激おこぷんぷん丸スイッチ
「世界を滅亡させるだって?」
一通り、ノアの話を聞いた玲一は、疑いの眼差しでノアの事を見る。
「あー! 信じてないな!」
そう言い、ノアはポケットからスイッチを取り出した。
「それを押させちゃ!」
涼成が言うと、玲一は、そのスイッチを奪いとった。
「あー! こら! そのスイッチをかえせー!」
そう言い、玲一に向けて飛びついているノアの事を手を伸ばして離した。
頭を押さえられているノアは、手を伸ばすが玲一が高く手を掲げるのに、手を伸ばしてスイッチを取り戻そうとした。手が短くて届かないようで、玲一の持つスイッチに必死になって手を伸ばしていた。
「なんか、イジめているみたいに見えるけど……」
涼成は言う。
「お前のためにやっているんだぞ!」
玲一は言う。これは、涼成に向けて言っている事だ。この、ノアに迷惑をしているというからやっていることなのだ。
「すまん……」
このやりとりを見ていないのか? 熏晴は、玲一を指をさして言う。
「おいおい、イジメているようにしか見えないぞ! この色男が女の子に手をあげるなんてねぇ……」
「うるせぇ、クズハル……」
玲一も、熏晴の言葉に苛立った。だが、その隙をつかれ、ノアは玲一の手からスイッチを奪い返した。
「まったく、こんな不良に取られるなんて……押されないでよかった……」
ノアが言うのに、玲一は、奥歯を噛んだ。
「不良ってな……てめぇ」
「不良でしょう! 人から持ち物を奪うなんて! 最低だ! このスイッチが重要な物だって分かってて奪ったんでしょう?」
「いー!」という感じで玲一に向けて顏を向けるノア。玲一は、それを見て、「ケッ……」といった感じにした。
「地震が起きるんだろう?」
玲一は言う。だが、ノアはニヤリと笑いながら言う。
「ふっふっふ……このスイッチは、激おこプンプン丸スイッチだよ。なんと、火山を噴火させる事ができるのだ!」
「何? その変な名前……」
熏晴が言う。それを聞いて、ノアは「ムキー!」と言った感じで手足をバタバタさせた。
「へんな名前じゃないもん! すっごく怖い名前なんだから!」
「まあまあ……」
それに、涼成はノアが火山を噴火させるそのスイッチを、押されないように、ノアに向けて言った。
だが、やはりクズハルだ。ノアにとって最後の一押しになる言葉を言った。
「全然こわくねぇよ、その名前」
それで、ノアは声にならない怒りの声を上げた。そして、スイッチを押す。
「バカ! 何を言ってんだ!」
「しーらない! しーらない! 火山が爆発しても、私しーらない!」
ノアは、そう言い、学校の中に消えて行った。
「また……一日くらい時間がかかるのか?」
今日の地震の事もあり、火山が爆発するまで時間がかかるのかと思っていた。だが、その三人のすぐ後ろで大きな音が聞こえた。その直後に地震も起こる。
三人が振り返ると、背後で、山が噴火をしていたのだ。
火山の噴火による被害は大きいらしい。山のふもとに住んでいた人たちはすでに避難を終えているが、家屋は火砕流によって破壊され、学校の体育館に避難している人もいる。
『彼らは、帰る家を失い途方にくれいています』
教室に備え付けられているテレビが、今回の噴火の事をそう報道した。
あの、山の噴火の後、全校生徒に、学校の中に避難をするようにと、放送がなった。
それに従い、自分達の教室に避難をすると、不安そうな顔をしている生徒達がいた。
「おいおい……これって、俺たちのせいじゃね……」
こっそりと、小声で熏晴が言う。
「俺たちじゃないだろう、九割はお前のせいだろ」
それに、涼成が言う。
「えー! なんでだよ!」
熏晴が言う。ついさっき、ノアに向けて言った言葉を思い出してみてほしいものである。
「おいおい、あいつって、ウチのクラスだったのか?」
教室の中を見回した玲一が言う。その視線の先には、ノアがいた。
まだ、ホームルームの時間には早いものの、この教室の担任が教室に入ってきた。
「はいはい! 大変な事になりましたね……来てない人は手を挙げて!」
お決まりのギャグを言う担任。居ないのならば手を上げる事などできないはずだ。それに生徒達は、愛想笑いを浮かべた。
「はいはい! ありがとうございます。これで一体感を感じますね」
そう言った、このクラスの担任は、出欠をとる。
このクラスの担任は、今年で二十五になるという、女性の教師である。富山 麗美という名である。
どうも、抜けたところがあり、生徒からも、親しみを込めて『れいちゃん』などと、呼ばれている。
名前が『あ』から始まる生徒達を、呼んでいき『た』の順番になったところで、担任は首をかしげた。
「こうてんばら……って読むのかな……?」
「いいえ! たかまがはらです!」
元気よくそう言うノア。自分の名前を間違えられたというのに、不機嫌な様子など、全く見せず、ニコニコしながらそう言った。
「ああ! すいません! 朝に聞きましたね!」
そう言い仕切り直しをした富山先生。こほん……と咳払いをすると、名前を言いだす。
「高天原 望愛ちゃん」
そう言うと、ノアは元気よく手を上げながら答えた。
「はい!」
そうすると、周囲の女子たちは、ぽかんとした顏をした。
「はい! 今回の事で、みんなに教えるのが遅れましたが、この子は高天原 望愛ちゃんです。初日からこんな大変なことになったけど、みなさん仲良くしてくださいねー」
富山先生がそう言うが、周囲の女子達の受けは悪いようだ。
『キャラ作ってない……?』『ああやればモテるとでも思っているんでしょう』『そうじゃなきゃただのバカだよ……今でも十分バカっぽいけど』
などと噂をされる。望愛は、その様子をキョトンとしながら見ていた。
熏晴は、それを見て言う。
「あの元気っぽさは、なかなかだな。パイオツも大きいみたいだし、チェックに入れとこう」
それを聞いて、涼成はこう思う。
『このクズハル……天変地異の前触れの女だっていうのに……』
だが、熏晴には、そんな事は関係ないのかもしれない。
胸も大きくスタイルもいい望愛はすでに熏晴のチェックリストに入ってしまっている。
『あいつ、下手に望愛の奴を怒らせないといいけど……』
望愛が怒れば、また火山が爆発をする事だろう。それを考えた涼成は、先の事を不安に思いながら熏晴の後ろ姿を見た。




