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公爵様は恐い人でした

お読み頂きましてありがとうございます。


本作品の魔界は北欧神話の9つの世界をアレンジしています。

ヘルヘイム国は冥界王、ニヴルヘイム国は死霊王、アルフヘイム国は緑樹王、スヴァルトヘイム国が翼竜王、ヴァナヘイム国が好戦王、スリュムヘイム国を幻惑王が治めています。

他にも幾つかの国が出てくる予定です。

 公爵令嬢を初めて見たのは、帝国議会の懲罰裁判の席だったと思う。おそらく病気がちな当主の父になりかわり、議会でポルテ男爵家に与えられた席に座っていたのだろう。


 初めて見た彼女は遠目からも分かるくらいに光輝く金髪に透き通るような白い肌、数年後に間違いなく美女に成長するであろうことは容易に想像がつく顔立ちをされていた。


 キャラバン公爵家は第34代皇帝メリー1世の第3子アドリアンを初代として創設された。諜報活動を得意とする彼らは代々皇帝を裏から支えてきたという。実際彼らに取り潰された伯爵以上の高位貴族は両手の指でも足らないらしい。


 そんな彼らを脅威に思ったある侯爵が公爵令嬢クリスティーナ様の誘拐を企てたが失敗。しかし、首謀者を直接操った子爵は捕らえたものの、子爵は死をもって口を噤み侯爵へ辿りつかなかった。


 キャラバン公爵家当主アレクセイは、自らの情報網を駆使して侯爵の不正を暴いていく。幼い彼女と2人で丁々発止、ぞろぞろと出てくる証拠を元に論理を構成していく。その鮮やかな手並みに人々驚き、証人は恐れ慄いて白状していく。


 ときおり、公爵様が壇上から裁判の出席者である議員たちを見回すと何かを発言しようとしていた議員も口を噤んでしまう迫力だった。当然、彼の視線がこちらを向いたときは何ら敵意が無いにも関わらず、恐れ慄いてしまった。


「どうですかな。ストイコビッチ侯爵。領地を全て取り上げられた気分は?」


「そんなバカな。」


 ストイコビッチ侯爵と呼ばれた男が肩をガックリと落す。彼が不正をしていた20の項目を全てこの場で解き明かしたらしい。ひとつひとつの不正は僅かな領地没収程度の罪だったが、全て暴かれて領地全て没収されてしまった。


 しかも不正蓄財は全て没収され、さらに罰金まで加えられた。


「以上、帝国法第3条において領地を持たない侯爵家は1代限りのみとし継承叶わず。ストイコビッチ名誉侯爵となられた。以後30年分の年金は罰金の残金と相殺とする。今後も皇帝のため、帝国のため、お励み頂きたい。」


 つまり名誉侯爵という肩書きで無一文の人生を生きていかなければならないらしい。ある程度の財産は隠し持っているだろうが、子飼いの伯爵・子爵・男爵といった面々に渡す金が無ければ権力を振るいようが無いはずだ。


















「我が公爵家のものに手をだした場合、どうなるか分かってもらえたと思う。」


 ストイコビッチ侯爵が退場すると再び会議場を見回して公爵様は笑顔でそう言う。


 何故か最後に視線が合った僕は、その笑顔に背筋が凍る思いをした。まるで僕が公爵令嬢に何かをするかのような微笑みだ。


「何が何でも摘発するつもりは無い。君たちが皇帝の治世により多くの貢献さえしてくれさえすればいいのだ。その間は温かい視線で見守っていくつもりだ。わかったかな。私が当主で居る間にまた、このような場所でお逢いしないことを祈っているよ。」


 貢献度が高ければ多少の不正は目を瞑るらしい。つまり、さきほどの侯爵と同じように証拠も既に握っているぞと脅しているようなものである。



     ☆



 あれから、5年後15歳になり成人した僕は男爵を襲爵していた。


 その後の公爵令嬢の噂はロクなものじゃ無かった。


 ドコソコの伯爵家の長男をその美貌で陥落したとか、イケメン子爵のダレソレを愛人に持ったとか。


 その直後、関係したと言われた貴族の不正が暴かれているところをみると中々活躍しているみたいである。














「情けないなぁ男爵様よ。ええっ、剣のひとつやふたつ軽々扱ってくれなきゃ騎士とは言えないぞ。」


 帝国貴族には15歳から最低2年間、兵役義務が課せられている。期間が満了しても戦争が始まれば前線に立つことが課せられる。


 100年前異世界から召喚された勇者が魔王を討伐して以来、メリー皇帝が隣国の皇太子妃であり勇者の1人だったアレクサンドラ様を奪ったことによる小競り合いは発生したが本格的な戦争は行われていない。


 15歳にしては小柄な僕も第11騎士団に所属していた。


「そんな、なよっちぃ腰つきじゃあ戦場では1発で殺されるぞ。」


「へへっ違いねえ。」


 今は剣術の講習を受けているところだ。短剣や両手剣までは良かったのだが大剣となると剣を振るたびに体がよろけてしまう。それでも何とか様になるように懸命に練習していたのだが、同僚がからかってきて邪魔で仕方が無い。


