一話・推理小説について
初投稿です!
まずは主人公紹介から。
ちなみに作者はあまり推理小説をたしなんではおりません。
あるカフェの中央の一角にある二人組の座席。そこに僕と一人の女性が座っていた。
時間は午後五時半を過ぎ、時折帰ろうと席を立つ人たちが見られる。そんな中。
女性のほうから時々紙束をめくる音が聞こえてくる。そして、最後の一枚をゆっくりとめくり終わった。
「だめですね。夢原さん」
原稿用紙の束がばさりとゆれる。また、今回もだめだった。
「もっと内容をひねってください。これじゃあ読者に全部ばれてしまいますよ」
「そ、そうですか……。でも今回は自分にしてはうまいトリックだとおもったんですよ」
そうだ。少なくとも今までのトリックよりは難しくしているはずだ。
「たしかに、今までのトリックよりは分かりづらくなっています。でも、推理小説を読み始めて半年たっていない私にもわかってしまうんですよ? これじゃあまだ合格点には程遠いですね」
そんな……これよりもっと難しいものを考えろというのか。一か月間近くも考え抜いた殺人トリックだというのに。
カフェのゆったりとしたBGMが耳を浅く滑っていく。目の前に原稿用紙の束が突きつけられてもまだ(この小説はいける!)というカフェに入るときの自分の心の声が聞こえている。
それぐらい自信があったのだ。なのに。
「まだこの小説に未練があるんですか? でしたらもっとしっかりとだませるようなトリックを考えてください。犯人の心境や遺族の悲しみの思いはしっかりと伝わってくるような文章なんですから」
編集者の川中里美さんが諦念のため息を吐き出す。
「……だったら、もっと読者をだませるようなトリックならばいいんですね?」
「ええ、そうだったら完成度はとても高くなるはずよ。……ねえ、前にもいったけど、推理もの以外で書いてみる気はないの?青春ものとかならかなりいけると思うわよ?」
「まあ、書けないこともないんですが……」
実際何個かネタはある。だから書こうと思えばかけるのだが……
「それでも、推理小説を書きたいんです」
自分にしては珍しいことに堂々と宣言する。それを聞いた川中さんはわかりやすいほどに肩を下げ、
「はぁ、『作家の書きたいものを書かせ、それを本にする』のが私のポリシーだからいいんだけど……。他の人に当たってたらもう見捨てられているわよ?」
「うっ、しょ承知しております」
「あーもうわかったわかった。今度のやつも書きたいものでいいわよ。でも、さすがに4回目はないと思ってちょうだいな。さすがにそろそろ新作出さないと私がやばいのよ」
「わかりました」
今度こそ失敗はできない。この事実で僕の緊張感はかなり引き締まっていた。
さて、ここでおおかた僕がどんな仕事をしているかがわかったかもしれない。
そう、僕、夢原明治は推理作家である。
御覧になったとおりあまり売れていない方であり、これで二回目のプロットおよびトリックの話し合いを行ったが、新しく考えたものも玉砕してしまった。
川中さんが言うには「中学生がその場で思いついたようなレベルのトリック」を僕はこの二回考えているのだが、自分的には、たぶん限界まで考えてもこれよりちょっと上ぐらいのトリックしか思いつかいないと思っている。
それでも推理小説を書きたいのは、ある推理作家の小説から影響されているんだけど。
まあ、だから半ば自分でも「これは他のジャンルじゃないとむりかなー」とは思っていた。
……あの万年筆を使うまでは。
次の回から万年筆はでてきます