二話・雑貨屋について
万年筆登場。
ちなみに作者は万年筆よりボールペン派です。
話し合いが終わり、カフェから出て帰路につく。
次で最後という事実から、さすがに焦りが募りながらの帰宅だった。
もうすっかり夜になっている道で、次の小説のことを考える。
一体どんな小説を書けばいいんだ?少なくとも推理小説を書く事は自分の中では決定しているから、やはりトリックを考えないといけないだろう。だけど、先ほど出した小説でほぼネタ切れなんだよなぁ。
でもやらなければいけない。最悪、これが俺の作家人生の中で推理小説を書くのはこれが最後になるかもしれないのだ。このまま夢半ばで終わるわけにはいかない。
まずは、さっそくネタ集めからだ。そう考え、帰路にあるものをネタにするため回りを見渡しながら歩いていった。
思えば、このタイミングでネタ探しを始めなかったら、僕は推理小説を諦め他のジャンルで書いていただろう。だとしても僕はこのタイミング、この場所で周りを見渡していた。それは本当に偶然だったのだ。
そうして、僕は作家人生を丸ごと変えさせるきっかけとなった雑貨屋を、ここで見つけたのだった。
なんとも言い難い雑貨屋だ。その店の第一印象はこんな感じだった。
全体的には古いような感じなのだが、ところどころの装飾品は最近の流行りものが多く、どう見てもそれが店の雰囲気とつり合っていないように感じる。
まるで、古い建物に子供が自分の好きなものをところかまわず付け足したような見た目だった。
けっこう入るのがためらわれるような店だったが、それが逆に入る理由になっていた。。
やはり、かなり変な見た目の雑貨屋だ。でも、だからこそここに入ればネタが豊富かもしれないな。雑貨屋と言っているし、そこに売っているものを見て、それを使った殺人トリックを思いつくかもしれない。
そう思い、何かネタを取り逃さないように、少しのことにも注意を払いつつ、店の中へと入って行った。
中も外と同じく普通の雑貨屋に売ってるものと比べるとずいぶんと異様だった。
売られている商品はまるでまとまりがなく、壁一面の商品棚にジャンルを問わず所せましと並んでいる。
ベル型の目覚まし時計の隣に中古のスマホが並んでいたり、某ネズミの人形が置かれてある周りには分厚い辞典が人形を押しつぶさんとするかのように並んでいる。商品の年代も豚の貯金箱から最新のPCまでさまざまなものが売られていた。
こんなものまで売られているのか……。ネタ探しのことなんてすっかり忘れ、商品を見渡す。すると店の奥から主人が現れ、カウンターに座った。
主人は店の古そうな外見〈装飾品を除いて〉と違って若く、また気さくそうな見た目をしていた。
「いらっしゃい。どうだ、この品揃えは」
見た目だけではなく、性格も気さくなようだ。
「ずいぶんといろんなものを売っていますね」
カウンターの方を向きながら質問を返す。正直こんなにあらゆるものを売っている店は見たことがない。
「はは、自分のセンスを信じて商品を揃えた結果がこれさ。まあ、昔から売れていない商品はそのままにしているから、こうなったともいえるけどな」
「売れていない商品はそのまま?」
売れていない商品をそのままにしているとはどういうことだろうか。
普通、売れていない商品は他のものに変えると思うのだが。
「ああ、この雑貨屋は普通と違って代々受け継いでいるんだよ。俺で5代目なんだ。それで、初代の人がこういったんだ。『一度棚に置いた商品は動かさず、売れるまで置いておけ』ってな」
「それはどうしてですか?」
「さあな、俺も知らない。だけど、その言いつけを守っているから、様々な年代の商品がここには置かれているんだ」
なるほど。だからジャンルも年代もまるで違う商品がバラバラに置かれているわけか。これはなにかネタにつかえそうだ。
ネタ帳に書き込みをしつつ「ありがとうございます」とお礼を言う。
「お客さん。なにか出版業をしているのか?」
僕がネタ帳に何か書き込んでいるので、なにか本にかかわる仕事をしているのに気付いたのだろう。
「はい、推理作家をしています」
「へえ、そうなのか。じゃあ、こんな商品はどうだ?」
そういって主人から差し出された商品は……
古い、しかしとてもきれいな万年筆だった。
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