第四話 「転校生」
第四話「転校生」
鉄也の腕が光りだした。走っている最中に変換しているらしい。しかし間に合うのだろうか?
鉄也が通り魔を殴ろうとした時、ちょうど変換が完了し鋼鉄のグローブが鉄也の腕には付いていた。
ガツーン!
と音がして、鉄也の鉄拳は通り魔の腹に直撃した。しかし通り魔は首をかしげて鉄也を蹴り飛ばした。鉄也はもう一枚の設計図を探し出し、もう片方の腕に巻いた。両腕とも鋼鉄のグローブにした鉄也は、「関西人をなめたらあかんで!」と言いながら通り魔と取っ組み合いになった。
時には鉄也が上に乗り殴り、時には通り魔が鉄也を蹴り飛ばし…二人は互角に戦っていた。
鉄也は飛んできたチラシを手に取り、変換した。今度は円盤型の手裏剣を5枚作り、通り魔に遠距離から攻撃した。しかし簡単にはじかれてしまった。
「チィ… なかなかやるなぁ… だが、まけへんで!」鉄也は勝つ気まんまんのようだ…
もうどれくらい経っただろう…あたりが少し明るくなってきた。
すると通り魔は、
ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!
と叫び声をあげて屋根の上を飛んで逃げて行ってしまった。
「なんや!こんの臆病もんが!」と鉄也が飛んでいった方向に叫んだ。
僕は鉄也に近づき、「もう朝が近いから帰らないと学校に間に合わないよ…?」と諭した。
鉄也は腕時計を見て、「なんやてぇ!もうこんな時間かいな!走るで!翔!」
僕達は急いでそれぞれの家へ走った。
僕が家のドアを開けると、奥のほうから「おい!翔!お前どこいってたんだ!もう朝じゃないか!」おじさんが玄関の方に歩いてきた。
「お前ぇ〜俺が見ていないからって、夜通し外で遊ぶとは許しがたいな!」
おじさんには言われたくなかった。おととい夜遅くに帰ってきたくせに…
説教は約30分続いた…
「じゃあ、もういいからあがれ… 朝ごはんできてるぞ。」とおじさんは言い残し、リビングへ戻っていった。僕もスニーカーを脱ぎ、リビングへ向かった。
今日の朝ごはんも昨日と同じ目玉焼きにご飯、そして味噌汁だった。もっと他の物は作れないのだろうかと疑問を抱きながらも、完食した。
僕はあくびをしながら、制服に着替えて家を後にした。登校中も何度もあくびをした。寝ていないので当たり前だが…
その後何事もなく気が付くと学校の席に座っていた。だんだんと目の前の景色がぼやけてくる…
がくっ!
っと僕は腕を枕にして眠りについた…
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ギュッ!
何かにほっぺを掴まれた。と思った次のときには…
いたたたたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
勢いよく引っ張られた。僕は急いで振りほどき、掴まれていた方向を見た。
そこには桜井さんが僕の事を見下ろしていた。
「なんだよぉー!もぉー!人がせっかく気持ちよく寝てたのにぃー!」桜井さんは時計の方向に指差して、「もうすぐ始まる…」と一言だけ言って席に戻っていった。
僕が時計を見るともう8時33分だった。どうせなら朝学活も寝ていたっかた…
キーンコーンカーンコーン
朝学活開始のチャイムだ…
あぁー 眠い… 桜井さんも人の気持ちもしらずに…
ガラガラガラ
先生が入ってきていつも通り朝学活がスタートした。
「はーい ではー号令をどーぞー」
きりーつ きをつけー れー
おねがいしまーす
「えぇーとですねぇー 今日はまたなんですが、転校生を紹介します。おーい入っていいぞー」
ガラガラガラ
ザワザワザワ ザワザワザワ ザワザワザワ
クラスの女子が騒ぎ出した。そりゃそうだろう…男子の僕が言うとゲイとか言われそうだが、
結構イケメンで、頭が良さそうだ。
彼はポケットに手を入れながらゆっくりと教卓の横に立った。
「えぇーっと、転校生の夏樹空君だ。じゃあまず、自己紹介。」
彼は少し頭を下げてから
「どうも皆さん。夏樹 空です。この度はこんな素敵なクラスに入れてとても先生に感謝しています。どうぞ皆さんよろしくおねがいします。」彼はまた少し頭を下げてお辞儀した。
「だ そうだ。皆も仲良くするように。えーっと… 席は… うーん おっ! あそこがいいな。加藤の前の席だ。」僕は名前を呼ばれた瞬間ドキッっとした。しかしすぐホッとして夏樹君を見ていた。彼はポケットに手を入れながらまたもやゆっくりと僕の前の席に座った。座ると同時に、
