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異世界召喚されたのは御伽世界  作者: 樹慈
第二章 【再会】
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番外編☆★ 『紫星の祈り』

2017年7月7日、七夕ということで番外編です。

時系列的には第三章後なのですが、本編をお読みになっていなくてもこの話だけで読めるようにしてありますので気軽にお手にどうぞ。

※本編とは関係ありません。

 




 ――遂に念願のこの日、この夜になった。年に一度だけ許される逢引の日。君に逢える。あの場所で、もう一度――。



 † † † † † † † † † † † †



 思い返せば随分と時が流れたもの。

 逢うことは叶わず、日々自身で慰める。でもそんな日々もこの日のためにあったのだから。だから我慢出来た。ようやく、


「――兄さん、逢えますわ」


 年に一度だけ羨望が、祈願が、嘆願が叶えられるかもしれない日がある。

 それは現実的か否かは然程問題視されていない。願いを叶えるものは神でも世界でもない。自分自身なのだから。


 ここは、『ロトリア村』中央広場。

 真夜中だというのに村人たちは皆空を見上げる。または見上げながら瞳を瞑り親身に願いを胸の内で綴る。


 そして中央広場の中央には大きな『ササ』と言われる樹が陣取っている。

 その枝や葉の先に『タンザク』と呼ばれる紙で彩られている。その紙には願い事を綴るのだ。


 村の人々も願いを一年に一度『タンザク』に載せて、二つの星に届けるのだ。

 願えば叶う。……かもしれない程度のおまじない。だが、願わなければ叶えられない。それが願い事なのだ。

 故に、願っても自身の行いが結果を結ぶと分かり理解している村人も、願ってしまうおまじない。


 そして、願っても願っても叶うはずのない願いもあるのだ。

 それこそ、奇跡が起こらなければ叶わない。そんな願いがあるのだ。


 紫苑色の少女はそのことを知っている。思い知っている。

 願って泣いたあの日を。叶った願いが願っていなかった願いだったあの日を。知っているのだ。

 だから、おまじないに手を差し伸べてもいいのではないか。一人の少女の一つの願い。


『兄さんにもう一度会いたいですわ――グレーテル』


 願わずにはいられない。

 死者との再会。

 それは奇跡が起こり得ても幻想なのだろう。幻覚なのだろう。


 この世界には元よりこの一年に一度の『タナバタ』と言う日はなかったのだから。

 この世界には元より死者の転生をすることが出来ないのだから。

 だから、願っても願っても願っても……それは受け入れられない。


 そう思っていたのに、叶ってしまう願い事。


 天から見下ろしていた月が地平線へ隠れ暗い村を星々の光が照らす。

 大きな空には大きな星々の描く川。そして両端に一段と輝く二つの星と星。


 片方の星の光がグレーテルの手前へ舞い降りてくる。

 紫苑色の光は徐々に薄らと朧気に形を具現させる。


「――にいさん?」


「――ああ、そうだよグレーテル。ぼくだ、君の兄のヘンゼルだ」


 懐かしの紫苑色の青年。灰色の双眸。

 紛れもないグレーテルの兄、ヘンゼルが顕現したのだ。


「彦星さんがぼくをここに連れてきてくれたんだ。逢いたかったよグレーテル」


「ひこぼしさんとやらに感謝しかありませんわ。あいたかったです……わ?」


 手と手が触れる寸前にグレーテルは停止する。

 そして付け足した冷酷に冷えた声が続けられた。


「――体のない兄さんは兄さんではありませんわ。とっととお帰りになられて下さいですわ」


「ちょま――」


「見た目と声で誤魔化したとしても、皮膚も肉も血も骨も匂いもない兄さんは兄さんであっても兄さんではありませんわ。さようなら」


「えええ!! ちょま――なんか体透け透け、もうむ――」


 言いかけた刹那にヘンゼルはその場から姿を一切消して、グレーテルは兄との再会を心待ちに夜空を眺める。


「あぁ、兄さん。早く会いたいですわ」





七夕、織姫と彦星。

といったら「ヘンゼルとグレーテル」


本編に関係ないって書いたけどこの設定もいいと思えてきた。

今後ともご贔屓に。

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