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異世界召喚されたのは御伽世界  作者: 樹慈
第一章 【召喚・送喚】
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第一章9  『主人公らしく』

 一旦整理する。旧アガレス王国が滅んだ原因は一つだ。魔王率いる悪魔たちが領地へ攻撃を仕掛けてきた。

 ただそれだけにその頃の国民も、後々の後世に語られる古き旧王国として語られることだろう。それは原因であって要因ではない。

 旧アガレス王国への奇襲が成功したその背景に潜伏する連鎖する要因があると仮定できる。それは仮定であって事実の過程ではない。だが、十中八九的を射とめているだろう。


 旧アガレス国王は魔王含め悪魔が不穏な行動を示す鍵を握った。

 その鍵を基に武力を持つ王国の者達が会合するために集った。

 その会合の日時、場所、集いし者を知る何者かが悪魔もとい魔王に情報をリークした。

 それを知った魔王は旧アガレス王国を攻め入った。国民と囚われることになる。

 そして、手を引く条件がアガレス国王の辞退。

 そして、その後の王国を維持するための次代の柱、王になり得る、その頃の国民、国王から支持される存在であったエドアルト・ウラシマ。

 エドアルトが魔王、悪魔へ情報のリークしたとすればその後の、現時までの行いにも辻褄は通ることになる。


 これは現時点では推測、仮定にすぎない。エドアルトの非道が原因で抗うことも出来ず、その真相は闇の深く底に隠されたことだろう。


 そして、現王国を動かすのがそのエドアルト本人。故に、王制の自由を利かせ国民を自身の駒……否、奴隷として扱っているのだ。アガレス、アテラは言葉を緩めていただろう。富ある者は優遇され、貧民は蟲と同様に害虫と同様に、ただの石と同様に踏み潰され蹴散らされこれもまたエドアルトが欲する欲望のままに扱われる。


 それを知った異邦人、日柳クサナギツルギは異世界二日目、日を跨ぎ一晩しか過ごしていない異世界で一つの感情を重く想う。


「――ゆるせねぇ」


 拳を強く握り締めて膝の上で大人しく制御する。いつの間にか視線の先は机へ先の見知らぬ現国王、エドアルトに向かっていた。姿形も分からない。声も聞いたことはない。瞳を見たことも。だが、一つの強い念が知らぬ国王に向かう。


「ツルギ、だからってのもおかしな話かもしれないけれど、エドアルト王国の成り立ちの真相と今の王制に変革を起こさせないといけないの」


「おっけい。わかった。そりゃ一刻も早くにぶっ飛ばしてくに、いや王を変えないとな」


 憎しみの念を笑顔で振り払ったツルギに笑みと一つの頷きで返しては、「でも」と躊躇して続けた。


「……そんなにあっさりでいいの?」


「――バカだからいい……」


「そうゆうこと。ばかだからいいん――んなわけあるかっ!」


 視線を七色の光を溢す硝子へ向けたままのアリスがツルギよりも先に返事をした。ツルギは元から「いいさ」と答える準備が出来ていたこともあって、アリスの言葉の前者を脳が理解し、否定するのに時間をかけた。


 そんな憤怒を無理と込めた眼差しを送りつけるが受け取り側は完全拒否。否、気付きもしていないのだろう。憤怒の眼差しはいつの間にか消え去り代わりにそれ以外を視界に入れたくない情を抱きそうになる。

 その娘の青い双眸の先、七色の反射を眺める、視界に入れているその横顔は妖精のように可愛らしく、人形のように動かず、氷のように冷えている。


「まあまあまあまあまあツルギ。君は汎用的で実に扱いやすそうだね。慣れているのかい?」


 その冷えたアイス・リフレイン・スノーことアリスとその娘に魅入ってしまっていたツルギの間に翠色が視界を覆い尽くした。少しの焦る表情と大半を占める不敵な笑みのフンシーがふわふわと浮遊して現れた。


「慣れちゃなんかいないさ。元は生まれも育ちも平和そのものの国で、いや世界に暮らしてたから」


「ふ~ん、でもそれにしたってさ。君は都合が良くないかい?」


「つ、都合ってか。俺はここに来てまだ一晩しか経ってないのは事実でこの状況を認めろって言われても認められないぜ」


 そう、元の世界、故郷の日本は平和そのものでこちらのような争い、悪魔と言った架空的存在も公けに見られないだけなのかもしれないが、今、ツルギがこちらに来る前まではいない。ない。ある争いと言えば小さな存在が他者を踏み躙ることで自身の大きさ、強さを知らしめるために自慰欲とも言える行いがツルギのいた世界の小さな争い、エドアルトの思想に近いことだろう。

 とはいえ、事の大きさに比較するにも差があり過ぎて困惑してしまうのは事実。


「でも、エドアルトの非道はこの世界二日目の俺にもよーく分かった」


「まあでも、愉快な平和な所から来た君にとって」


「ああそうだ。そして一遍してほぼほぼ死ぬ寸前間際だった昨晩だ。あの平和から来た俺からしたらまるでここは夢物語だよ」


「夢のような此処にそこまでする義理は――」


 ツルギは大げさに鼻を鳴らしてフンシーの発言を妨げて一つの答えに辿り着かせる。

 ツルギは昔、元の世界にいた時からそうだった。多数に加担し、強き者に加担し、周囲の視線を気にしては自身の存在の大きさ、在り方を魅せしめ邪道を歩まず、王道を好み。正義に憧れを持っていた。それは今でも、異世界に召喚されても曲がらない。