「君は加藤君だったよね…?よろしくたのむよ。さっきも言ったけど僕は夏樹 空だ。
気軽に夏樹とでも呼んでくれてかまわないよ。」彼にはまさに爽やかという言葉がピッタリだ…
「はーい以上ですので、号令ー」
きをつけー れー
ありがとうございましたー
今日はなにかいつもと違う一日になりそうだ…などと考えていると、
「加藤君。僕は君をなんと呼べばいいのかな?」といきなり聞かれたので、僕は少し悩んだ後、
「翔でいいよ。僕も君の事、夏樹君って呼んでいいかな?」と聞き返すと彼は微笑して、
「君の好きなように呼べばいいさ。僕はかまわないよ。」とさわやかに答えられた。
なんかカッコイイ… チラッっと桜井さんに目をやると、彼女はこちらをジーっと見ていたが、僕と目が合うと持っていた本を読み出した。
夏樹君ともいい友達になれそうだ。と僕は思いながら授業に入った。
時間はあっという間に過ぎて昼になった。僕は購買にまた焼きそばパンを買いに行こうとした。こんどは売り切れる前に行かなくては、と気持ちを急がせながら席を立とうとしたその時。
「翔君。この学校には購買があるのかい?」と夏樹君に聞かれたので、「あ…うん。あるけど…どうかしたの?」僕は早く買いに行きたくてうずうずしていた。
「僕まだこの学校の事がわからないから案内してほしいんだ。今日実は、購買があるなら買いたいと思っていたんだ。」僕は一瞬ハッっと思った。コイツは預言者か…?学校に購買があると思いお金を持ってくるとは…
「どうかしたのかい?翔君?」 「いやいやぁ!なんでもないよ!あーそれなら今から僕購買に行くからついておいでよ!」と僕は夏樹君を誘った。
僕達は購買に向かって歩き出した。僕は少しイライラしていた。またюリれだったらどうしよう…という気持ちが強くなり、イライラが不安に変わってきた…
夏樹君はポケットに手をいれ少し笑いながら僕の横を歩いていた。なんてさわやかなんだ…
やっと購買に到着して焼きそばパンの棚を見た。よかったぁー ラスト一個!僕は迷わず焼きそばパンを注文した。おばさんの手から焼きそばパンが渡される…!そして僕の手の平に…
乗った!その瞬間僕の中の自分がフィーバーしたように踊っていた。
夏樹君を見ると、彼は購買のパンやお弁当を眺めて悩んでいるようだった。さっきとは違い、無表情だった。
すると彼はまたさっきの微笑した顔に戻り、おにぎりが三個入っているお弁当を指差して
「これにするよ。」とおばさんに言ってお弁当を入手した。夏樹君がこっちを向いた時、購買のおばさんが僕を手招きした。おばさんは、「ねぇねぇ?あの子見かけない子だけど、転校生かい?」と僕に聞いた。僕がうなずくとおばさんは、「そうかい!そうかい!なんともハンサムな子が転校してきたじゃないのぉー!もう女子にモテモテなんじゃないの?」なんかおばさんの話を聞いて僕は少しイラッっとした。モとテの二乗を聞くと少し嫌な気分になるのは僕だけだろうか…
その後購買を後にした僕達は、屋上に向かった。屋上のドアを開けると、そこには鉄也が購買の焼きそばパンをほおばっていた。彼は「ふぉー!ひょう!ひょうはひゃんと ゴクンッ! 買えたみたいやな!」と喋っている途中で焼きそばパンを飲み込み言った。行儀悪いだろ…食べるか喋るかどちらかにしろよ…
「んで?そちらの見知らぬ誰かさんは?」鉄也は夏樹君を見ながら言った。
「申し送れました、僕は夏樹 空です。どうぞよろしく。」 「ほぉー お前のクラスまた転校生来たんかぁー。えぇなぁー ワイのクラスはシケてるでー…ホンマに…」
僕はフッと鉄也の後ろにある物を見た。そこには大量の焼きそばパンの空袋が…
「鉄也君!君もしかして1つだけ残して購買の焼きそばパン買ったの!?」僕は鉄也の行動が信じられない目で見ていた。
「おぉー すまんなー ワイも焼きそばパンは大好物なんやー あの焼きそばとこのもっちもちのパンの組み合わせがやめられないんや!」と彼は簡単に焼きそばパンの魅力を語った。
僕と同意権だった。「しかもな!ここの焼きそばパンはな、パンの挟む部分がへっこんでてな!通常よりも焼きそばがぎょーさん入るように工夫されてんねんで!」へーそれは知らなかった。
さすがは焼きそばパンをほとんど買っていることだけはある…
「それよりや!はよ食べようや!」と鉄也は自分の隣を手で叩いた。
僕は二人と一緒に昼ごはんを堪能した。この前よりも焼きそばパンの味がよかった気がしたのは気のせいだろうか…?
