望愛の事
涼成は、放課後になると、いつもの三人で下校を始めた。
「結局、望愛の奴は、普通に授業を受けただけか」
涼成は言う。
あれから、望愛がスイッチを取り出す様子はなく、平和な一日が終わっていく。学校の授業が終わったら、望愛は帰っていこうとした。
ただし、翼をはためかせながら、宙に浮いた状態でだ。
「望愛! お前は隠すことを知らんのか!」
涼成が言う。ノアは涼成の事を見ると、胸に飛び込んでいった。
「涼成……あなた、涼成って、言うんだよね?」
ノアがそう言いながら涼成に飛びついてきた。
涼成の胸に飛び込んでいく望愛に、涼成はどうしていいのか? 分からない様子だった。
「てい」
その望愛の背後に立った玲一は、望愛の頭をはたいた。
望愛が不満そうにして玲一の事を見る。
「なによ? 不良……」
玲一の見た目を見ると、不良に見えなくもない。背が高く、体はスラリとしていて目つきも鋭い。
確かに多くの女子達の間では、玲一の事をかっこいいと見る者が大半だ。だが、そのなかにも、気の弱い女子の中には、『怖くて近寄りがたい』と考える者も多いくらいだ。
「人のことを見た目で不良ってな……」
そこまで言ったが、玲一は続きの言葉をぐっ……と、こらえる。これ以上こんな話をしていたところで、進展などない。
涼成に視線を向けて、『早く聞け』と、催促をしてきたのだ。
「そっちのイヤミも、こっちに来ないで」
さらに、望愛は熏晴の事を『イヤミ』と呼んだ。
それにショックを受けたような顔をしてたじろぐ熏晴。
「なんだよ! なんでそんな事を言われなきゃいけないんだよ!」
熏晴は、今日の朝の事を覚えていないらしい。
『当然だろう』
そう思う涼成だが、そんな事を今になって考えてもしょうがない。
こいつはやたらと人をバカにするくせに、何か一つ悪口を言われたくらいで、海よりも深く落ち込む、厄介な奴だ。
熏晴と、上手く付き合いたいなら、こういうところは無視するべきだ。こいつが落ち込むたびに、いちいち同情をしていたら、キリがない。
「こいつの事は放っておこう。お前、一体何者なんだ?」
望愛はそれを聞くと、「ふっふっふ……」といった感じで笑って顔をニヤつかせた。
「私は、地上に降り立った神の使徒! 人類の興亡は私の手ににぎられているのよ!」
この言葉は、涼成や玲一、熏晴、それに加えてこのクラスの全員にも理解不能だ……
すくなくとも、涼成には、まったく意味がわからなかった。
「私がおこスイッチと激おこプンプン丸スイッチしか、持っていないと思っているのかな?」
「なんだ? ほかにあるのか?」
それを聞くと涼成は嫌な予感がした。
一つめは、地震を起こし、二回目は火山を噴火させる。
この上のスイッチが二個あるのだ。これらは、どんな事を起こすスイッチなのだろうか?
「この、ムカ着火ファイヤースイッチは、世界中の火山を爆発させる事ができるのよ!」
今度は世界中ときた望愛。そんな事を言っても、現実感がない。だが、これまでの二件の事もある、それを、彼女に押させるワケにはいかない。
「そして、激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームスイッチは、地球を滅亡させることができるのよ!」
そう言い、誇らしげにする望愛。
世界中の火山が爆発するというだけでも、大事件なのに、その上さえあるらしい。
その会話を、聞いていた、クラスの者達は、クスクスと笑い始めた。
『何言ってるの! そんな事おこるわけないし!』『最初見た時から思ってたけど、この子は天然不思議ちゃん枠だ!』
などと、声が上がっていき、望愛は、怒りで震えだした。
「とにかく、教室から抜け出そう!」
涼成が言うと、玲一と熏晴は頷いた。
今にもスイッチを押しそうな望愛に後ろから組み付き、三人が一緒になって望愛を抱えた。
そして、三人は望愛を教室から、連れ出していったのだ。
学校の裏庭にまでやってきた望愛と三人。ノアは不機嫌そうな顔をしていた。そりゃそうである。自分のスイッチの事がバカにされたのだ。
『それなら、押してやろう』
などという話になってしまったら、また、災害が起こる。
「さっき聞いたが、お前が何者なのか? いまだに分からん」
「神の使徒って言ったよ。それ以上でもそれ以下でもないね」
大きく育った胸を、ふんぞり返らせて言う。
それを見て、胸を思いっきり見つめている涼成。その望愛の胸に手を伸ばしかけたが、玲一はその手をはたいて止めさせる。
「お前、どうすればそのスイッチを手放す?」
玲一は単刀直入に言う。こんな、機嫌が悪くなったらポンポンとスイッチをおしてしまうような奴にこのスイッチは持たせておけない。
玲一は、すぐにでも、スイッチを手放すように、望愛に向けて手を差し出した。
望愛は、スイッチを、後ろの手に回した。
「ダメダメ。このスイッチは、人間に渡しちゃいけないんだよ」
ノアが言うには、どの時代にも、世界の滅亡を望む人間というのはいるのだ。その人間にこのスイッチが渡れば、すぐにでも、この世界は崩壊をしてしまうだろうという。
「とにかくダメー。これは神の使徒の持つ大事なアイテムなんだからね」
そう言い、スイッチを仕舞ったノア。
「神の使徒だと? 自分がそんな……」
熏晴がそこまで言ったところで、涼成と玲一が、熏晴の口をふさぐ。
「何よ? 信じてないの?」
熏晴は、大きく首を縦に降ったが、涼成と玲一の二人は、首を横に振る。
「信じていないわけじゃないんだけど、信じるには証拠が足りないかなぁっ……てな」
涼成がいうのに、望愛は涼成達に背中を向けた。
「なら神の使徒らしく、予言をしてあげよう。今日の学校の帰り道で、あなたたちは、私が神の使徒である事を、嫌でも信じる事になるよ」
そう言い捨て、望愛は姿を消していった。
「待て! せめて歩いていけ!」
宙にプカプカ浮きながらでは、周りから不信がられる。そのため、地に足をつけて歩くように言うと、望愛は地面に足を付け、歩いていった。




