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あなたのそばにある道具  作者: blanker
夢半ばの万年筆
7/7

7話・ノートについて

少し遅れて申し訳ございません!

もっと投稿ペースを上げたいと思います!

里美さんから強烈な褒め言葉をもらった、その後。

修正箇所を決め、出版候補にしてもらうことに決まり、「二章の原稿早くおねがいします!」と、これまた強烈な催促をもらいつつ、カフェから出た。

もうすっかり夜だった。少しばかり冷えた風が心地いい。

「~~っ!」

まさに声にならない叫び声を上げていた。

感激のあまり、少しジャンプまでして嬉しさを現した。

そうでもしないと、本当に叫んでしまいそうだったからだ。

そのままのテンションで、借りているアパートまで全力で走る。

「はっ、はっ、はっ」

おそらく今までで一番の笑顔を僕は浮かべていることだろう。

つりあがった口の端から、吐息がこぼれる。

走っている間、これまで小説を書いている僕が、目の前に写っていった。




全く書けなくとも楽しく文章を考えてPCのキーを打つ、3日前の自分。


全くいい文章が書けなくて原稿用紙の前で頭を抱える、一か月前の自分。


表現に迷いつつもおそるおそるとペンを動かす、出版社に投稿する小説を書いている時の自分。


さらさらと迷いなき速さでシャーペンを滑らせる、高校・大学生の自分。


どう書いていいかわからずに指南書を片手にペンを持つ、中学生の自分。


そして。

初めて、ノートに拙い字で物語を書く、小学生の自分。


小学生の自分を見たとき、僕は思った。

こんなに楽しそうに僕は書いていたのか、と。

それと同時に思い出す。

この、プロットも技術も何もない小説を書いたノート。

今は、一体どこにあるのだろう……?




気付いたら、アパートの玄関前にいた。

帰宅途中を全く覚えていなかった。

とりあえず、玄関に入って荷物を片付け、部屋の中央にある机の前に座る。

「ふぅっ」

トリップしすぎたようだ。

体から疲れが漏れ、ため息が出る。

すると、胸ポケットにある万年筆が勝手に飛び出し、カバンから原稿用紙を持ってきた。

いつものとおり裏面に、文字が書かれていく。

『 よかったな! おめでとう! 』

万年筆からこの言葉をもらって、なぜか苦笑する。

そうだ。これは嬉しいことだ。「おめでとう!」と言われる〈書かれる〉ことのはずだ。

だけど、なぜだろう。


全く、喜びが沸き上がってこない。


「ああ、よかったよ」

とりあえずそう答える。

『 だよな! 俺もめちゃくちゃ嬉しかったぜ! 』

本当に、とても嬉しそうに万年筆は、この文章を書いた。

それを見て、さらに心が暗くなる。

「……うん。最高の一日だったよ。……眠いからもう寝るね」

寝よう。とりあえず寝てしまおう。明日になれば気分も晴れるはず。

そう判断し、ベッドに入る。

『 俺はまだ原稿を書いとくぜ。 たぶんこれで最後の原稿だろうからな。 』

「ああ、頑張ってな」

そう言い残し、本格的に寝ようとして倒れこもうとするが、ばさりと音が聞こえた。

「ん。最後に何だ?」

言いながら、音が鳴った方へ視線を向ける。

そこに浮いた原稿用紙には、こう書いてあった。


『 お休み。 また明日。 』

「……あぁ。 お休み」




翌日。

万年筆は、動かなくなっていた。





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