メシアと望愛
この追走劇はすぐに終わりを迎えた。望愛が追ってくるのに気づいていた相手が、足を止めたのだ。
ここは建物の屋上。相手がクルリと振り向くと、望愛はその姿に目を細めた。
「あなた……メシアね?」
メシアも望愛も、天界では体を持たない魂だけの存在だった。
だから、この世界に降りるために使っている体の顔だけで、相手を特定することはできない。だが、望愛には、魂の波長を感じることができる。
メシアは、それに反論をするでもなく、それを聞いて、ノアに向けて振り返った。
「そうよ? 何をモタモタしているの? 早くスイッチを押してしまいなさいよ」
メシアは言う。
「メシアは押したくて仕方ないだろうね? この世界を滅亡させるスイッチ……」
望愛はスイッチを取り出した。
ボタンが押せないように、紐を使ってがんじがらめにしており、望愛は何があろうと押す気がないのが分かる。
「人間を憎む気持ちは、分からないでもない……でもそんなの人間の一面にすぎないよ」
「たった一面であるとしても、あんなところがあるなら十分よ」
それに、望愛は目を伏せた。
「彼女の人間嫌いも、こまったものね……」
そう、軽く考えた望愛。その軽い態度に腹を立てたのか? メシアは、望愛に食ってかかっていった。
望愛の手から、スイッチを取り上げる。
「こんな世界ぃぃぃいいい!」
メシアはそう言って、スイッチを押そうとした。だが、そのスイッチは砂のようにサラサラとメシアの手からこぼれていった。
元はスイッチであったその砂は、風に吹かれるようにして望愛の手元にやってきて、スイッチの形に戻った。
「あなたの出る幕じゃないよ」
そのスイッチを持ち、スカートのポケットにスイッチを入れた。
それを憎々しげに見たメシア。
だが、望愛はそれを無視して、建物の屋上から降りていった。
「この世界は滅亡をしないといけない……あんなものを見せられればそう思う……」
メシアは言う。
望愛が地上に降り立っていくところを、見送った。
「おい、望愛、見失ったのか?」
涼成は降りてきた望愛に向けて言う。
「うん……見失った……」
そう言う望愛。涼成はそれを嘘くさいと思っていた。だが、それと同時に、この事は深く聞かないほうがいいとも考えた。
「犯人探しはどうすっかな……? このままじゃ、俺達が何人扱いだぜ……」
涼成がそう聞くのを見ると、望愛は暗い顔で言う。
「そんなの、どうでもいいじゃない……」
普段天真爛漫な望愛がそう言ってくる。今は顔を伏せて何か暗い思案の中にでも沈んでいるようだ。
「そこの君……二人はお知り合いかな?」
コミケのスタッフから、そう声をかけられる。
「そうですが?」
何も答えない望愛に変わり、涼成が答える。
「今、空を飛んでいたね……」
スタッフが、そういうのを聞くと涼成は顔を青ざめさせた。
望愛も、その言葉の意味に気づいたようで、顔を上げた。
「私はやっていませんよ!」
そう言うが、スタッフ達は、完全に信じていない顏をしている。
「ちょっとでいいから、ついてきてくれるかな?」
「それは……」
望愛の周りに、スタッフ達が集まり、望愛の脇を抱えて連行をしていった。
「涼成ではなく、望愛ちゃんだったか……」
腕を組み、「やれやれ……」とでも言いたげな顔をした熏晴が言う。
「あんたに言われると……!」
そう言い、望愛は熏晴にとびかかって行った。
「本当に野蛮人だ! すぐに暴力に訴えようとする……あ、でも望愛たんの胸が当たる……これもいいかも!」
相変わらず、気味の悪い事を言う熏晴。とりあえず、望愛にはそれが聞こえていなようで、熏晴の髪をおもいっきり引っ張っていた。
「しかし涼成、望愛が助かったのは君のおかげだよ」
サラがそう言う。
あれから連行されていった望愛を、涼成は必至で弁護していた。
「望愛は、ずっと俺と一緒にいた」「望愛以外にも飛べる人間はいる」「いろんな人に聞いてみてくれ、目撃している人もいるんだ!」
必至になって、望愛の弁護をした涼成。
スタッフの方も、空を飛んでいおる人間の姿を確認したものもいたらしい。
望愛は、証拠不十分ということで、その場からは解放をされたのだ。
「君がいなきゃ、望愛がここでクズハルのくびをしめている事もなかった……」
サラの言うとおり、望愛は熏晴の首を思いっきり絞めていた。随分苦しそうにしている熏晴だが、それを止める気は、このばにいる全員は起こらなかった。