昼ごはんを食べ終わり、僕と夏樹君は教室に戻った。教室に戻ってもやる事は無いが、とにかく戻ってみた。珍しく桜井さんの席に彼女の姿は無かった。僕は少し心配になり、夏樹君を教室に残して図書室に向かってみた。(彼女はいつも本を読んでいるのでもしかしたら、と思い)
やはり彼女は図書室にいた。どうやら図書室には彼女しかいないようだ。桜井さんは本棚の前で本を読んでいた。
僕は彼女にゆっくりと近づいてみた。あと2、3歩という所で彼女は振り返った。
僕は一瞬目自分の目を疑った…彼女は自分と同じようなメガネをしていた。一瞬目が合った後、彼女はまた本を読み出した。僕は少し気になったので聞いてみた。
「そんなに本読むの好きなの?」彼女はコックリとうなずいた後、「本は知性を磨くのに最適だから…」彼女は何を言い出すんだ…「読書をして知性を磨くと…想像力が上がるから…」
ハッ!と僕は気が付いた。彼女の勘が鋭いのは想像力が豊かだからか!と今分かった。
僕は彼女の話に興味を持ってしまった。なぜなら僕も人の心を読めるようになりたかったからである。彼女はいろいろと教えてくれた。読書以外にも、基本的な学習や日記を書いたりする事も知性を磨くのに適しているなどなど…
キーンコーンカーンコーン
5時間目始まりのチャイムが鳴ってしまった!僕は急いで図書室を後にしようとすると、桜井さんはまだ本を読んでいた。僕が彼女の腕を引っ張って教室に戻ろうと言うと桜井さんはコックリとうなずいてメガネをしまい、歩き出した。(彼女のメガネ姿は少し可愛かった…)いやいや!今はそんな事考えている暇はない!僕は桜井さんに走るように言った。僕は桜井さんの手を引いて急いで教室に向かった。
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ガラガラガラ
僕と桜井さんは息を切らせながら教室の後ろのドアを開けた。先生はこの前遅れた時の先生だった。僕は右手に握っていた桜井さんの左腕を急いで離した。
「ほぉー 翔ぉー お前ぇー 授業遅れて来たと思ったら女の子とデートかぁー?」と先生は冷やかした。
ヒュー ヒュー 熱いねぇー!
一人の男子が僕と桜井さんをはやした。
ハハハハハ!
