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異世界召喚されたのは御伽世界  作者: 樹慈
第二章 【再会】
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第二章35 『捜索』

 


 獣道を二人の男が駆ける。

 息が切れるのを余所に状況確認しながら木々を避けて突き進む。


「いついなくなったんだ」


「ツルギさんたちが発ってシンシアさんを村の門まで送る時にはいたのですが」


「シンシアもそんな長居はしねぇと思ったけど」


「ツルギさんの考え通りですよ。戻ってすぐに『アリスメル村』へ向かいました」


「今は?」


「村中で捜索してるはずです。いなくなったのに気付いたのも少し経った後なのですけど」


「シンシアに追いつくことはないだろうから」


「ええ、そのつもりで何人か節制の森に向かわせてあります」


「よし、それならはさみ打ちできる」


 うまくいけばの話だ。その上、事実『アリスメル村』へ向かった場合の話だ。

 向かっていなければ心配損で終わるが、預言者ウァサゴが約束を破ったその時に何をするかは考えても恐ろしい。


 ともあれ、空が茜色になる前に出立した門に辿り着く。

 一人の少年がツルギとカールの帰りを待ちわびていたのか、門の近くにその身を置いてツルギたちに気付くと駆け寄った。


「カールさん! 無事に戻って何よりです!」


「ああ、ニコラス。首尾はどうだ?」


「すみませんが、まだ……」


「そうか。お前も辛いだろう。だけどもう一息だ。ツルギさんが帰られた。もう大丈夫だ」


「……ツルギさん、どうか、どうか妹を……コニーを!」


「……おい、どうゆうことだ。コニーをって」


 立ち往生してしまうツルギに込められる期待。それ以上にニコラスの言葉が気掛かりになる。

 コニーとは、『ロトリア村』の子供集団の中にその名の少女がいたはずだ。

 その子がニコラスの妹であり、今の状況と発言が関係させることは――。


「――ツルギ! 遅いよ!」


 村の先にいる少女ら三人がツルギに寄ってくる。

 彼女らはツルギの仲間であり、幼馴染、義理妹、仲間と思いたい彼女、の三人だ。


 ツルギの後を追っているものだと思っていたから、それに関しても驚愕してしまう。

 開いた口が閉じないとは今まさにその状況なのだと胸に沁みる。


「なんでカガミたちが先に……」


「その説明は……もう! えっとね」



 † † † † † † † † † † † †



 時は少し遡りサチコ失踪を聞いた直後。アリスへツルギが問いをした直後。


「……わたし、何も、しない……」


「――そうだった!!」


 大地に両手をついて絶望を感じるが、そんな暇はない。

 手に着いた砂を払って『ロトリア村』への道を睨んでから一人喝采する。


「しゃあねぇ。行くぞ!!」


「ツルギさん! 行きましょう!」


 駆け出す男二人。

 その背を残る三人の女性陣が見つめて、思考する。


「んー、兄さんの情熱は分かりますわ。でも……」


「アーちゃん」


 カガミがアリスの手を握り締める。

 退屈そうに、暇そうに、飽きたように、鼻を鳴らす。


「ここまで歩くのにこれほどの時間ですわ。今から走ってお戻りになっても夕刻の少し手前、それに疲労も溜まってしまいますわ」


「…………」


「怠け娘、あなただって疲れることは望まない。それとも、ここでお一人でわたくしたちが戻るのを待つですわ? わたくしは、行きますわ。そして、猫娘も同じですわ。兄さんが行ってしまいましたから当たり前ですわ。……怠け娘、あなたはどうしますですわ?」


