おこスイッチ
「あんなに動物達に好かれるなんて、心がきれいな証拠だよ」
うんうん……といった感じで頷いたノアは言う。
「心が綺麗な人間にする行動か?」
頬にできた傷を指さしながら言う涼成。
「それはキミがエッチな事をするから」
さすがにこの話題には、懐柔は見せないらしい。ノアは、涼成の視線を感じながらも、涼成の事は見ずにいった。
「とにかく、きれいな水で傷口を洗ったら?」
そう言うノア。涼成は、それを言われて山を降りていった。
ノアは、山を降りていく涼成に向けて、不思議そうにしていた。今は学校の運動場に向かっている。
「こんなところまで来て、何をするの? 川は向こうだよ。井戸でもあるの?」
「川? 井戸? お前、いつの時代の話を……?」
涼成はそう言いながら、水道の蛇口をひねった。そうすると、当たり前に水が流れてくる。
「水が出た!」
そう言い、驚くノアを見て、涼成はノアを疑いの眼差しで見た。
「お前、水道の蛇口を知らないなんて言わないよな……?」
そう言う涼成。ノアは、首をかしげながら言う。
「私が最後に地球にやってきたのは、二百年前だからね。最近の事情なんて、ほとんど知らないんだ」
ノアが言う言葉を、涼成は理解できなかった。
「二百年前? 最近の事情?」
涼成がノアに向けて質問をするようにして言ったので、ノアは答える。
「私はこの世界に派遣された査問官なのです。二百年前は、メシアが、この世界にやってきたので、今回は私なんだよ」
「意味がわからん……」
「人の言葉を素直に聞けないのは、人の心が荒んでしまった証拠かな?」
「なんだそれは、ワケの分からないこといいだすだけでなく、人の言葉を素直に聞けないとか……何のつもりだ……」
涼成は少し、投げやりな言い方で言った。さっき、ハンマーで殴られたのもあり涼成は、苛立って声を上げた。
「実際に見ないとわからないんだねぇ」
そう言い、ノアはスカートのポケットからスイッチを取り出した。
「これは、おこスイッチだよ!」
「おこ?」
涼成は、聞きなれない言葉に、首をかしげた。
「激おこぷんぷん丸スイッチとムカ着火ファイ……」
「分かった分かった! なんでそのスイッチをそんな名前にしているんだ?」
「天界も、下界の事情に合わせていかないといけないのよ」
「まだちょっと古いみたいだけどな」
胸を張って言うノアに、呆れた涼成が言う。
「それで、そのおこスイッチが何だって言うんだ?」
涼成が言う。それに、「ふふん……」と、得意げにしたノアは言う。
「このスイッチを押すと、震度五の地震を起こせるのよ!」
ノアは得意げに言ったが、涼成はそんな事を信じてはいない。
「震度五って、微妙だな……はったりを言うなら、もっとデカく出ろよ、『マグニチュード10の地震が起きる!』くらいは……」
震度五では、物が倒れたり、くらいはするだろう。だが、今の日本で、その程度の地震が起きたところで、問題ではない。
「信じてないな! 押すよ! 押しちゃうよ!」
涼成に向けて凄みながら言うノア。それに疑いの眼差しを向けた涼成は言う。
「ああ……押してみろよ」
そう言うと「キィィィ!」といった感じで怒ったノア。そして、ノアは、スイッチを押した。
「何も起こらないな……」
涼成はそう言った。
「地震が起こるのは、明日の朝頃に……」
「アホか!」
そんな言葉に騙される奴なんていない。涼成はそう思いながらノアに向けてそう言った。
涼成はあれから、女子部の着替えを覗くのも忘れて帰った。
そして、今は次の日の朝。頬に取り付けた絆創膏を鏡で見ながら、昨日の事をグチッた。
「あそこで、スカートめくりでもやっておけばよかった。こんだけの傷を作られたんだし、これくらいでイーブンだろう……」
相変わらず、物をエロネタを絡ませて語る涼成。それに、何も疑問を感じない涼成は、よほどエロネタで頭が腐っているようである。
ノアの事を思い出す涼成。今思い出しても、涼成のエロ本能を刺激するような姿だった。
胸も大きく、腰まわりもしっかり締まっていて、顔が可愛らしい童顔であるところもポイントが高かった。
「イイ線行っているんだけど、なんかエロさを感じないんだよな」
その事に関して真剣に考える涼成。こんなしょうもない事を考えている涼成は、そのまま家を出た。
そうすると、すでに家の前で待っている幼馴染と出会った。
「よう、玲一、熏晴」
涼成は、その二人に向けて挨拶をする。
玲一は、涼成の友人であるというのが信じられないくらいの美形の男子だ。陸上部に入っていて、今年のインターハイで四位を取るほどの瞬足の持ち主である。
どう考えても、この二人に接点など見いだせないと、いうのは、周囲の女子たちの感想である。だが、それに玲一はこう答えた。
「ダチと一緒にいたいと考えるのは当然。お前らが、特殊な友人関係であると考えるのは勝手だが、俺は付き合いたいやつと、付き合いたように、付き合うだけだ」
その言葉は、学校の女子の間でも有名になるほどの名言だ。この発言を聞き、さらに女子たちの玲一に対する株は上がった。
そして、熏晴の方はといえば、こちらは、涼成とつるむのが、とても良く似合う男子だ。不格好なメガネに低い身長という組み合わせを見るに、見ただけでわかる、明らかなオタクだ。涼成と一緒になって女子の部活動の着替えの覗きをする事も多い。
周囲からも軽く見られており、クズハルなどというあだ名を付けられている。
「やあ涼成。今日はいいビデオが手に入ったんだ」
「またゴミを漁って手に入れたのか?」
「そういう言い方をしないでくれるか。サルベージをしたんだ、ジャンク品の中から」
ふふふ……と、笑いながら手に入れたビデオを見せつけてくる熏晴。
「お前ら……そういうのは大人になってからな……」
玲一が言い出すが、涼成と熏晴の二人は玲一に食ってかかった。
「もうすでに大人の玲一様は、言う事がちがいますねー? いいですか? 黙っていても女子が寄ってくるのが普通だとでも思っているんですかねー? 俺なんて、目が合うと妊娠するとか、近づくとかならず触られるとか女子達に言われていてだねぇ……」
「お前らの普段の行いが悪いからじゃねぇか、モテたいなら、そういう事はやめて……」
玲一はそう言うが、涼成と熏晴はまたしても言った。
「なんですか? スケベな本性をひた隠しにすれば、俺たちでもモテると思っているんですかねぇ? そんな事はないさ、何一つ違いもなく、今と同じなんですよ! 黙っていれば女子が寄ってくる玲一様にはわからないでしょうがね!」
そこまで涼成と熏晴が言うと、さすがに玲一も観念したのか? 「わかったわかった……」と言って話を切り上げた。
「お前ら、昨日のサッカーは見たか?」
「うん、見た見た。残念だったね」
涼成がそう答える。昨日は、玲一の贔屓しているチームが負けてしまったのだ。
「おう! そうなんだよ! あそこでPKを外さなければ勝ててたのに……」
玲一が言う。この話は結構盛り上がり、校庭が見える距離になるまで、その話は続いた。




