望愛が聞く話
「まあ、さっきの事で、帳消しにしてあげてもいいかな……自分の方が年長者なんだし、余裕を見せないと……」
そう言い出す千紗。
「私が玲一君の事が好きなのは……」
そう言い出す千紗。望愛は千紗の話を、話半分に聞いていた。
「私、嫌な上司の愛人をさせられているんだ……」
上司に言い寄られ、しぶしぶ愛人として、上司のアフターファイブに付き合っているのだという。
上司の行きつけのスナックに誘われたりしているらしい。
「それに付き合わないと、私はクビになるんだってさ」
仕事をやめるワケにもいかない千紗は、それに付き合って、上司がキャバクラやスナックに行くのに付き合わされる。
「あの上司は、すぐに私の尻に触ろうとするし、言うジョークも、本当に下品! だけどつまんなそうにすると、機嫌を悪くするし、無理やり苦笑いをして返すと、調子に乗るし……」
千紗は、不満を次々にぶちまけていった。とにかく、「バカ」「アホ」などと、罵詈雑言を吐いたあと、千沙は顔を上げて、遠い目をして言う。
「まあ、金払いだけはいいから……ちょっとスナックに付き合っただけで、お小遣いとかもくれるし……そのお小遣いを、どっかで使ってやろうって考えて、ホストクラブに行って、そこで玲一君と会ったのよ」
玲一は家の都合で、お金を稼ぐために、年齢を偽ってホストクラブで働いているのだというのを聞いた。
「玲一君の境遇を見て、わたしもガンバろうって思うの。玲一君って、大変なことをお首にも出さずに、がんばっているんだからね」
幸い金ならある。上司のご機嫌取りをすれば、お小遣いがもらえるのだと考えれば、いままで、嫌なだけだった、上司の接待も、幾分軽い気持ちでやる事ができるようになった。
「そして、上司の方も、私に飽き始めている感じだし……新しく新人に目を付けたようなの」
そう言い、また遠い目をする千紗。
「確かにあいつに付きまとわれるのは嫌だったけど、あいつが、私からほかの子に乗り換えたなら、もうお小遣いももらえないからね。ホストクラブに通えなくなるかも……」
だから、最後の思い出作りに、玲一に今回のコミケを、一緒に参加してくれないか? と聞いてみたのだという。
それまで、自分がオタクである事を玲一に隠していた千紗だが、勇気を振り絞り、玲一に言う。嫌われないか? 笑われないか? を考えて、玲一の事を見るが、玲一はそれを聞いて、千紗の手を握ったのだという。
「一緒にコミケに来てくれるって聞いたときは、涙が出そうになった……」
千紗が言う。玲一は、それを聞いて、千紗の背中から抱きついた。
「こんな人の多いところで……」
千紗は言う。だが玲一は千紗を離さなかった。
「泣きたくなったなら、泣いていいんだぜ」
玲一が言うと、千紗は感極まって泣き始めた。その千紗を、玲一は強く抱きしめた。
「多分、もうお店にはいけないと思う。だけど、私のことは忘れないでね……」
千沙が言うのに、玲一は千紗の事を抱きしめていた。
望愛は、その場にいると、自分が邪魔になるだろうと考えて、二人の事を尻目に、歩いて行った。
涼成は、駐車場の方を探していた。
望愛の事は見えない。
「あれ……なんか変なものが……」
涼成が、うんざりしながら言った。
「すまない通してくれ……」
横入りをしたのを迷惑がられているのを感じる。だからこそ、この輪の中心のいる者の知り合いである事を強調した。
「サラ! お前何をやってんだ!」
涼成が言う。今のサラは、カメラを持ってシャッターを切りまくっている者達の中心で、のりのりでポーズを決めていた。
涼成の事を見ると。サラはピタリと体を止めた。
「こ…これは……」
固まりながら、そう言うサラ。
「なんなんだ……?」
そう言い、サラからの言葉を待つ。だが、待ちきれずに、涼成が口を開いた。
「お前、コスプレにはまってんじゃないか、世界の滅……とにかく人に仕事をやらせておいて、自分は遊び呆けているなんて!」
「これは……あれよ、目立っていれば望愛が私の事を見つけるかも知れないし……」
「別のやつに見つかるのが先だと思うがな……」
涼成達が会話をしていても、お構いなしで、カメラのシャッターが切られる。
その、カメラ小僧達の中に、チビでメガネの男がいた。
「ほら、サラのひたむきさが、熏晴を呼んだ……」
涼成はうんざりしながら言う。
もう、熏晴に付き合うのは御免と、涼成はその場から去っていこうとした。
だが、サラは涼成の手を掴んだ。
「俺が残っても、何もできないだろうが……」
そう言ってこの場から離れようとするが、サラは頑として手を離そうとしなかった。
「何ができるとも分からないが……」
そう言い、涼成は、この場に残った。
「サラたん、どうだい? うちの者の作った衣装は……?」
「不気味なほどにピッタリ……」
「そりゃ、サイズをしっかりと図ったからね」
サラが、嫌悪感をあらわにして言ったものの、それに気付いていないようである熏晴。
「そして、ストレートに言ったら泣き出すんだ『なんでそんな事を言われなきゃならないんだよ!』って……」
その状況を見て、サラの耳元でそう言い出す
「面倒……本当面倒……最悪に面倒……」
何度も『面倒』と言うサラ。それを聞いているのだが、熏晴は自分の事であると思っていないらしい。イライラしている顔のサラを見ても熏晴はなんとも思っていない。
この無神経さと、図太さが、熏晴の長所でもあり、短所でもある。