「……アーちゃん」


 アリスはあからさまな溜め息を溢す。

 退屈そうながら、それは否定ではない息なのだとすぐに分かる。


「……仕方、ない……」


 どこからか分からないが一枚の紙を獣道に投げ込むと、その紙が眩い光を放つ。


「……グリフォン……」


 光が形を変えて、アリスの呼びかけに応えるように具現化していく。

 その身はカガミたちより遥かに巨体。体の上部は鷲、下部はライオンになっている。文字通り、伝説のグリフォン。


「ありがとう。アーちゃん。グリフォンさん、よろしくね?」


「このわたくしを乗せることが出来るなんて感謝してもいいですわ。と、言いたいですけどこれで兄さんの苦を先回り出来ますわ。……ありがとう、ですわ」


「……なに……?」


 グレーテルの発言の最後は聞こえなかったらしく首を傾げる。

 喉に息を詰まらせるグレーテルと、アリスの手を強く握るカガミを見届けたグリフォンが満足そうに口元を曲げた。


「アリスに友人が二人も……。お二人さん、よろしく頼む、我が主アリスを今後もよろしく頼む」


「しっかり頼まれましたー! 任せて下さい」


 グリフォンは顔を逆側に向けて腰を下ろす。

 その背にアリスがよじ登り、カガミもそのあとを真似て登り、グリフォンは大きな鷲の翼を動かす。

 回数にして五度目でその巨体が大地を離れた。


「ちょっと、置いていくつもりですわ!?」


「背は二人でいっぱいだ。すまないがこちらで我慢してくれると助かる」


「な、なんですわ!?」


 鋭利な爪の生えた手で焦るグレーテルを鷲掴みにしてそのまま空高く飛び上がった。



 † † † † † † † † † † † †



「――と、いうわけ」


 一連を説明し終えたと誇らしげに鼻を鳴らすカガミだが、ツルギ的には流されて説明を受けている。

 端的に、アリスの従者『グリフォン』にここまで送ってもらった。ただそれだけの説明なのだ。


 ともあれ、そこの詳しい話は今はどうでもいい。割愛に限る。

 最も重大なことがニコラスの口から発さられたのだ。


「ニコラスっていったな。コニーの兄でいいんだな?」


 涙を浮かばせる少年ニコラスが一度頷く。


「コニーを……ってどうゆうことなんだ?」


「コニーが、コニー……すまない――!」


 体全体で泣き崩れる。ニコラスにこれ以上の言及は躊躇った。人が後悔に呑みこまれる時、これほどに痛感が胸を刺すものだとは思わなかったからだ。

 サチコの失踪。タイミング。そして、村中総出での捜索。カールがツルギたちを頼って追いかけたこと。そして、ニコラスの発言。


 全てを総的に考えれば容易く現状把握が出来る。

 だが、それを認めたくないといった願望が彼を問わせ、彼が口を噤む。後悔が全てを語らせていた。

 口を割って開いたのはグレーテルだ。


「――この人間の妹も揃って行方知らず……ですわ」


 その横顔は兄への嘆願なのだろうか。

 妹から目を離してしまった兄。妹の手を放した兄。妹への愛を後悔で埋めた兄。


「くそっ。なんだってんだ」


 押し寄せる焦燥感が喉を乾かし、拳に力を籠めるだけの非力さが虚しくなる。


「……ツルギさん」


「なんだってんだ。今は、そう。捜索を早く進ませて――」


「ニコラスの妹のコニーだけじゃないのです」


「おい、それってまさか」


「お察しの通り。村中の子供の行方も同時に分からなくなっています」


 サチコは約束を無碍にしたのか。

 コニーはどこへ行ってしまったのか。

 コニーだけではない。村中の子供たちはどこへ行ったのか。

 ミアはあの中で最年長のはずだ。彼女がまとめられなかったのか。

 バウン、バレン、バルターの三馬鹿は……無邪気だからちょっとくらい居なくなっても不思議ではない。


 ともあれ、前者の三人は心配である。


「捜索を急ごう。アリス、目回しは……」


「……してある。……カガミに、たのまれたから……」


「夕刻に『中央広場』に集合にしてあります」


「うん、ならアリスは『中央広場』で待機でいいな。従者から連絡あったら頼む」


「…………」


「アーちゃん、お願い?」


 カガミが頼み込むとすんなり頷いて願いを聞き入れる。

 主人公としては言葉にし難いことではあるものの、今はそんなことで足を止めてはいられない。


 村中でも連携を取れている。捜索が完遂するのも時間の問題だろう。



 † † † † † † † † † † † †



 それぞれが個々に村中を駆け巡り、夕刻を告げる太陽が空を茜色に染め上げた。

 総員が『中央広場』に集った。情報交換を終えた後である。


「村の中には見当たらない。あの三馬鹿もいないし、やっぱり『アリスメル村』に――」


 ツルギが村人たちの輪の中で呟くと、アリスがそれを遮った。


「……いない……」


「…………」


「……チェシャネコが、村の人、シンシアと合流、道中も、『アリスメル村』にもいない……」


 タイムロスを最小限に抑えられることは叶った。

 だが、現状として寧ろ悪化を辿ってしまったのだ。シンシアと村人とアリスの従者でのはさみ打ちは不発に終わってしまった。


「アリス、チェシャネコに、シンシアはそのまま『アリスメル村』でサチコたちが訪れないか残るように伝えてほしい。村人も明日の朝にこっちに戻るように、夜道の森は極力歩かせるのは避けたい」


「…………」


 無言で無反応であるが、ツルギの嘆願はカガミの願いでもあることは分かり切っているだろう。

 故に、アリスの反応は置いておいてもツルギの嘆願を無碍にはしない確信がある。


「節制の森まではアリス様の指南で乗り切れますね」


「おう。後探してない場所は――」


 村中を村人総出で捜索に当たった。これ以上に探していない場所があるのか、『エドアルト王国』への獣道はツルギとカールが戻った時に確認済みである。『アリスメル村』への獣道も同じくである。

 森の中に身を潜めていた場合はどちらも無意味なのだが、子供たち五人とサチコを含めた六人だ。チェシャネコがそれを見逃すことはないだろう。


「一カ所だけ。残っています」


「どこだ!」


 カールが指を指す。その先は『アリスメル村』への門でもなく『エドアルト王国』への門でもなく、家が並ぶ場所。それらは先刻に何人もの村人、ツルギたちが捜索に当たった場所である。


「今はそんな冗談に乗って場合じゃねぇぞ」


「違います。あっちの方に小さな丘があるのです」


 確かに、家々の奥に『ロトリア村』を一望できるほどの小さな丘がある。

 そこもツルギは捜索の時に一度訪れた。だが、


「あっちは俺も行ったけどいなかったぞ?」


「はい。おれたちも行きました。ですけど、そこ以外考えられません。サチコさんも含め立ち入りを禁止しているのであまり考えられないとは思えたのですが、これ以上村には探せる場所は残っていません」


「立ち入りを禁止って」


「そのままですよ。夕暮れも終わりに近付いています。急ぎましょう」


 カールの提案をツルギが頷いて返すと過半数の村人とツルギたちは駆け出す。




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