望愛は何が好きだろうか?
「望愛を楽しませればいいって話だったよな」
涼成は帰り道で、その話題を出した。熏晴も、玲一も、その事について真剣に考えてくれる。
「スポーツにハマらせるってのはどうだ?」
玲一が言う。それは面白そうだ。だが、望愛がスポーツを始めたといっても、それについていくことができない。
「おいおい……軟弱だな。なら、女子部のマネージャーとかどうだ……いや、涼成には無理か……」
涼成は、運動部からはかなり嫌われている。もちろん、女子部の着替えの覗きをよくやっているからである。
「望愛を部活動に入れるはいいが、涼成が運動部に入りたいといっても、どこも断ると思うぞ」
熏晴が言う。その言葉自体は、もっともすぎるぐらいにもっともなのだが、熏晴に言われたという部分が、涼成には腹が立った。
「うるせぇ、そんな事は良くわかってるよ。あと、それはお前も同じだろう」
涼成がたまらずに言うと、熏晴は拗ねる。
「なんだよ、人がせっかく本気になって考えてやったっていうのに……」
「いらん部分を、言いすぎなんだよお前は……」
一つ、涼成と熏晴はそう言い合う。それを聞き届けたあと、玲一は頭をひねった。
「運動部が無理なら、俺にできることはなさそうだぞ……」
社交性の高い玲一が唯一の頼みの綱であったのだが、そう言われてしまえば、涼成にはどうしようもない。
「望愛の事を見張ってみるしかないか……」
望愛の行動を監視すれば、彼女の嗜好もわかるかも知れない。そう思った涼成。
「そうか、がんばれよ」
玲一が言う。十分協力をしてくれた玲一に対して、礼を言う涼成。玲一は陸上部の練習もある、無理にこれ以上付き合わせるのもいけない。
「ああ、任せておけ」
涼成は、そう言っておく。
「がんばれよ。お前が女の子の気持ちなんか理解できるとは思えないけどな」
熏晴は言う。言葉の最後に余計な言葉を混ぜる熏晴に、涼成はイラついた。
「お前も手伝え! どうせ、マンガ研究会なんて、ロクにやる事なんてないだろう!」
涼成が言う。熏晴は、いきなりそう言われて、思いっきり驚いた。
「お前にしかできない事なんだろう。俺は、望愛たんに好かれているどころか、嫌われているし!」
「しれっと、『望愛たん』なんて呼ぶな! その呼び方は気持ち悪いから!」
俺が言うと、熏晴はこの場から逃げ出そうとしていた。ここまで言いたいように好き勝手言って、面倒になってきたから逃げるなんて、許される事ではない。
「世界を救うためだ。お前の見ているアニメみたいだろう? 世界を救うヒーローになるなんてのは?」
「俺は、ほのぼののコメディが一番の好物だ。そんな、殺伐とした奴なんて、見ない!」
熏晴が何か言っているが、そんな事は無視して、熏晴を引きずっていく涼成。
「そういえば、彼女はどこに行ったんだ?」
熏晴が言う。涼成は、熏晴の事を引きずる事だけを考えていて、その事を考えていなかった。
商店街を適当に歩く涼成は、熏晴の事を離した。
「今日はもういいが、明日は絶対協力をしろよ!」
望愛の居場所が分からないからには。この辺をウロウロしていてもしょうがない。
涼成は忌々しいと思いながらも、熏晴の事を離した。
「明日は絶対に協力をしろよ」
涼成は熏晴に向けてそう言うが、熏晴の様子は、どうも協力をするような様子に見えなかった。
「いやぁ、明日な。今日は居場所がわからないのが残念だなぁ。明日は全力で応援するぜ。なんせ世界の命運がかかっているんだからな」
やたらと、協力する意思を強調して言う熏晴。涼成はそれを聞いただけでも、『こいつ、絶対に協力をする気ないな……』と思う。
それから、涼成と熏晴は、家に帰っていった。
次の日、涼成が起きて、窓の外を見ようとすると、窓が曇っていた。
「ん? なんだこれ……?」
涼成は、それを不思議に思いながら、窓を開けた。
窓の外は、雪でも積もっているかのような様子だった。
ガードレールの上や、民家の屋根の上に、灰色のものが積もっていた。
それに、空気もなんだか埃っぽいように感じる。
「窓を開けないで! 灰が入ってくるから!」
涼成の母親がそう言う。涼成は意味がわかっていないながらも、窓を閉めた。
「灰? 一体何で?」
涼成は母親に聞く。
「火山の噴火があったでしょう。その時の火山灰が、落ちてきているみたいなの。今も活動は止まってなくて、煙を吹いているから、どんどん灰が落ちてくるんだって……」
そう言われ、涼成は納得した。そういえば、火山の活動は止まったわけではない。部屋の窓からは、いまだに黒煙を吐き続けている火山の様子が見て取れた。
「なんか、涼しくないか?」
俺はそう言う。母はそれに答えた。
「火山灰が、空に飛んでいて、太陽の光を遮っているんだって。それで、ここ周辺は数日くらい涼しくなるらしいよ」
「数日間もか……」
火山灰というのは、一日二日で、落ちてくるわけではない。数日間空を漂い、軽いものは、風に乗って、どこかほかの場所にとんでいきさえするものである。
火山の爆発だけでも、ここまで被害が及ぶものなんだなぁと、のんきに考える涼成。