教室中の生徒が一斉に笑い出した…僕は顔が赤くなるのを感じた。先生が近づいてきて、
「翔ぉー そんなやつはなぁー 廊下に出てようかー?ガールフレンドと一緒にぃー」先生は僕と桜井さんの背中を押して廊下へ戻した。
はぁー またやってしまった… 今学期二回目の廊下である…
桜井さんは腕を組んで少しふくれっ面になりながら立っていた。怒っているようだ…
「あのぉー?どうかしたの?」僕が小声で聞くと、「あの男子…キライ…」といつもとは少し違う小声だけども、怒りが感じられる言い方だった。どうやら僕との仲をからかわれた事に腹を立てているみたいだ。「なんで…あなたなんかと…そんな仲に…」そう言われて少しショックだった。まぁ当たり前だが…
一時間が経ち、授業終了のチャイムが鳴った。委員長の号令が聞こえて、椅子が床とこすれる音が教室中に響いた。次の瞬間、
ガラガラガラ
男子生徒が何人も出てきて「へー お前もなかなかやるなぁー」とかいろいろはやしてきた。
桜井さんをチラッっと見ると、さっきよりもふくれっ面でそっぽを向いていた。
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時間が経って、帰り学活になった。どうやら桜井さんはまだ怒っているようだ。
きりーつ きをつけー れー
ありがとうございましたー
号令が終わった後、僕は桜井さんに近づいた。彼女はそっぽを向いて「皆の前で近くに来ると…また誤解される…」と言ってカバンを持って行ってしまった。僕は急いでカバンを持って昇降口へと向かった。しかし、彼女はもういなかった。明日にでも仲直りしよう…と思いながら僕は家に向かった。
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家のドアに手をかけると、鍵が閉まっていた。おじさんは外出中のようだ。僕は鍵を開けて中に入った。やはり家が一番落ち着く…
一段落した所で僕はゲームを始めた。今日はモソスターハソターをやろうと思いPS2を点けた。
しかし読み込むのに時間がかかり、段々イライラしてきた。そしてやっとのことで始めた。
やり始めると止まらないので、時計を見ずに熱中してしまった。
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気が付くと7時を過ぎていた。僕は冷蔵庫からテキトーに食べ物を探して、食べた。
その後もゲームにハマり、やりつづけた。
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そろそろ止めなくては…と自分でも思い、時計を見た。9時を過ぎていた。まぁまたパチンコだろう…と思い、テレビに切り替えてチャンネルをカチャカチャ変えてみた…
すると、ちょうどニュースが始まった。この頃ニュースがおもしろく感じ始めていたので見始めた。どうやら今日も通り魔のニュースをやるらしい。
時間が経ち、通り魔のニュースになった。
僕は食い入るように見ていた。桜井さんの言葉がきになっていたので…
『この話にはウラがある…』か…本当だろうか?しかし、今日の彼女の話からすると彼女の勘
はとてもイイことになる…
今日も被害者が出たらしい。どうやら死亡した人がいるらしい。僕はますます見入ってしまった。
しかし、とても嫌な予感がするのは気のせいだろうか…?おじさんは外出中で通り魔…
昨日のあの通り魔におじさんが遭遇したら間違いなく死んでしまうだろう…
まぁ…そんな事ないよなぁー!
僕は無理に前向きになり、ニュースを見続けた。
ドックン… ドックン… ドックン…
胸が痛い… 本当に大丈夫だろうか…
いよいよだ… 死亡した人の名前が… でた。
ガシャーーン…
僕は名前を見て持っていたリモコンを床に落としてしまった… まっ…まさか…
そこに出ていた名前は間違いなくおじさんの名前…
そ…そんな…
その時、家の電話が突然鳴り出した。あまりにも突然だったので僕は胸を槍で刺されたように
ビックリした。
僕は手を震わせながら静かな部屋に鳴り響く電話を手に取った。
「もしもし…?」
「おぉー 翔君だね? 私だよ私。落合だ。」電話の主はどうやら担任の落合先生のようだ。
「今ニュースを見てとてもビックリしてしまったよ…君の唯一の家族と呼べる人がねぇ…」
