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異世界召喚されたのは御伽世界  作者: 樹慈
第一章 【召喚・送喚】
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第一章2  『奇怪な言語。謎の喋る球体。宙を飛ぶローブ女』

 風が髪を弄り、頬を撫で流れる。木々の葉の擦れる音は耳にしっかりと入ってくる。

 黒い黒は、いつも通りに瞼の裏側の半端な黒色になり呼吸途中の鼻には木、葉の匂い、道場とは確実に違う匂い。先刻の黒い空間の何もない匂いとは一変して味覚以外の感覚がツルギを一斉に襲った。

 唐突の急激な変化で戸惑う暇もなく瞼を開けて久しく色を脳に伝達したのだ。


 木々の生える森林。花や草は乱雑にちらほらいる。

 その中、手前。ツルギの目の前。白いローブの長い髪の人が肩にヘンテコなモノを付けている。


「果たして一体これってどうゆうこと?」


 この数分で目に見る、頬を伝わる感覚たちは変化という変化をして今の現状になる。


「……はいはい。夢ですな。お休みなさい」


 再び瞼を閉じる。呼吸を整え夢の目覚めを祈った。

 隙もなく訳の分からない声が耳を通る。


「……ウァトドユウサイェ。アテラ……」

「オヘ、イセティセマネ?」

「ユウセエメトハヴェサッモネドリゲヘト」


 交互に交わされるヘンテコな言語。二人の声を確認出来るが、先刻は人が一人だけだったはずなのだ。恐る恐る瞼を上げると目の前の長い髪の人が腕組みをしてがっかりしている表情。それに続けて会話は終わらなかった。次に発したのは長い髪の人ではない。


「イメテェマンウォヂデセテランゲスイタベェネセ。アレヨウゴデレアェイェ」


 なんということか。長い髪の肩の物体には可愛らしい目と小さな口が存在し、その球体がお喋りになっている。

 声から推測するに、最初の言葉ウァトドなんちゃらは球体。

 その後間抜けなオヘは人間の方のセリフだろう。

 長い髪の人も女性だろう、声が甲高い。球体に性別があるかは分からないが雌なのかもしれない。

 人の彼女が続けて会話をする。どこか恐る恐る話している様子ではある。


「エヴェンティシサゴデ。ブテエヒセマンスッマネデ?」

「オヘ。ヴェリィネヴィタベェ。ウセイタンッドアッヂセトコンテラセト」


 ジト目で彼女はツルギを見下し溜息をつく。


「おいお前! 今絶対失礼なこと思っただろ! 言葉分からなくても人とあまり関わって来なかったけどなんとなく分かるぞ!」


 彼女は何かに気付いた様子で思い出した様子でまたしても意味不明な言葉を放つ。


「テャタヲレデセンツンデレセトオド、イトァセゴオド。テェゴドワセゴインゲトセメオウト」

「オヘ、イトァセカレェセソ」


「なんなんだてめぇらは! 人の前にちょんと現れて奇怪な言語しゃべりやがって! 俺は英語だとしても分からねぇけどな! 日本語で説明よろしくっ!」


 ツルギは叫べば彼女と球体は今まで以上に肩を落とし溜息。

 だんだんと、鬱憤が溜まり始めたその頃またしても奇怪な言語を続ける球体。


「イハヴェトデシデトウンデレセタンダヲレデフォレテェチメベインゴ。アテラ、イテダゴドティンゴ」

「イェシテサゴドティンゴ。ヨウェェ、ギヴェメイェウィセドモ」


 右手を優しく広げた彼女がぶつぶつ呟き手の平に白い光が出現し始める。それは優しく暖かみがある。だが、


「なんなんだ! こんな訳わかめな宗教染みた奴と関わるのは下策! おさらば!」


 彼女の手を振り払り鞘を強く握り彼女がいる方向とは真逆方向の森林の中へ潜って行った。

 振り払った時に見た彼女の表情は、悲しげよりも呆れた表情な気がしたが今のツルギには関係ない。今すぐにでも此処から遠ざかり夢だとしても助けを、言葉の通じる人に助けを。


