片付け中
望愛は、ひとしきり熏晴の首を絞めると、とりあえずは気が済んだようだ。
もう今は、コミケの終わりの時。満と熏晴の二人は片付けをしているところであった。
その二人の様子を見ながら、望愛は言う。
「あいつは何だったんだ?」
涼成が望愛に向けて言う。
「逃げられたって言っているでしょう?」
望愛はいろんな会話を、すっとばして言う。
望愛の様子は、あれからとてもおかしい。いつもは天真爛漫で、むしろバカッっぽく見えるくらいだが、今の望愛は明らかに沈んでいる。
「言いたくないならいいが……」
涼成が言う。望愛は涼成から顔を外した。
「メシア……三百年前にこの世界を調査するためにこの世界にやってきた」
望愛は言う。
「その頃に富士山が爆発をしたらしいね。宝永大噴火……って言うらしい……」
サラが言う。
「その噴火が、また起こらないとも分からないのよ。今のままだと……」
凛子が言う。望愛は首を振った。そんなつもりは無いというのを示したのだが、それでも凛子は納得をしていないようだ。
「メシアは、人間の闇の部分を多く見ているの。前にこの世界に降り立ったとき、殺されそうになったって……」
まだ治安の良くなかった時代だ。かどかわしなどの犯罪も多く、それに、巻き込まれたのだろう。
「この世の地獄だったって……」
それを聞くと、涼成も頷く。
「それで……何をしに現れたんだ?」
涼成が聞く。望愛はさらに沈んだ顔をした。
「多分、今度こそ世界を滅亡させるために……」
望愛は言う。メシアは、望愛の持つスイッチを取り上げて、押そうとしたらしい。
今回は免れたが、これから先もある。今度は、スイッチを押されてしまうかもしれいない。
「だけど、お前以外の人間がスイッチを持つと、砂に変わって手元に戻ってくるって……」
「普通にスイッチを奪われただけじゃそうなるけど、それだって完璧じゃないの。他に押す方法があるかもしれない」
望愛は言う。そう言い、さらに沈んでいた望愛は、思案をするようにして、頭を下げた。
「このスイッチは押されるわけにはいかない……」
そう言いながら、望愛は、自分の持っているスイッチを撫でた。
まるで、自分の子供を撫でているような優しい手つきであるように、涼成には思えた。
「しかし、なんであいつは覗きなんかやったんだ?」
空を飛べる人間なんて、望愛とメシアの二人しかいない。望愛は違う。この状況を見るに、覗きの犯人はメシアしか居なくなる。
「別に不思議なことじゃないよ。メシアって、昔から女の子が好きで、男を嫌っているところがあるから」
望愛が言う。
「そうなのか……」
こんな返事は、望んでいなかった。
あまりにも、救われない返事でがっかりした涼成。女の着替えを覗いたのは、単純にメシアの性癖であったのだ。
「わかるわぁ……」
その話を聞いて、「じーん……」といった感じで恍惚の顔をしている満。
「エサをあげちまった……」
涼成は言う。満は、自分の世界に、完全に浸ってしまっている。その妄想の中身は、涼成は、正直聞きたくない。
「いったいどのような妄想をしているんだい?」
涼成がそう思っているところに、熏晴は聞く。
『こいつは……俺がいらないと思っている事ばかりを次々と……』
涼成はそ考えて熏晴の事を睨むが、熏晴はいつも通り、まったく聞いていない。
「そ、れ、は……あの子のちっぱいお胸を揉んであげて……」
これから妄想を話し出す満。
「ちょっと嫌がるけど、大きな抵抗はしないメシアちゃん。『良くなっているんじゃないの?』と優しく語りかけてあげると、小さく頷いてくれるメシアちゃん。そこからフルブースト! 『どう? 優しいでしょう?』そう聞くと、メシアちゃんは黙って頷いてくれるの! そう、そのまま私達はこの世の天国へ!」
それを、聞いた望愛は、耳をふさいで震えていた。
「何よ、きしょい……」
そう、思わず口から言葉が漏れる望愛。
それを、ジトリとした目で眺めている涼成。
「もう気は済みましたかね……?」
涼成がそう聞いてくるが、満はそれを無視して話し続ける。
「それから、メシアちゃんも気を許し始めてくれて、『ねぇ……キスしよっか』って私が聞くと、目を閉じて顔を近づけてくれるの。それから、私も目を閉じて……禁断の愛の始まりよ……」
そう言う満。満から目を逸らし、しゃがんで耳をふさぐ望愛。
「俺がホモの妄想を聞かされているようなもんかな……」
涼成も、その話を聞いて面白いと思うわけもない。満が語るのに顔を逸らし、涼成は望愛と一緒になって望愛の耳をふさいでやった。
「いいねぇ……最高の妄想だよ思わず……」
「それ以上言わせるか!」
熏晴に後ろから掴みかかり、続きの言葉を止めたサラ。
望愛の耳を一緒になって抑えている涼成と望愛。熏晴の次の言葉を止めるために熏晴に掴みかかっていくサラ
この様子は、衆人監視の元に晒されているというのに気づいた凛子。
周囲を見回した凛子は、彼らの行動を必死になってとめるかと思えたが……
「私、関係ないし……」
そう小さく言葉を話した後、他人のふりをして、その場から離れていった。
それに気づき、この場を収めようとしたのは、『こんな目立ったことをしていては、明日の満のブースを立てるのに支障が出るかも知れない』と、考えた熏晴であった。
「何やってるの! 満を止めないと!」
熏晴は、そこで真面目モードになり、涼成と望愛を正気に戻した後、満の事を正気に戻すために肩を揺さぶった。
「満君……やめないか……」
そう熏晴が言い出したのに、涼成も乗っていく。
「満! その妄想は明日にとっておけ!」
涼成も一緒になって言う。
「こうなったら、さっさと眠らせたほうが……」
望愛が言って、ハンマーを出そうとする。
「それも使うな! 下手したら警察ざただぞ!」
こんな周りに人が多い場所で、ハンマーなんかを振り回したら、えらい事になる。涼成がそう言って止めたら、望愛はハンマーをしまった。
熏晴は業を煮やして、満の口を塞いだ。
「やめなって言っているだろう!」
熏晴がそうすると、周りからブーイングが起きた。
「なんだ! もっと聞かせろ!」「ここで寸止めなんて、鬼畜すぎる!」「そうだそうだ! 聞かせろ!」
それから、周囲の人らは、「きーかせろ! きーかせろ!」と言って、コールを初めていった。
「そうだった! こういう場所だった!」
そう言った熏晴は、満から手を離した。
「お好きになさってください。満様……どうぞ続きを……」
そう言うと、満はテーブルの上に座った。
「どうだい、あんたたち、続きを聞きたいかい?」
なんか、どっかの女王様と言わんばかりのポーズをとった満。
「聞きたくねぇよ!」
「言わなくていい!」
涼成と、望愛は、そう言った。だが周りから一斉に声が聞こえた。
「続きをどうぞ!」
その声に押された涼成と望愛。
これを止めるべきだった熏晴は、今望愛の前で四つん這いになり、望愛に背中を踏みつけられていた。
「こういう場所なのか……」
涼成が言う。望愛は人垣を掻き分けて、ここから逃げていき、涼成も、それに続く。
後ろから、歓声が聞こえてくるのを聞きながら、涼成達は、その場から逃げていった。