 物語には、善が存在する。故に、

 物語には、悪が存在する。故に、

 物語は、語られる。


 それ故に、決断される。

 無関係だった異世界で起こった過去の非道。現在の悪行。異世界の未来を変えるのは、物語を変えていくのはいつだって、どの世界、物語、創作、妄想を含めても言える。

 平和な愉快な世界から、異端の異世界に召喚されたツルギがそこまでする理由は。


「――主人公だからだよ」


 その言葉を引き金に指を掛けられた緊迫感のように空気が硬直し静寂が訪れる。そしてその引き金は引かれる。


「……ふわぁぁあ……」


 これまでちんまりと小さな小さな唇がそれまた小さく小さく開いて言葉を発していた。前夜からかけて今の今までにこれほど大きく開けた口は見たことはなかった。

 つまらなそうに、退屈そうに、飽きたように。


「……ま、まあそれはさて置き。なんだ、ここに来たんだ。召喚主の目的があるなら、いやがおうにもされた側は身を挺してお供するってのが異世界召喚ものの御約束だしな」


「……う~ん、よく分からないのだけれどツルギの物語は産まれた時から主人公はツルギだよ?」


「しゅじんこう……」


 オウム返しにアテラは、えぇ。と一言呟き肯定する。


「俺は他人に合わせては内面で蔑み見下し、そして、逃げ出した」


「今誰かを見下してる? 立ち向かおうとしてるのは、あなたのことを知らない、ツルギのことを、過去を知らない私が断片的にしか言えないし分かってあげられない。でも、今のツルギの瞳を見れば分かる。今のツルギは分かるから……」


 そう言葉を切り口を紡ぐと一途に紅蓮の真紅の双眸がツルギを射抜く。彼女の背中を暖めるように外から溢れ入る太陽の光が神秘的に彼女の輪郭を浮かびあげては曇らせている。


「……なんつーか、よし」


 握り拳を一旦開き涼やかな空気を含ませてはもう一度握る。掌に湿る汗が今では心地よく感じる。椅子を膝裏で無理に押し返し立ち上がる。

 過去を振り返り思い返し、胸に留める。自身が合わせようとした事実、強者を尊重させる偽善した事実、逃げ出した事実、虚飾していた信実。これからも自分をつくろうだろう。周囲の上辺だけを、視線を気にして生きていくだろう。日柳剣はそういう人間だから。だからこそ、


 だからこそ、その自身の変えられない性格という名の罪から背けずにいこうと真紅の双眸の前で決意を固める。厚く固く深く。今度こそ逃げないようにしようと、

 誰もツルギを知らない、この世界で過去の自身を背負っては逃げ出さず真底思う。


 握り拳を広げどこの誰でもない自分へ向けて、広げた掌を何かを握り潰すように握り締め直して断言する。


「――主人公なら主人公らしくしてやるよ。召喚された主人公の力を見せつけてやるぜ」


 その決意に満ち溢れた双眸の向かう視線の先はアガレスの背後の壁から零れんばかりの光輝く硝子ら。

 格好よく決めては見たものの、振り返ればあっけらかんとよくも恥ずかしいことを宣言してる自分の威勢の良さに目を背けたく思い始める。

 決まった表情が自信の弱さから歪み掛けるその刹那、軽く鼻から吹き抜ける綺麗な笑い声が歪み掛けた表情を疑惑の表情に差し替えた。


「……あ、ごめんなさい。でも、ふふ。なんかおかしくて……」


 心中複雑に駆られる。一度主人公と肯定され、その肯定から立ち上がった矢先笑われるという末路。からかわれているのかと、疑念が生え始めそうになりながらも彼女のその笑顔に見惚れ始めている自分がなさけなくも思う。それもそのはず、彼女はツルギが女性に触れて初めて反応が起きなかった人物なのだから、それもまた違った。別の反応が起きた初めての女性なのだから。

 彼女の笑みに不穏な陰湿さは微塵もなく心の底から笑ったのだろう。何に対してかは分からない。でも、一つ言える。いや何度も言える。


 ――可愛い、と。


 その笑うのを抑え込むように深呼吸をし始め呼吸を整えると優しく少し折れた腕から伸びる小さな白い手がそれまた優しく差し出され一度の笑みと言葉がツルギに届けられる。


「……よろしくね。主人公さま」


「あぁ、この流れからしても君が俺の物語のヒロインだ。しっかりその綺麗な瞳に焼き付けときな」


 差し出された白い綺麗な整った手にそっと手を乗せて優しく握る。

 触れれば女性に触れた時に起こる反応、アレルギー反応は起きず、代わりに全身を駆け巡る血流が速まり体温さえ上昇している錯覚を覚え、胸さえ熱く燃えるように高鳴り、その熱ささえ心地よくいつまでも、永遠に永久に感じていたくなる。そんな新たな反応がツルギを駆り立てる。


 仕方がない召喚された人が必死に主に尽くそうとするその姿を見せつけよう。誰でもない、特別な彼女の支えになろう。そう、ツルギはこの異世界、この世界での新たな人生へ期待も膨らませながら覚悟も決めた。


 そして、その緊迫を小さく崩しにかかる少女。


「……へくちゅっ……」


 可愛らしいくしゃみでツルギの決意の終止符を打たれた。





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