 その一心でどこまで続くか分からない森林と言う名の迷宮を駆ける。行く先行く先、木、木、木。

 暗がりの中ただひたすら走った。

 不思議と体は軽く走りやすさを感じた。


 暗い森は視界に味方することなく唐突に眼前に蛇が出現した。

 白く光る瞳がツルギと重なり蛇が大きく口を開ければ無意識にツルギはそれを避けようとするが頬を霞め突然に取った行動で足元が疎かになりバランスを失い転げる。三度の大げさな回転の末後頭部を硬い石のようなものに強打をした。


「――いっだ! なんだ今度は……」


 それは空に伸びる細いどっしりとした球型の石。それは苔で文字は読み辛くなっていて分からない。察するに誰かの石碑だ。その分からないはずの文字を無意識に見たくなり苔に手を付けると、

 彼女らは追ってきていた。


 凄まじい風を切る音が暗闇から聞こえる。目を凝らせば白いローブを乱暴に、宙を浮きながら走行し、妨害となる木々、枝をするりと俊敏な動きでこちらへ向かってきている。


「は、ハエかよっ」


 石碑なんてことは脳の回路的にはどうでもよい分類。苔ごと振って駆け出す。必死に、死にもの狂いで、息が切れそうになっても、肺が潰れそうになっても。

 背後から迫る恐怖からしたらなんてことない。ツルギは思った。


「あんな顔する奴、いい奴なわけねぇ!」


 捕まったら死ぬ。その言葉だけがツルギの足を動かし、肺に新鮮な空気を運んだ。

 幸い空からの月明かりが広がってきて障害がはっきりと視界に入るようになった。

 何分走っただろうか。森林がどこまでも続く中遠くに一つの光を見つける。


 人がいる。あそこまで行けば振り切れる。


 木々を潜り抜けその明かりの正体を瞳に映すことが出来た。

 木造の家。一階建てで一人暮らしならば不便のないくらいの大きさだ。


 人がいる。そう思って安心した瞬間だった。全身に伝わった神経の糸が切れたようにその場に倒れ込んだ。否、勢いを殺せずに倒れながらの前進でその家の外壁へ強く背中から衝突した。

 背後から迫ったツルギにとっての脅威は追いかけることを放棄したのか姿が見られなかった。


「……無理して、走ること、なかった。て、こと、か……」


 扉の開く音が耳に入る。視界、意識は徐々に遠ざかり家の主だろう人を確認しようと視線を動かす。二つの人と思われる影が近付いてきた。


「……へっ。いてぇ、夢じゃないって。こと、か……」


 ぼそりと呟くと女性と思われる人が横向けの体を月明かりに全身を当てるように変えた。

 ツルギは身体へのアレルギー反応、痒みを伴ったが、身体が、指一本動かすことが出来なった。

 そして、擦れる瞳に映るそれを誰が否定できるか。


「ベロテェロ、イッメン」


 女の人が先刻の彼女と同じような奇怪な言語を話しその後ろにいるもう一人が返す。


「ゴオデヴェニネド。イチェェベアパラチョ。ヲンチト」


 男の声だ。少し高めの男の声。

 だが、奇怪な言語なんてもう聞き飽きた。それよりもツルギの瞳に入ったそれは確実にツルギの知っているそれではない。

 擦れる朦朧の意識、重い瞼が捉えたその異質なものはこの場所、日本。否、ツルギの知った育った地球という星ではないと天高くから圧倒する。


 ――天から地を見下す月。


 その大きさは見知った月の十倍、百倍と言っても過言ではない。夜空の三分の一を占めようとする月。形や光、色を見ても同じだが、大きさが全くの別物だ。

 ツルギは、アレルギー反応を起こしながら、女性を傍らに、耳に二人の笑い声を聞きながら意識の糸が切れるのを実感する。それと同時に、奇怪な言語。謎の喋る球体。宙を飛ぶローブ女。変な宗教ではなかった。ここの共通言語。石碑、知っている文字な気がした。そして、異様に異質な月。




 ――此処が異世界と確信した。




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