僕は少し泣きそうになってしまった。目に涙が浮かんだのがわかった…
「翔君、君は一人で生活していけるのかい?」先生が優しく聞いた。僕は正直一人では生活できる気がしなかった。
「いいえ…」と僕は弱弱しく言った。
「そうか… なら、君を引き取ってくれると言っている人がいるんだが、どうかね?」
僕は少し希望の光が見えた。その人はとてもいい人だと思い、「会わせて下さい…」と言った。
「やっぱりそうか、よし、じゃあ明日は私も学校を休もう、君もショックで来にくいと思うから、
休んでいいから、君の家に朝迎えに行くがいいかい?」もうもちろんとしか答えようが無い…
「じゃあ、明日はゆっくり休むといい。もちろん欠席には入れないから安心していいよ。」
それは少しありがたかった。
その日僕はすぐにベッドへ向かった…そして深い眠りについた…
次の日の朝、僕は5時に目が覚めてしまった。今日は新しい家での生活になると思うと眠れないのだ…
この家ともお別れか…と思いながら着替えてベッドに座っていた。
何時間経っただろう… 悲しみのどん底にいた僕はずっと部屋の中をキョロキョロしたり窓の外を見たりとしてみた。この家には戻ってこないかもしれないので最後の一秒まで自分の部屋の
空気に触れていかったのだ。すると玄関の方から、
ピンポーン
とインターホンを鳴らす音がした。先生が来たようだ。僕はゆっくりと玄関の扉を開けた。
そこには、いつもとは違ったジャージ姿の先生がいた。
「翔君、君は今とても悲しいし怒りも覚えているかもしれない…しかし、これは事故なんだ。しかたのない事なんだ。」と先生に言われて僕は泣きそうになってしまった。たしかに、これは
計画殺人ではなく、事故なのかもしれない… 通り魔は傷つけるつもりが命を奪ってしまった…
と後悔しているかもしれない。いろいろ考えていると、「じゃあ行こうか。」と先生に言われて僕はコックリとうなずいた。
先生は近くだからと言って、歩き始めた。先生と僕は学校を通り過ぎて学校の近くにある山の
ふもとに立っていた。
「ここからは、結構厳しいがついて来てくれよ」と先生が僕に忠告した。
先生が言った通り、山道はとても入り組んでいて大変だった。こんな所に引き取ってくれる人の言えなんてあるのだろうか…?と疑問を抱きながらも先生の後ろをついていった。
まさか、サルの親子にでも引き取ってもらう。なーんてこたぁないよなーと冗談も考えながらも歩き続けた。
やっと開けた場所に出た。その光景を見た僕は呆然としてしまった。目の前には立派な門が立ちはだかっていた。先生がインターホンを鳴らし、「翔君を連れてきました。」と言うと門は
ゆっくりと開いた。
中に入るとまたもや呆然としてしまった。そこには旅館のような大きな建物が建っていた。一階建てだが、横に広く、大きく見えた。
すると奥から見覚えのある口ひげを生やした背の低い小太りのおじいさんが出てきた。
あれは…
「校長先生?」僕は疑いをこめた声で先生に聞いた。「そうだ。君を引き取ってくれると言ってくれたのはこの校長先生なんだ。」信じられなかった。校長先生と暮らす?
どれだけプレッシャーが強いんだ…しかし、もう断れないので「よろしくお願いします」と言い
お辞儀をした。
校長先生は「うむ。では外はまだ寒いであろう。中に入るがいい。」と言い僕を中へ案内してくれた。
中もまた古き良き日本の家だった。こんな家住んでみたかったんだよなぁーと心でつぶやき、
校長先生の後をついていった。校長先生はある部屋に僕を案内してふすまをバッと片手で勢い
よく開いた。
「ここがお前さんの部屋じゃ。」中を見るとそこは床が畳で窓には障子…まさに旅館である。
「ここの部屋を自由に使うがいい。お前さんの荷物はワシの弟子に運ばせているところじゃ。」
えっ?弟子?校長先生ってなにか教えてるのかな?と考えていると、「お前さんは荷物が届くまでこの部屋でのーんびりとしていればいいんじゃよ。」
「わかりました。ありがとうございます。」僕は部屋に入りふすまを閉じた。ふぅー…っと
ため息をつき、僕は畳にねっころがった。
その内だんだんと眠くなってきた。朝早く起きたからだ思う…ゆっくりとまぶたを閉じると、
自然のど真ん中に建っている家なので葉っぱの揺れる音や木のいいニオイがした…
そして僕は、眠ってしまったみたいだ…
ぴちゃ ぴちゃ ぴちゃ
何かが顔をなめている…
ウゥー… ワン!!ワン!!