 僕が男爵位を襲爵しているのが気に入らないらしい。


 ここ第11騎士団に所属する男たちのうち、襲爵が許されているのは副団長・団長クラスでそれも士爵止まりで偶に男爵が居るくらいなのだから仕方が無い。


 我が家は元々、商人の家系だったのだが僕のお祖父さんが当時の王女を娶ったことから男爵位を賜ったのが始まりで降嫁したとはいえ皇族の一員として15歳の成人を迎えた直系男子は士爵位を賜ることができるらしい。


 父は僕が成人したのと同時に当主の座から退いたため、僕は男爵を襲爵することになったわけだ。


 僕とて男だ。何れ入ることになる騎士団でやっていくために足腰を鍛えていたし、剣術も師事を受けそれなりに様になっているはずなのだが、自分の体重の2割を超える大剣となるとどうしても身体がふらついてしまう。


「はっお前なんざ、そのレイピアがお似合いだ。」


 レイピアとは、4代前のメリー皇帝の正后であり、魔王討伐の勇者だったアレクサンドラ様が作り出した剣で大柄な女性ならば、なんとか扱える短剣を元にサーベルの特徴を取り入れたものと言われており、アレクサンドラ様愛用の武器として有名だ。


 これでも相当な重さと長さがあるため、僕の体重では片手で扱える限界の武器だった。だが元々女性が扱う武器として有名だったため、祖母がアレクサンドラ様の孫に当たり代々受け継がれてきた武器でもあり皇宮で常に帯刀を許されていることを当てこすっているのだ。


 これも特別待遇なので仕方が無い。たとえ侯爵であろうとも、皇宮内では帯剣を許されていないのだ。皇族とごく一部の皇族の血筋にのみ許されていることなのだ。


 相手役の団員の大剣が襲ってくる。練習用の大剣なので刃は潰してあるが、まともに食らったら骨が折れてしまう。こちらも大剣で受け止めるがどうしても体重の差によって押されてしまう。


「ほほほ。ああ情けなや。情けなや。お前たち、騎士団の誇りというものは存在しないのかしら?」


 突然、頭上から言葉が降ってくる。


「これはクリスティーナ公爵令嬢。我が騎士団に何か御用ですかな?」


 屋内訓練所の2階部分に現われた公爵令嬢に対して、僕の傍に居た団長が腰を折る。それに呼応するように全ての団員が腰を折る。もちろん、僕も剣を置いて腰を折っている。公爵令嬢も皇族の血筋として僕と近しい関係になるがなにぶん位が違いすぎる。


「わたくしは、スカウト出来そうな優秀な人間を探しておる。皇帝直属の諜報部の護衛を物色しておったら、なにやらアレクサンドラ様をバカにするような物言いをする男たちが居るじゃないか?」


 スカウトと聞いて団員たちが色めき立つ。皇帝直属機関ならば出世コース間違いないからだ。


「そんなっ。アレクサンドラ様をバカにするようななど、滅相もございません。」


「そうか? それなら良いんじゃ。だがレイピアをバカにするのも許さん。そこな団員たちにレイピアの凄さを見せてやってくれぬかのう。男爵・・・モトラヴィチ男爵だったか。」


 聡明な公爵令嬢らしく皇族に繋がる血筋やレイピアを帯剣していることで、僕の名前を割り出したようだ。


「もう1人は誰か相手してみる彼奴は居ないか? 男爵に勝てればスカウトの候補に入れようぞ。但し、同じ新人じゃぞ。年寄りは要らぬよって。」


 その場に居た新人団員は僕を含めて4名。その全てと相手することになってしまった。


 相手が選んだ武器は愚かにも大剣1名に両手剣2名。きっとバカにしたレイピアと同等もしくは軽い剣を選びたく無かったに違いない。


 元々、レイピアは打ち合って勝つ武器じゃない相手の動きを読んで避け、掻い潜り急所を突くための武器だ。


 もちろん、短剣も長剣も扱えるように訓練してきたがなんと言っても我が家の家宝でもあるレイピアでの訓練の量が違う。


 しかも、父の身体が弱かったせいもあり5年前からレプリカとはいえ常に帯刀し帝国領内で実戦で使ったこともある武器なのだ。身体への馴染みが違う。


 僕の体重の2倍はあろうかという巨漢たちの攻撃を易々と掻い潜り土を付けていった。


「くそっ。何故だっ。」


「危ない!!」


 公爵令嬢の声が響く。


 最後の相手との対戦が終わり、全ての新人団員たちに勝ったのだが。剣を引いた途端、礼もせずに打ち込んできたのだ。


 卑怯な!!


 僕は咄嗟にレイピアの根元で受け止めると装飾の部分が欠けてしまった。それでもなんとか受け止めきった僕は相手の後方に回りこんで、欠けてしまった装飾の部分を相手の喉元へ突きつけた。


「参った。参った。と言っているだろ。剣を退けろ。退けてくれ。た、頼む。」


 相手が剣を落したのを確認して、レイピアを引いた。


「なにやら、騎士団員として相応しく無い人間が居たような気がするが、処分は団長に任せる。代わりに男爵をスカウトしていくぞ。構わんな。」


 そうして、僕は皇帝直属の諜報部の護衛としてスカウトされた。


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