望愛を探す涼成
「ちょっと待て……望愛と熏晴を一緒にして大丈夫だったのか?」
涼成はそう考える。
熏晴と望愛を二人きりなんかにしたら、熏晴は、絶対に望愛に何か手を出そうとするだろう。だが、この列から離れたら、最後尾から並び直しになるし、熏晴達がいるところも見当がついていない。
涼成にとっては初めての国際展示場である。この人ごみに揉まれ、道に迷って右往左往するのが、オチだと思われる。
このまま、人の流れに乗って、無難に入っていくのが、正解だろう。
そう思って進んでいくと、人の動きが止まった。
「それでは、右の列の人から進んでくださーい」
そう、運営が言うのが聞こえる。すると、隣の列が先に進んでいくのが見える。そして、その列がいなくなると、奥の方にも、列があるのが見えた。
『もしかして、あっちが先?』
そう、考える涼成。運営がいうのを聞くところ、列は六つに分かれているらしい。
その六つの列が、一つずつ、会場に入っていくらしいのだ。
「一つの列が、入場するのに、五分か、六分かかる、その列が六つもあるのだから、こっちに順番が回ってくるのは……」
涼成がそう考えると、隣の人が言う。
「三十分くらいかかるよ」
その人は、大きなカバンやアタッシュケースを持っていた。
「君、コミケは初めて? 誰か連れはいないの?」
そう聞いてきたその人は言う。
「連れはいるんですけど、出店をするんで、先に行ってしまいましたよ」
普通に、そう返答をする涼成。それを聞いて、その人は言う。
「中に入ったら、上手く会うことなんて絶対できないと思うよ。人がごった返していて、その中から人一人を見つけるなんて、無理無理……」
待ち合わせ場所も聞いていないし、熏晴が出店をする場所なんて、東と書いてあり、わけのわからないアルファベットと数字が書かれているだけだ。
「初心者がそんなメモ一枚で、場所を特定できるとは思わないけど……」
そう言い、頭を抱えるその人。
『しかし、親身になって話を聞いてくれる人だ……』と、涼成は思った。
「ありがとうございます……いろいろ教えてくださって」
そう涼成が礼を言うと、その人は、いきなり顔を赤くした。
「まあなんだ……入場するまでの時間つぶしだよ。入れるのはずっと先になるからね」
なんか恥ずかしがって言っているようである。
『これが、熏晴の言うツンデレってやつか……?』
涼成は、そう考える。
こんな大の大人にそんな事をされても嬉しくは思わない涼成だが、とりあえずは、感謝をしておいた。
「あー……やっぱりここにいたのね涼成君」
そう言いながら、凛子がやってきた。
「何? 君の知り合い?」
その人は言ってくる。
「まあ、知り合いですね、断じて友達とかそういうのではないです」
「何よその言い方……」
涼成が説明をするのに、凛子は不満げに言う。
「まあ、友達では無いっていうのは同感だけどね。知り合い以上、友達未満っていうところかしら?」
凛子が言う。そう言うと、涼成と凛子は特異な関係であるのを感じる。
全ての元凶の望愛。彼女がいなければ、サラにだって会えなかったし、ここでコミケに参加をしている事もなかった。
「さぁ、行くわよ涼成くん……」
そう言い、凛子は、涼成の手を掴んだ。
「ちょっと! 勝手に入っていっていいんですか?」
涼成はそう言う。凛子は、それで言い始めた。
「私たちは、今回のスポンサーよ。先に会場に入っておく事もできるわ」
そう言い、凛子は、首から下げている名札を運営に見せる。そうすると、運営は凛子の事を通してくれるのだ。
「あなたが望愛とはぐれちゃダメじゃない。監視をする人がいなくちゃ」
「それは、ごめん……」
望愛は熏晴にホイホイとついて行ってしまった。早く会場に入れるからといっても、涼成が、望愛と一緒にいないと、何が起こるかわからない。涼成は、望愛を止めていくべきだった。
涼成は、後ろからの声を聞いた。
「なんだよ! あいつはリア充だったのか! 爆発しろ!」
そう言う声を聞きながら、涼成は、会場の中に入っていった。
「カタログは持っている?」
凜子は涼成に向けて、そう聞いた。
「何それ?」
涼成は言う。
「これを買う事が、入場券の変わりになっているのよ。これを買っていないと、会場には入れないわよ」
その事を知らなかった涼成。すぐ近くにカタログを売っているテントを見つけ、そこでカタログを買う。
「二千円もするの!?」
涼成はそれを見て、驚いた。
確かに、電話帳のような厚さで、高そうに見えたが、そこまで値段が張るなんて思ってもいなかった。
「入場料が二千円もするのか……」
「ここに来たら、金銭感覚なんて、完全マヒするわよ」
凜子が言う。玲一が、言っていた事を思い出す。薄い本が五百円も、千円もするのだと言っていた。
「あいつ……お金を無駄使いしたりしないよな……」
軍資金として渡されたお金は、全部望愛が預かっているのだ。
なけなしの小遣いを削って買ったカタログの代金を回収できるだろうか?
それを心配している涼成は、望愛の事を探した。