鳴き声にビックリして僕は飛び起きた。そこには、仔犬がお座りをしながらこちらをみていた。
校長先生が入ってきて、「よく眠れかね?お前さんの荷物が届いたんでそこに運んどいてやったよ。」と僕の後ろを指差しながら言った。
「ありがとうございます。」僕はお辞儀をして感謝した。「いいんじゃ、いいんじゃ。そんなに
堅苦しくするでないぞ。今日からここはお前さんの家なんじゃからの。」
そういえばそうだ。しかし、校長先生に向かって家族のように喋るのは難しい事だ…
「じゃあ、夕飯ができるまで自由に行動するがいい。」と言い残して校長先生は出て行った。
僕はまず、部屋を出て家を一周してみた。とても施設が充実していて、学校のようだった。
体育館のような所…図書室のような所… 僕は庭にも行ってみた。
庭には、木の棒が地面から5本立っていた。疑問に思いながらも次に進んだ。
一通り見た後、僕は部屋に戻りダンボーから自分の荷物を取り出して整理してみた。ここは自分の部屋なので自由に置かせてもらった。
さっきから気になっていたのだが、壁4面の内一面は入り口のふすまだが、もう一面ふすまが
あった。僕は恐る恐る開けてみた。そこには僕の部屋と同じような間取りの部屋があっただけ
だった。その部屋の端っこには布団がたたんで置いてあった。
僕はふすまを閉めて部屋の真ん中であぐらをかいて座ってボーっとしていた。
また目を閉じてみる。閉じた瞬間自然と一体になった気分になった。僕はそんな気分が気に入り、
ずーっと目を閉じていた。自然の音を聞き、自然のニオイを感じる…これこそ日本の家の
あるべき姿だと思いながら座っていた。
どうやら夕方になったらしい。外からカラスの鳴く声が聞える。
すると、隣の部屋のふすまを開ける音が聞えた。僕は目を開けて隣の部屋へ続くふすまに向き、
あることを思い出した。
昨日学校で桜井さんとケンカ(?)をしてしまったので、仲直りをしようと考えていたのだが、
ゴタゴタしていて学校に行けなかった…明日にでも仲直りするか…と思った時だった。
ガラガラガラ!
っと目の前のふすまが開いた。僕はあぐらから正座になってしまった。そこにいたのは…
「さ…桜井さん…?」
そう、そこにはピンクのフード付トレーナーを着た桜井さんが立っていたのだ。
「ど…どうして…桜井さんがここに…?」僕が彼女に聞くと、
「私もここに住んでるの…」と学校の時よりもスムーズに話した。
えっ?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
「もっ…もしかして君の後ろの部屋って君の部屋?」
「そうだけど…何…?」僕は驚きを隠せなかった。桜井さんと同じ家で暮らす!?
おぉ!神よ!なんという風の吹き回し!ありがたや!
「ねぇ…どいてくれない?」彼女は僕に向かって冷たく言った。
「へっ?」 「布団敷くからどいて…」 「あ…あぁ…わかった。」
僕は立ち上がり何か手伝えないかと聞いた。しかし彼女は黙ったままサッサと布団を敷いた。
よく見ると僕の分まで敷いてくれていた。僕はお礼を言おうと思い彼女に向いたが、
そこにはもう彼女の姿は無かった…
どうやらリビングへ夕食を食べに行ったらしい。僕も部屋を後にして、リビングへと向かった。
リビングには大きなテーブルが置いてあり、桜井さんは一番端っこに座っていた。
僕は彼女の前に座り、運ばれてきたカレーを受け取り、
「桜井さん、昨日はゴメン…僕が君に話をさせてしまったからいろいろ恥ずかしい思いをさせてしまって…」
桜井さんは僕の顔をじぃーっと見た後、「別にもう怒ってない…」と僕に言ってくれた。
よかったー と僕は心の中で胸をなでおろした。
僕はカレーをたいらげ、食器を流しに持っていった。桜井さんも後ろからついてきて置いた。
僕は部屋に戻り、自分の部屋に敷かれている青い布団の上に座った。今日はいろいろ驚く
事があったなぁー と思いながら、座っていると桜井さんの部屋のふすまが開き、パジャマ姿の桜井さんが入ってきた。どうやらお風呂に入ってきたらしい。髪の毛はいつものポニーテール
ではなく、ストレートヘアーであった。
僕は校長先生にお風呂の場所を聞き、入った。(結構広いお風呂でビックリした。)
部屋に戻ると、桜井さんは髪とかしていた。なんだか、とてもやりにくそうだった。
僕はダメもとで彼女に聞いてみた。「髪…やってあげようか…?」彼女はビックリした顔を
したが、どうやら大変だったらしく、黙って僕にクシを手渡した。僕は丁寧に彼女の髪をとかし始めると、
「私の過去…知りたい…?」
といきなり聞いてきた。 桜井さんの過去…か… 聞いてみたい気持ちがあったので、素直に、
「うん。」と答えた。
彼女はすぅっと息を吸い込み、口を開いた。