとりなんですよ。」


 なるほど。だからどことなくクロノワール様に似ているのか。


「『私たち』って、まさか?」


「ええそうです。今日のダンサーは誰を選んでいただいても分体には変わりはなかったのです。こうしてお会いしてお話しするのが目的です。ああ、でもヘイム商会との商談が無くなるわけでは無いのでご安心下さい。さっきの男はダミーです。ヘイム商会の本当の主人はクロノワール様本体であり、普段はこの中で一番古株の私が担当しております。」


 クロノワール様と違い優しい喋り方である。世の中でクロノワール様が慈悲深いと言われているのはこの方のお陰なのかもしれないな。


「一番古株なんですか? こんなにお美しいのに。」


 僕はあえてそういう選び方をした積もりだったが、商会を切り盛りできるほど年をとっているようにはとても見えない。本当に美しいのだ。こんなことを言ったら失礼かもしれないがクロノワール様よりも気品があって、とらわれの姫君が似合うかもしれない。


「そう言って戴けるのは嬉しいのですが、クロノワール様本体から別れてもう80年になります。戦争に負け、別の分体が始めの20年で国を復興させました。そして私という分体を作り、ヘイム商会という経済的な橋渡し役に各国との軋轢を解消させる役目をお与えになりました。そしてようやく80年かけて帝国にたどり着いたというわけです。」


「それで僕にお話しがあるということですが、どういったことでしょうか?」


 クロノワール様が僕の相手をさせるために彼女を寄越したのは確かなようだ。きっと、裏後宮での出来事に関係があるのに違いない。


「分体である私が言うのも何ですがクロノワール様は慈悲深く、思慮深く、聡明な方です。今はとらわれの身の上なので少々甘ったれで我が儘のように見えるかもしれませんが本当は違うんです。優しく接してあげていただけませんでしょうか。」


 別に冷たく接したわけではないが、クロノワール様にとって他の方と同列というのは『冷たい』と感じてしまったようだ。参ったな。


「そういうことですか。裏後宮では僕にとって優先順位が決まっているんです。シロさんに一番優しくしてあげたい。ほかの方々は同列で優しく接しているつもりなんです。それでは足らないというわけですね。じゃあ、こうしましょう。裏後宮の外で貴女に優しくします。分体な訳ですから、貴女に優しくするということはクロノワール様に優しくしたのと同じことですよね。」


 少々こじつけ臭いがこんな裏の手段を使ってきたのだから、それを利用させてもらおう。それでクロノワール様が満足してくれるのならば万々歳だ。


「ええっ。こんなお婆ちゃんにですか。私なんて、あと20年しかこの姿をしていられないというのに。」


 どうやら分体は100年しか保たないようである。もったいない。こんな綺麗な女性だったら、一生お付き合いしたいのに・・・。


「時間が限定されているのは悲しいですが、貴女とならデートも楽しそうだ。今日はまだ時間は空いていますか? 庶民派デートとなってしまいますけど、よろしかったら街中を一緒に歩きませんか?」


 そして、僕はクロノワール様の分体とデートすることになった。

極力分体か本体か記述するつもりですが、分体:クロ、本体:クロノワール様、クロさんとなる予定です。わかりづらくてすみません。

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