サラの、呪いの言葉
サラはぶつぶつと、熏晴に対して呪いの言葉を吐く。そこに放送が流れた。
『大変遺憾ながら、今コスプレイヤーの更衣室で覗きの事件が発生しました。犯人は高校生くらいの子であるようです……』
そこまで流れたところ、その場にいる全員は涼成の事を見た。
「いやいや、俺じゃないって! みんなと一緒にいただろう!」
涼成は首を振りながら言う。だが、サラの目は冷たかった。
「私が涼成と会ったのはついさっきだし……」
「ボクも同じだ。学校でやるだけなら、学校の中で処理できるけど、こういう公共の場所で、やっちゃねぇ……前から思っていたけど、涼成も、ついに逮捕かぁ……」
熏晴もサラも涼成の事を全く信じていなかった。
「違うって! 本当に俺じゃない!」
だがそう言えば言うほど、その場の人たちは、涼成に白い目を向けた。
「こーらあああああぁぁあ!」
そう声が聞こえてくる。涼成が振り返ると、そこにはハンマーを持った望愛がいた。
「覗きは死刑だ!」
「お前! そのハンマーは取り上げられたんじゃ!?」
「下校直前になれば、返してもらえるでしょう!」
教師から、持ち込んだものを取り上げられた経験などない涼成は、その事を知らなかった。
「さて、こいつをどうしようか? 警察に突き出す?」
熏晴はメガネを直しながら言う。真面目ぶって、神妙な顔しているつもりなのだろうが、口元が笑っていた。涼成が悲惨な目に遭っているのを心底喜んでいる感じだ。
「女の敵……裁判所に行っても軽い刑になるだけなんだから、いっその事、海に沈めるのはどう?」
凛子も言う。今の凛子は涼成をゴミを見るような目つきで見ている。特殊な性癖の人間相手なら、ご褒美にもなるのだろうが、良性にとっては怖いだけである。
「殺人の方が罪は重いはずだろう……」
涼成が言うが、それを聞いた凛子も、「けっ……」と言う。
「だから! 誤解だってば!」
そこに、また放送が流れる。
『傷害事件が発生しました。犯人はスタンガンを使って参加者の一人を襲い、逃走をしました。現在逃走中です。犯人は、十代の女の子でコスプレをしているという事です』
それを聞いたとき、みんなの視線は、一斉に望愛に向けられた。
「何をされたかしらないけど、人に電撃を打つのはいかんだろう……」
「電撃を飛ばすのは、本来なら、傷害になるんだよ。使うときは、場所を選んで欲しいね」
涼成と熏晴は、口々に言う。望愛は、そこで手を振った。
「知らない知らない……私は何もやってないよ!」
そう言うが、サラも凛子も望愛がやったと疑っている。
「いいでしょう! 真犯人を捕まえてやる!」
そう望愛は意気込んだのだった。そして、望愛は涼成の事を見て、ニヤリと笑った。
涼成も、犯人探しに協力する事になる。
「本当に、スタンガンの犯人はお前じゃないのか?」
「そっちこそ、覗きの犯人じゃないの?」
涼成と望愛は、そう言い合っていた。
いきなり、犯人を捜すと意気込んだものの、何から手をつけていいか? がまず分からない。
「望愛。更衣室まで行って調べてこいよ」
現場の状況を調べなくては始まらないだろう。
「涼成も一緒に調べなよ……」
拗ねている望愛が言う。
「できるか! 場所は、女子更衣室だぞ! 入った瞬間に捕まるわ!」
ここは、何があろうと、自分で行くわけにはいかない涼成。望愛は、しぶしぶといったかんじで更衣室に向かっていった。
「何から調べよう……?」
望愛は更衣室に入ると「うーん……」と唸った。
「ちょっと、さっきの覗きのことなんだけどさ……」
近くにいた子に聞いてみる望愛。
「ああ……あの話? あの話、嘘じゃないか? って思ってるんだけど……」
その子は窓を指さした。
「あの窓、高さが二メートルくらいあるのよ。あそこから、更衣室を除いていたっていうんだけど……」
そんな高さから、中をのぞけるわけがないという。
「望遠レンズとかを使った覗きじゃないの?」
「いえ、あそこに顔を覗き込ませていたらしいの……」
「脚立でも使ったのかな?」
そうなれば、計画的な犯行という事になる。脚立を持って、やってきたというのだ。
「それに、覗きって、女みたいらしいのよ……」
望愛はそれを聞いて、顔をひきつらせた。
『もしかして、犯人は満なんじゃない?』
そうとも思うが、今、満は熏晴のマンガを売るための売り子をしているはずだ。あそこから動けるはずがない。望愛は「うーん……」と考えた。
身長は二メートルくらい。または、脚立を用意している。そして、犯人は女である。
「とりあえず、心当たりを……」
そう考え、望愛は更衣室から出て行く。そこに、またアナウンスが聞こえてきた。
『覗きの犯人は、宙に浮いたまま移動をするらしいです。どんなトリックを使っているかわかりませんが、宙に浮いて移動をします』
「なにぃ!」
これでは、どう考えても、望愛がやったような感じになってしまう。
望愛は急いで、誤解を解くために涼成のところに向かっていった。
「望愛……潔く認めたらどうだ?」
望愛が涼成のところに戻ると、冷たい目をした涼成が言った。
「本当に何もしてないって! 宙に浮ける人が、私以外にもいるかもしれないじゃん!」
「そうだなー……いるかもしれないな……」
まったく信じていないような様子で、涼成が言う。
「信じてないな! 私は何もやっていないんだから!」
望愛は、癇癪を起こしながら言う。だが、いくらジタバタしても、涼成の疑いの眼差しを、消すことはできない。
「宙に浮く人間の事をみつけてやるからね! 三分待ってなさい!」
望愛が言う。
そう言い、ノアはダッシュでコスプレ広場を駆け回っていった。涼成は、それで、時間を測り始める。どうせ、たった三分で見つけることなんてできないだろう。この国際展示場の広さをナメない方がいい。
「残り二分のところでみつけたぁぁ!」
望愛の声が聞こえてくる。涼成は驚いた。
「本当にもう見つけたのか?」
そう言い、望愛の声がした方に向けてかけて行く。
『あれ……あのミカヤ……』『浮いてる……覗きの犯人?』『なんか追いかけられてるぞ……』などと声が聞こえてきた。
人ごみを掻き分けて、望愛が見える位置にまで行くと。望愛は走って空を飛ぶ人間を追っていた。
「真犯人め! 見つけたぞ!」
そう言い、望愛も空を飛びながら、相手を追っていく。
「どこに行く気だ! 追う方の身にもなってみろ!」
涼成は、階段を駆け上がりながら、二人を見失わないようして、走っていった。




